君は宝石ペットなんだね、すごーい!

ちびまるフォイ

最高級の宝石ペットが欲しい!!

「えーー! あのダイヤ超かわいいーー!!」


宝石ペットショップでは女の客が甲高い声を上げている。

いったい宝石のなにが可愛いんだかわからない。


「この人間っぽいしぐさがかわいいよねーー!

 宝石だけでキレイなのに、生きてるなんて最高! 女の子はみんな欲しいよねーー!」


宝石がくぅんと寂しそうに鳴く。

また女の客が呼応するように黄色い歓声をあげる。


「女はみんな欲しい、か……」


妙に人間くさい動きをする宝石ペット。

まるで可愛いと思えないが、プレゼントするなら俺が価値を感じなくても問題ない。

キャバクラの花蓮ちゃんとの距離を詰められるなら腎臓だって売ってやる。


「花蓮ちゃん、近々きっと喜んでもらえる宝石ペットをプレゼントするからね」


「本当? 前から欲しかったの! 明智さん大好き~~!」


よしよし。事前演習はばっちりだ。

実際に宝石ペットをプレゼントして「なにこれ」とはならないだろう。


それから、毎日必死に仕事と副業をかけもちして金を稼いだ。

コツコツと貯めた金で宝石ペットショップにやって来た。


「いらっしゃいませ。どの宝石ペットをお買い求めですか?」


「この店で一番人気の宝石ペットをください!」


「でしたら、ダイヤモンドがおすすめです。さっきも買ったお客様がいるくらい大人気です」


「それならきっと喜んでもらえる!」


ダイヤモンドのペットを買ってきれいな包装を済ませてキャバクラへ。


「花蓮ちゃんは?」


「すみません、ただいま接客中ですので少しお待ちください」


いつもならどこの男が俺の花蓮ちゃんを独占してるのかブチ切れるところだが

俺の手元には女心をわしづかみにする特別なプレゼントがある。

宝石ペットにはそこまでの魅力がある。


しばらくすると、上機嫌の花蓮ちゃんがやってきた。


「明智さん、お待たせ~~。ねぇ見て。

 お客さんからダイヤモンドの宝石ペットもらっちゃった♪」


「え゛」


「前からずっと欲しかったのぉ~~! ホント嬉しい!」


「ソ、ソウナンダー……」


俺は背中に隠していたプレゼントを奥に引っ込めた。

家に帰ると渡しそびれた宝石ペットを開けた。


ダイヤモンドは元気に部屋を走り回った。


「みー! みーー!」


「うるせぇな、まったく。こんなのどこがいいんだか」


とにかく、別の客以上の宝石ペットを買うしかない。

それ以外に花蓮ちゃんの気持ちをこっちへ引き寄せる方法はないんだ。


前以上に仕事を必死に取り組んで、副業も、はては人を騙してまで金をつくった。


それでもいっこうに目標金額までたまらない。

遠すぎる道のりを亀のような歩みで進んでいる気がする。


ある日、運送の仕事中にぐらりと気分が悪くなった。


「明智さん!!」


仕事中に過労で倒れて家に戻された。

頭の中にあったのは自分の体調ではなく、休んだことでかせげなくなることだった。


「どうしよう……こうしてるうちにも、どんどん目標が遠ざかる……」


「きゅーーん」


布団で寝ている俺の上に宝石ペットが乗っていた。


「待てよ……こいつを売れば……」


宝石ペットを売れば一気に金は入るだろう。

これまでかせいだ分とあわせればそこそこの金になる。きっと目標にも……。


「みーー……?」


宝石ペットには顔がない。

キラキラと光る光沢があるだけだ。


それでも、この宝石ペットには表情を感じた。


「売れるわけない!! 俺は何を考えていたんだ!」


宝石ペットには興味がない。……はずだった。

でも、今は大事な家族。それを売ることなんてできない。


「きっと、最高の宝石をプレゼントして花蓮ちゃんの気持ちをつかむ!」



 ・

 ・

 ・


キャバクラの店にひとつのプレゼントが届いた。


「花蓮ちゃん、店の前にプレゼントが置いてあったよ?」


「え?」


小さな箱を見て、それが宝石ペットだとすぐにわかった。


「すごい! ルビーの宝石ペット! それもすごい高いやつ!」


「よかったね、花蓮ちゃん。誰からの贈り物?」


「……明智さんって書いてる。もう直接渡してってくれればいいのに!」


最高の宝石ペットをプレゼントしたことで花蓮ちゃんの気持ちが俺に向いたのがわかった。

宝石ペットの原料がなにか知ったらどう思うだろうか。




――血のように赤いルビーをあなたに。   明智

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