第3話 ブラックホールは宇宙のどこに居るのか
『ブラックホールシャドーを求めて』 3/7
■前口上 3■
本編にぜんぜん関係ない前フリで、
しかもHPにアップしてあることの書き直しだけど、
今回は最近読んだコミックについて。ちと長い。。
岩本ナオ『金の国水の国』★
『このマンガがすごい!2017』の1位に選ばれて、
ちょっと気にはなって書店で手に取ってみたものの、
イマイチの匂いでいったんは戻したのだが。
やっぱり気になって、後日、購入して読んだら、
これがまたあまり読んだことがないタイプのマンガで、
どーりで、匂いでわからなかったはずだ。
ちょっと自分で驚いたことには、
読み終わった後は売り払うつもりだったのが、
翌日ぐらいに、再読してしまったという内容で、
結局、手元に残すことにした。
不思議な魅力のある作風だった。
東村アキコ『かくかくしかじか』(全5巻)★
わりと好きな漫画家で、『海月姫』や『ひまわりっ~健一レジェンド~』
などは爆笑しながら読んでいたが。
だいぶ巻数が増えたので、『東京タラレバ娘』(←爆笑しながら読んだ)
をゲットしたついでに、そのうちにと思っていた
自伝マンガ『かくかくしかじか』も合わせてゲットした。
したらば、なんと、この人、
うち(大阪教育大学)も受験して通ってたんだ(驚!!)。
落ちた東京学芸大と進学した金沢美術工芸大学は実名で出ているけど、
なぜだか大阪の某教育大となっていて伏せてはあるものの、
田舎の山の上にある教育大だから、うち一択(笑)。
受験は1993年ぐらいだから、
奈良との県境(田舎)に移転したばっかりぐらいで、
大学全体がまだまだピッカピカだったころかな。
“めっちゃ山ん中”って書いたり(絵もまさにそのとおり)、
あるいは通ったものの進学しなかったから、
気ぃ使って名前を伏せ字にしたんかな。
たぶん、大阪人はそんなん全然気にしなくって、
あの東村アキコがうち(大阪教育大学)受けてたんや!
って自慢すると思うけど。
←とまぁ、実際、自慢するために、わざわざ書いていたりする(笑)。
石黒正数『それでも町は廻っている』16巻★
“終わらない日常”ついに完結(残念)。
よつばと、ほっかほか、と並んで3大癒し系コミックだったけど、
それ町も終わってしまった(泣)。
もっとも、完結16巻は、お話を畳むためもあってか、
やや異常なテンションの勢いが落ちた感は否めないかな。
でも、最後のエピソードはよかった。
それに、公式ガイドブック『廻覧板』が出たからよしとしよー。
さて、いつもはここで1巻から全巻読み直すところだが、
『廻覧板』の年表みて初めてはっきり認識したんだけど、
それ町って、時系列順じゃなかったんだ。
時系列順に読み直そうかと思ったが、年表はタイトルだけ!
うーーん、悩んだが、折角に年表があることだし、
ちょっと(だいぶ)時間が掛かったが、
あらすじと照合して年表に巻数・話数を書き込み、
16巻分を並べて時系列順に読み直すことにした。<BR>
いやいや、これはまじ、やっぱり大傑作だと思う、笑いが止まらん。。
聖悠紀『超人ロック ドラゴンズブラッド』全4巻★
エピソードが完結したので読んだが、ラフノールの外伝エピソードかな。
しかし何よりも、4巻帯のロック50周年というのが驚き。
ほぼリアルタイムで読み続けたのも感無量だ。
同じくらい続いていた『葛飾亀有前派出所』も終わったから、
もしかしたら、『ロック』が最長のマンガかもしれない。
…でもないのか、『ゴルゴ』とか、他にも結構あるみたいだが、
でも少なくとも、ぼくが読み続けている中では最長だな。
作者は1949年生まれの67歳、ここまできたら、
もー20年は頑張ってね、最後まで付き合うから(笑)。
とりあえずは、『鏡の檻』と50周年記念の新シリーズを大期待しとこう。
2017年3月13日
JF
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第三章 ブラックホールは宇宙のどこに居るのか
図版URL
http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/~fukue/POPULAR/17kakuyomu/17kakuyomu03.htm
高校生向けの科学講座や一般向けの講演、あるいは大学の講義などで、宇宙に関する質問を出してもらうと、
・宇宙の始まりはどうなっているのか、宇宙の果てはどうなっているのか
・ブラックホールはどんな天体なのか、ブラックホールはどこにあるのか
・地球以外に生命は存在するのか、宇宙人は居るのか
といったものがトップ3で、これは何十年前から変わりません。ただ、ブラックホールについては、数十年前だと、
・ブラックホールって本当にあるのか
という質問もよく出たのですが、これは最近はあまり出ないようですね。この十数年は、「ブラックホール発見」といった記事が、しばしば新聞やネットで報じられるようになったためかもしれません。何やら怪しげで得体の知れない代物ではあるが、幽霊や妖怪などとは違い、ブラックホールという天体自体は宇宙のどこかに存在しているらしい、というところまでは割と常識的な知識になったのでしょう。
じゃぁ、ブラックホールは実際に宇宙のどこに居るのでしょう。ここではその話をしておきます。結論を言えば、宇宙のそこかしこにウジャウジャと居そうです。
ブラックホール天体はくちょう座X-1
都会では星や星座が見えにくいので、はくちょう座と言ってもピンと来ない人が多いでしょうが、夏の大三角なら見たことがあるでしょう(図3-1)。夏の大三角は星座ではないですが、こと座のベガ(織り姫星)とわし座のアルタイル(彦星)そして、はくちょう座のデネブの3個の一等星が形作っている、夏の夜空でひときわ目立つ図形です。デネブはアラビア語で雌鳥の尾という意味をもっていて、はくちょうの尻尾にあたる星で、はくちょうは夏の大三角の内部に頭を向け羽を広げています。このはくちょうの長い首のなかほどに、一九七一年、はじめて認定されたブラックホール天体、「はくちょう座X-1」が居ます。名前の意味は、はくちょう座領域にあるX線を出している天体の中で、もっとも強いX線を出しているナンバー1の天体という意味です。
図3-1 夏の大三角とはくちょう座(写真)
(藤井 旭さん提供)
一九六〇年代に、太陽以外にもさまざまな天体が強いX線を放射していることがわかり、X線天文学が開幕しました。X線を放射している天体は「宇宙X線源」とか「X線天体」などと呼ばれます。そして、はくちょう座の方向にも強いX線源が存在することが発見され「はくちょう座X-1(Cygnus X-1)」と命名されました。さらに一九七〇年末に打ち上げられたX線天文衛星ウフルや日本の気球観測などによって、一九七一年、はくちょう座X-1の正確な位置が突き止められ、その位置に青白い星が見つかったのです(図3-2)。
図3-2 ブラックホール天体はくちょう座X-1(Cyg X-1)の位置。はくちょうのくちばし(アルビレオ)としっぽ(デネブ)の真ん中へんで、長い首の途中にある。右下に挿入された画像は、可視光で観測したHD226868(大阪教育大学)。
はくちょう座X-1の位置にあったのは、HD226868という名前をもつO9型(高温度星)に分類される9等星でした(図3-2)。この星は約6500光年の距離にある青色超巨星で、表面温度は数万度もある高温の星ですが、太陽の全放射エネルギーの千倍もの強度のX線など出すような天体ではありません。そこで、この青い星から放射される光を精密に分析したところ、水素原子の特徴的なスペクトル線の波長が5・6日の周期で規則的に変動することがわかりました。これは青い星がもう一つの天体のまわりを公転運動していて、その運動に伴うドップラー効果のためだと考えられます。すなわち、青い星が地球に近づくように運動しているときには、観測される光の波長が短くなり、逆に遠ざかる方向に運動しているときには波長が伸びるのです。青い星は別の天体のまわりを周期的に運動しているのです。二つの星がお互いのまわりを回っている天体を連星といいますが、青い星は別の天体と連星になっていたのです。そして、5・6日の周期は連星の公転周期だったのです。こうして、一九七一年の秋には、青い星が連星になっていることがわかりました。
図3-3 X線画像
最新のチャンドラ衛星が撮像したもの。
しかし、青い星の相手の天体は可視光では観測できませんでした。青い星は太陽の三十倍くらいの質量をもつことがわかっていて、連星の運動の解析から、相手の星の質量も太陽の十倍程度は必要なことがわかりました。青い星は9等星として観測できているのに、同じ距離にあって質量が少し小さな相手の天体が可視光で見えないのは、相手の天体が通常の星でないことを意味しています。X線はこの相手の天体から出ているに違いありません(図3-3)。
さらにX線で観測を続けると、はくちょう座X-1からのX線が、0・1秒から0・001秒くらいの非常に短い時間で不規則に変動していることが発見されました(図3-5)。こんな短時間でX線が変動するためには、X線を出している天体の大きさが非常に小さい必要があり、300km以下だと推定されました。
図3-5 はくちょう座X-1のX線時間変動(北本俊二氏の好意による).
変動に周期性はなく,非常に不規則でカオス的な振る舞いをしている.
(難しいようなら削除してもよい)
質量は太陽の十倍もありながら,ふつうの星よりはるかに小さい天体と言えば、地球ぐらいの大きさの白色矮星、半径10kmぐらいの中性子星、そしてブラックホールに限られます。しかし、星の進化理論からは、白色矮星にも中性子星にも質量の上限があって、太陽の質量の1・4倍より重い白色矮星は存在できないことがわかっており、中性子星の質量も太陽の質量の2倍ないし3倍以下ぐらいです。大質量で小さく、しかも白色矮星や中性子星の質量上限をはるかに超える天体。その他、すべての証拠が、はくちょう座X-1は従来知られていた天体とは異質の天体であることを示していました。この天体こそ、提唱されて何十年もの間、理論家の夢想の産物とされたブラックホールに他ならなかったのです。
図3-6 はくちょう座X-1の描像
青い星の外層大気は、ブラックホールの強い重力で吸い寄せられ、ブラックホールに吸い込まれているのですが、連星が公転しているために、ガスはブラックホールへ真っ直ぐには落ちずに、ブラックホールのまわりを渦巻き、ガス円盤となっているのです(図3-6)。このようなガス円盤を「降着円盤(アクリーションディスク)」と呼んでいます。そして第一章で触れたように、ガスは非常に高温となり、ブラックホール近傍では数千万度もの温度に熱せられて、強いX線を放射しているのです。
図3-7 わし座とSS433
ブラックホールジェットSS433
もう一つ、有名なブラックホール天体を紹介しておきましょう。今度はわし座の領域に居るやつです。アラビア語で飛ぶ鷲という意味をもつアルタイルから、わしの左の翼に位置するブラックホール天体「SS433」は、なんと、光速の1/4もの速さの亜光速ジェットをもつことで知られています(図3-7)。
通常の星のスペクトルとは毛色の違うスペクトルをもつ星を「特異星」と呼びます。ステファンソンとサンドリュークが特異星を集めたカタログを作成しており、著者の頭文字からSSカタログと呼ばれていました。一九八四年に、SSカタログの433番目の登録天体、SS433のスペクトルが詳細に調べられ、予想外に奇妙な振る舞いを示すことがわかったのです。
図3-8 水素のスペクトル線
上:水素の放電管から出る水素輝線
下:いろいろな星のスペクトルで、水素の輝線が吸収線になっている
地上では固体物質が多いですが、宇宙でもっとも多い元素は水素で、星々もほとんど水素でできています。水素のスペクトル線は特徴的なパターンがあって、水素の放電管のスペクトルを取ると、その特徴的なパターンをみることができます(図3-8上)。星の場合は、内部からさまざまな波長の連続光が放射されており、その連続光が星の外層部の水素によって吸収を受けます。その結果、放電管では輝線だったものが、星のスペクトルではしばしば吸収線となります。しかし特徴的なパターンは同じなので水素だとわかります(図3-8下)。
このような水素のスペクトル線が、SS433では輝線になっているのですが(そのため特異星に分類されていました)、他にも2本の水素起源と思しきスペクトル線が見つかりました(図3-9)。
図3-9 SS433のスペクトル図。スペクトルをグラフにしたもので、横軸は波長、縦軸は各波長での光の強度になっている。
図3-10 スペクトル線の移動
さらに、それら別の2本のスペクトル線は163日の周期で周期的に波長を変えていたのです(図3-10、図3-11)。このような、波長を変えない輝線と、周期的に波長を変える2本の輝線という3本組みは、他の元素でも存在しました。また後のX線観測で、X線領域の輝線でも発見されています。なお、明るさの周期的な変光から、SS433は約13日の公転周期をもった連星であることもわかりました。
図3-11 移動スペクトル線の時間変化。横軸は日数で、縦軸は移動量を速度に換算したもの
どうしたらこんな不可思議なことが起こるのか、発見当初は研究者も混乱し、さまざまな説が乱立しましたが、最終的には、SS433が歳差運動する2本のジェットを吹き出している、という描像に落ち着きました。すなわち、はくちょう座X-1と同じく、SS433も超巨星とブラックホールからなる連星で、巨星の大気がブラックホールへ吸い込まれ、その過程で、ブラックホール周辺にガス円盤を作っているのでしょう。ただし、はくちょう座X-1と異なって、SS433では、理由はともかく、ガス円盤から垂直な方向に亜光速のジェットが吹き出しているのです。さらに、これも理由はまだはっきりしていないのですが、ガス円盤が約163日の周期でコマの歳差のようは首振り運動をしており、それにともなってジェットの方向も歳差運動しているようです(図3-12)。SS433におけるブラックホールの質量も太陽の十倍くらいと見積もられています。
図3-12 SS433の描像
以上はスペクトル線の分析から推測されたことでしたが、その後の電波観測によって、実際のジェットの詳細な動きも見つかっています。
電波を発している天体(「電波源」とか「電波天体」といいます)を電波で観測する電波天文学が開幕したのは第二次世界大戦後ですが、電波望遠鏡の性能はどんどん向上して、二十世紀末には非常に解像度が上がり、SS433ジェットを分解できるくらいまでになりました。そのような高性能の電波望遠鏡でSS433の中心部を拡大すると、たしかに、中心から電波を発するガスが反対方向に吹き出しているのです。さらに、その吹き出す方向が少しずつ向きを変えていくこともわかります。残念ながら紙面でお見せすることはできないですが、それらの電波画像をパラパラアニメのように並べることで、ムービーも作られています(図3-13)。これは凄いことで、いまではジェットの歳差を動画でみることができる時代なのです!
図3-13 SS433ジェットの電波画像:本来は動画でみることができる!…リンクの画像は動画になっている
講演などでも、最初の方のスペクトルからジェットを推測した話はわかりにくいようですが、最後に、ジェットのムービーを見せると、圧倒的に説得力がありますね(笑)。やはり百聞は一見に如かずです。最近は、時間が足りないときなど、スペクトル線の移動の説明は省くことも多いです(泣)。
ところで、中心部を拡大した電波画像では、ジェットは反対方向に真っ直ぐに飛び出していますが、少し広い範囲の電波画像では、面白い絵になります(図3-14)。ワインのコルクを抜くコルク抜きのような形状に見えることから、そのまま「コークスクリューパターン」と呼ばれています。もっとも、ジェットが渦を巻いて流れているわけではないですね。ジェットのガスそれぞれは、真っ直ぐに飛んでいくのですが、ガスが飛び出す方向が変わっていくために、ある瞬間のスナップショットを撮影すると、ジェットガスの存在する場所が渦巻き状のコークスクリューパターンになっているわけです。
図3-14 コークスクリューパターン
天の川銀河の恒星質量ブラックホール
さて、以上、天の川銀河(この後で詳しく説明します)の中に居る、太陽の十倍程度の質量をもったブラックホール-「恒星質量ブラックホール」と呼びます-について、有名な天体を紹介しました。強いX線を発している恒星質量ブラックホールは、他にも数十個ほど発見されています。おそらくブラックホールだろうと思われるX線天体まで含めると、約五十個ぐらいになるでしょう(図3-15)。
ブラックホールはたった五十個なのでしょうか。いえいえ、そんなことはありません。X線で探査されているのは、太陽に比較的近いものだけですし、そもそもX線で発見するためには、ブラックホールが連星になっており、相手の星からガスを吸い込んでいるなどの状況が必要です。単独のブラックホールや、連星の場合でも相手の星からガスを吸い込んでいないタイプは、見つかっていないものも多いでしょう。実際の数はもっともっと多いでしょう。
大質量の星が進化の最後に超新星爆発を起こしたときに、ブラックホールが形成されます。控えめな見積もりで、超新星の1%程度がブラックホールを残すとすると、銀河系内には約一千万個のブラックホールが存在している勘定になります。もしかしたら、1億個から十億個ぐらいもあるかもしれません。ブラックホールは星の数(の100分の1)ほどあるといっても差し支えないようです。
図3-15 銀河系におけるブラックホールの分布図。天の川銀河を北から眺めた図で、大きな円は銀河系中心(大きめの●)から半径5万光年の領域。四角の枠は太陽系(◎)を中心とした約6万光年四方の領域。黒丸(●)が21世紀初頭までに発見された銀河系内の主なブラックホール。十字がついた●のうち、太陽系に近い方がはくちょう座X-1で、遠い方が特異星SS433。銀河系中心にも太陽の400万倍のブラックホールがある。
銀河と活動銀河
太陽系に“比較的”身近な宇宙に居る恒星質量ブラックホールに対し、多くの銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールの話に移りましょう。
ここで「銀河」というのは、数千億個の星々と大量のガスやチリが集まった巨大な天体システムです。星の数が数百億個の矮小銀河や数兆個にもなる巨大銀河もありますが、典型的な銀河では星の数は一千億個から二千億個ぐらいでしょう。星やガス以外に、星全体の質量の十倍にもおよぶ「ダークマター(暗黒物質)」も存在しています。また形状的には、星やガスが円盤状に集まって回転している「円盤銀河」(しばしば渦巻きのパターンをもつので「渦状銀河」とも呼ばれます)や、丸い球状に集まった「楕円銀河」などがあります。天の川銀河も典型的な渦状銀河の一つです。
たとえば、りょうけん座の方向で2100万光年の距離にある渦状銀河M51は、中口径の望遠鏡でもはっきり写る見事な渦巻きの腕をもつ美しい銀河です(図3-16)。 また有名なアンドロメダ銀河M31は,距離(約230万光年)が近いため約4等級という見かけの明るさをもち、空気の澄んだところなら肉眼でもよくわかります(図3-17)。
図3-16 渦状銀河M51(大阪教育大学)。
伴銀河をしたがえていることから、子持ち銀河のニックネームをもつ。
図3-17 渦状銀河M31(大阪教育大学)。
これらの銀河の中には、銀河の中心がギラギラ輝いていたり、強い電波を放射していたり、中心から細いジェットが伸びているなど、中心核が何らかの活動性を示す銀河があり、「活動銀河」とか「活動銀河核」などと呼ばれています。
たとえば、約5900光年離れたところにある楕円銀河M87は、おとめ座銀河団の中心に位置する巨大な楕円銀河で、非常に強い電波を出しています。それだけでもかなり特異ですが、さらに、光の矢のようにみえるジェットをもっているという、活動銀河の条件をありあまるほど抱えた銀河です(図3-18).
また、ケンタウルス座の楕円銀河NGC5128は、距離が約1400万光年という比較的近い銀河なので、その構造がよく見えます(図3-19)。通常は楕円銀河にはガスは少ないのですが、この銀河は、その中央部分に銀河本体の光を吸収する塵の暗黒帯をもつという摩訶不思議な銀河です。さらに、この銀河も強い電波やX線を放射しているのですが、それらはジェット状の構造を示し、しかもジェットの方向は赤道面の暗黒帯に垂直な方向になっています。デジャブ(既視感)を感じた人もおられるかもしれません。銀河系内の特異星SS433を彷彿とさせますね。
図3-18 楕円銀河M87
図3-19 ケンタウルス座A(NGC5128)
活動銀河は見るからに怪しげですが、活動しているように見えない銀河、たとえばアンドロメダ銀河なども含め、今日、おそらく、ほとんどすべての銀河の中心には、巨大なブラックホールが鎮座していると考えられているのです。
活動銀河の物語は、はくちょう座X-1の発見よりも前の一九六〇年代まで遡ります。
クェーサー3C273の発見
第二次世界大戦後、電波天文学が発達すると共に、天空を組織的に調べて、電波源のカタログを作成する作業が開始されました。そして一九五九年には、イギリスのケンブリッジ大学から、471個の電波源をリストアップした第3ケンブリッジ電波源カタログ、通称、3Cカタログが発表されました。この3Cカタログの273番目の登録天体「3C273」が、一九六二年に可視光の望遠鏡で観測され、13等級の“星”と同定されました(図3-20)。そして一九六二年も押し詰まった十二月、カルテク(カリフォルニア工科大学)のマーチン・シュミットがこの“星”のスペクトルを撮影して、とんでもないことに気づいたのです。
図3-20 クェーサー3C273
星のようにみえるが、細いジェットがある
図3-21 クエーサー3C~273の可視域スペクトル
(竹内 努氏、石井貴子氏の好意による)。水素のスペクトル線の一つ Hα線の実験室における波長は 656.3nm だが、クェーサー3C273のスペクトル上では 760.0nm の波長にずれている(赤方偏移している)。
先にもあったように、天体のスペクトルには水素のスペクトル線がよく見られるのですが、3C273のスペクトルには不可思議な輝線が何本か見つかりました。そして一九六三年の二月になってシュミットは、これらの輝線が水素の出すスペクトル線でよいことに気づいたのです。ただし、通常の波長から16%も長い波長(赤い方)にずれていたのですが(図3-21)。この波長の伸びはドップラー効果で説明できます。しかし、波長が16%も伸びるためには、3C273は光速の16%もの速度で遠ざかっていることを意味します。そしてこの速度が宇宙膨張によるものだとすると、3C273は約25億光年も彼方の天体だということになるのです。クェーサーの発見でした。
すなわち、3C273のように、可視光では星のような点状の天体として見えるものの、スペクトルには強い輝線が存在し、しかもスペクトル線が非常に大きな赤方偏移を示す天体を、今日では「クェーサー」と呼んでいるのです。
3C273のようなクェーサーは、一九六〇年代、続々と発見されていきます。しかし、クェーサーが宇宙の遙か彼方の天体だとすると、問題は、クェーサーが明るすぎることでした。たとえば3C273の場合、見かけの明るさ(13等級)と赤方偏移から見積った距離(約25億光年)から放出しているエネルギーを計算すると、3C273は通常の銀河より百倍も明るく輝いていることがわかりました。またその明るさが数百日で変化することから、輝いている本体は一光年程度のきわめて狭い領域に収まっている必要があります。従来の天体現象で、このような奇妙きてれつなものは知られていませんでした。いったいクェーサーをそんなにも輝かしているのは何でしょう。何がクェーサーのエネルギー源なのでしょうか。
クェーサーの発見は、当時の天文学の常識を揺るがしたわけで、その未知のエネルギー源をめぐっては大激論が闘わされました。
保守的な研究者は、赤方偏移の原因を宇宙膨張以外のものに転嫁し、クェーサーはわれわれの銀河系の近くの天体だと主張しました。近ければそれほど明るくなくてもよいという理屈です。もっともエネルギー源の問題は解決しても、クェーサーの大きな赤方偏移の原因は何なんだという別の問題に突き当りました。
一方、急進的な科学者の中には、クェーサーの中心には、ホワイトホールとか物質・反物質生成の場だとかがあるのだと主張する人もいました。ただし、これらも多くの観測事実を説明できません。
図3-22 ドナルド・リンデン-ベル
このような混沌たる状況の中で、一九六九年、ケンブリッジ大学のリンデン-ベルが、クェーサーのエネルギー源を見事に説明しました(図3-22)。彼は、クェーサーの中心には、超巨大なブラックホールが存在していて、その周囲のガス円盤-降着円盤-が光り輝いているのだと主張したのです。はくちょう座X-1など、“光り輝くブラックホール”の話を読んだ後だと、比較的に、“なるほど”と思われるかもしれませんが、いまからほぼ半世紀も前の当時としては、きわめて斬新なアイデアだったというほかありません。しかし期は熟していたのでしょう。この後、クェーサーのエネルギー源のモデルとして、ブラックホール降着円盤というパラダイムが急速に確立していきます(図3-23)。
図3-23 ブラックホール降着円盤
このリンデン-ベルのブラックホール降着円盤モデルによって、クェーサーの中心にはブラックホールがあるらしいと想像されるようにはなりましたが、質量などがまだ不明で、最初のブラックホール天体は、先に述べたはくちょう座X-1に譲ります。
では、クェーサーなど、銀河中心のブラックホールの質量は、いつごろ量られたのでしょうか。もっとも、多くの観測の積み重ねもあるので、どの段階からとははっきり言いにくい面もあります。先に出てきた電波銀河M87の例を見てみましょう。
活動銀河M87のブラックホール
リンデン-ベルの提案で、銀河の中心には巨大ブラックホールが潜んでいるのではないかとの疑いが出たので、一九七〇年代から一九八〇年代にかけて、多くの研究者が超巨大ブラックホールの観測的な証拠を掴もうと必死になりました。その代表例が奇妙なジェットをもち強い電波を放つ巨大楕円銀河M87です。
超巨大ブラックホールは周囲に強い重力を及ぼすので、銀河中心の星々に対しても重力の影響があるでしょう。具体的には、超巨大ブラックホールがない場合と比べ、超巨大ブラックホールがある場合の方が、星の密度は高いと予想されます。実際、一九七〇年代の末にM87銀河中心の星の分布が精密に測られて、たしかに恒星が異常に密集していることがわかりました。どうやら太陽の数十億倍の超巨大ブラックホールが潜んでいそうです。
超巨大ブラックホールは周囲の恒星分布を歪めるだけではありません。その強い重力で、中心部の星々の運動にも多大な影響を与えるでしょう。具体的には、中心に巨大ブラックホールがなければ、星の運動は中心付近でとくに激しくなったりすることはないですが、中心に巨大なブラックホールがあると、ブラックホールの強い重力によって星の運動は中心付近ほど激しくかき乱されることになります。一九八〇年代に入り、アンドロメダ銀河M31やM31の伴銀河のM32などの中心で、恒星運動の異常が見つかり始めました。これらの銀河は天の川銀河に近いため、中心部を詳しく観測できたのです。たしかにこれらの銀河の中心では、星々が激しく運動しているようです。アンドロメダ銀河M31の中心には太陽の数千万倍の質量が存在していると推測されました。
一九九〇年代に入ると、観測技術の進展によって、超巨大ブラックホールについて、より確実な証拠がつぎつぎと得られるようになりました。たとえば、超巨大ブラックホールのまわりを回転するガスの回転運動が観測され始めたのです。
一九九〇年代前半、ハッブル宇宙望遠鏡の観測チームは、M87銀河の中心部を詳細に観測し、プラズマガスの円盤と円盤の回転運動を検出し、一九九四年に発表しました(図3-24、図3-25)。
図3-24 ハッブル宇宙望遠鏡で撮像した巨大楕円銀河M87中心部の回転ガス円盤(NASA/STScI)。電離水素ガスの放射する光で観測すると、ジェットとガス円盤が浮き彫りになった。
図3-25 M87中心部の回転ガス円盤のスペクトル(NASA/STScI)。円盤上の2カ所からやってくる光がドップラー偏移している。
図3-24は、水素のバルマー輝線近傍の光だけで撮像したM87銀河中心近傍の画像で、星の光は大部分がカットされ、主に電離した水素ガスが写っています。図の右上には中心から吹き出すジェットがくっきりと写っており、左上の拡大画像にはガス円盤が浮き彫りになっています。ジェットは以前から知られていたものですが、活動銀河中心核におけるガス円盤の検出は初めてでした。さらに同じ観測ミッションで、ガス円盤からの光が詳細に分光観測されました(図3-25)。そして中心から約六〇光年離れた2カ所から来る光を分光観測したところ、片側のガスは見かけの視線速度が約500km/sで近づいてきており、もう片側は同じ速度で遠ざかっていることがわかりました。
この速度は円盤ガスの回転運動に伴うものだと解釈するのがもっとも自然です。後は、万有引力の法則から中心の質量を導くことができます。具体的には、M87銀河の中心には太陽の約三十億倍の質量をもったブラックホールが居ることがわかったのです。
いて座Aスターの発見
ほとんどの銀河の中心に巨大ブラックホールが居るならば、われわれの住まう天の川銀河の中心にも居るのでしょうか(図3-26)。やはり居ました。密かに居たのです。この章の最後に、天の川銀河中心のブラックホール発見物語を紹介しておきましょう。
図3-26 天の川の写真(藤井 旭氏提供)
図3-27 銀河系の想像図
天の川銀河(銀河系)は二千億個ぐらいの星々とガスやチリが集まった典型的な渦状銀河です。半径は約5万光年ほどで、太陽系は銀河系の中心から約2万6千光年ぐらいのところに位置しています(図3-27)。夏の夜空を彩る天の川は、太陽系から眺めた天の川の円盤の姿なのです。
もっとも、はくちょう座のところでも書きましたが、都会の空は明るくなり、都会の夜空で天の川を見ることはほとんど不可能です。大学の前期講義でも銀河の話になった回には、必ず、天の川を見たことがあるかどうか尋ねますが、六十人前後の中で数人しか手が上がりません。いまは地元志向で大阪近隣の学生が多いためでしょう。夏休みになったら海や山に行くはずだから、綺麗な星空と天の川ぐらいは見ておくように言いますが、ちゃんと見てるかなぁ(笑)。ぼく自身は理論屋でインドア派なので、星を眺めて過ごす趣味はそれほど強くはないです。実際、太陽や月や星や銀河など、地球を取り巻く宇宙の姿を知らなくても一生を暮らすことはできます。しかし、満天の星空や流星雨や皆既日食など、宇宙の驚異に触れると、人生観が変わる(変わった)こともたしかです。
さて、地球から眺めると、天の川銀河の中心である「銀河系中心」は、いて座の方向にあり、天の川の中でももっとも明るい領域です。銀河系内の星や星団の分布や運動の解析などから、銀河系中心の位置はおおよそ推定されていました。そして電波天文学が開幕してすぐに、いて座の方向から強い電波がきていることがわかり、いて座でもっとも強い電波源という意味で、いて座A電波源と名づけられました。その後、電波望遠鏡の分解能が向上し、一九七〇年代中頃に、銀河系中心は非常に小さな電波源と認定され、星のように小さいという意味で、銀河系中心は「いて座A*(スター)」と名づけられたのです。
図3-28 銀河系中心領域の赤外線画像
このころにはすでに、銀河系中心にも巨大なブラックホールが存在するだろう想像されており、一九八〇年代には、多くの星やガスの運動を解析して、たしかに大きな質量が存在することが推測されましたが、なかなか決め手がありませんでした。天の川の円盤面に存在するガスやチリによって、銀河系中心を可視光で観測することが非常に困難だったためです。天の川の写真を見ると、星の帯の中央に黒い領域がありますが、これは星がないわけではなく、ガスやチリによって遠方の星の光が遮られているのです。
しかし、赤外線で天体を観測できるようになると、状況が大きく変わりました。赤外線は可視光線よりもチリなどを通過しやすい性質があるため、銀河系中心まで見通すことが可能になったのです(図3-28)。たとえば、図は赤外線で撮影した天の川中心部の写真です。IRSは赤外線源の意味で、IRS+番号が振ってあるのは赤外線で光っている天体、おそらくは赤色超巨星だと思われます。また図の中央部分の黒い領域が銀河系中心ですが、とくに光っているものはありません。
重要なのは、銀河系中心そのものは見えなくても、中心領域に存在する星々が見え始めたことです。なぜなら、もし銀河系中心を公転する個々の星の運動が観測されれば、ニュートンの万有引力の法則から、中心の質量が明確に推定できるからです。
実際、一九九〇年代には二つのグループが銀河系中心近傍の星々の運動を測定し始めました。たとえば、一九九五年から、ハワイのマウナケアのケック10m望遠鏡を用いて観測を続けたグループは、百個近くの星の運動を発見し、さらにそのうちの3つの星が中心のまわりを公転運動していることを突き止め、その結果を二〇〇〇年に発表しました。一方、一九九〇年代前半から、チリにあるヨーロッパ南半球天文台のNTT望遠鏡やVLT望遠鏡を用いて、やはり銀河系中心近傍の星の運動を測定していたグループは、二〇〇二年、銀河系中心を巡るS2と名付けられた星の、なんと11年にもわたる長期間の測定データを公表しました(図3-29、図3-30)。
図3-29 銀河系中心いて座Aスターのまわりを軌道運動している星(http://www.astro.ucla.edu/ ~ghez/ gcnat.html)。
図3-30 銀河系中心いて座Aスターのまわりを軌道運動している星S2の軌道(http:// burro.astr.cwru.edu/ Academics/ Astr222/ Galaxy/Center/ sagastar.html)。
これらのデータから、中心の質量は格段の精度で定まり、その後の追加観測などを入れて、現在では、天の川銀河の中心には、太陽の四〇〇万倍の質量をもった巨大ブラックホールが存在すると信じられています。
太陽の四〇〇万倍の質量だと、ブラックホールの半径はどれくらいでしょうか。3km×400万=1200万km、暗算で出せますね。地球と太陽の距離(1天文単位)の10分の1ぐらいもあります。この巨大ブラックホールの姿を観測できるのも、もう少しではないかと期待されています。
ちなみに、赤外線写真で見ての通り、天の川銀河中心のブラックホールは光り輝いてはいません。そういう意味では、ごく常識的な真っ黒なブラックホールのようです。
銀河中心の超巨大ブラックホール
先にも書いたように、現在では、ほぼすべての銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在していると思われています。そして銀河系内の恒星質量ブラックホールの場合と同様、しばしば光り輝いていたり、ジェットを吹き出していたり、ブラックホール活動の有様はよく似ているようにみえます。
ところで、銀河系内の恒星質量ブラックホールは、大質量の星が超新星爆発を起こしたときにできますが、超巨大ブラックホールはどうやってできたのでしょうか。実は、超巨大ブラックホールの形成メカニズムは、まだ完全には解明されていないのです。そこにあるのは間違いないのですが、どうしてそんな代物ができたのかが、まだよくわかりません。ついには、数年前に関連した研究者が集まって「超巨大ブラックホール研究推進連絡会」というものまでできて、超巨大ブラックホールに関する研究が“推進”されるようになったぐらいです。ぼくも一応は“関連研究者”なので参加させてもらっていますが、研究会での活発な議論をみるのは楽しいですね。
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ここまではどちらかというと前置きで、次回からが本編になる。
第4章は明後日からの日本天文学会が終了した週末か連休明けを目処にアップします。
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