第2話 ラッキーちゃんと黒沢くんと和の心。


「やっぱり日本人としては和の心を大事にして行きたいと思うの」



帰宅するなりそう呟いたのは(元)天使で今は黒沢くんのアパートに居候しているラッキーちゃんである。



「いや、お前も俺も日本"人"じゃないだろ。」



悪魔の癖に下界にアパート持ちの黒沢くんがそう返す。



「人間だとか天使だとか悪魔だとか、そんなことで差別してたら、天使と悪魔は同棲できないでしょ。」

「うん、じゃあ出てけよ。」

「それは違うじゃん。むしろこれは天使と悪魔の友好のモデルタイプじゃん。推進して行くべき。」

「いやいや、天使と悪魔に友好いらんでしょ。敵対してなんぼでしょ。」

「えー。まだそんなこと言ってるの?もうあたしここで暮らし始めて1年だよ?」

「お前が出てけって言っても出ていかないんじゃん。」

「まあ、出ていこうにも住む場所がないからね。」



いつものようにしょうもない小競り合いを繰り返す二人。



「というか、和の心を大事にする、ってなんだよ。」

「だから、和の心。日本人としての心。具体的に言うと我慢と忍耐。」

「随分一面的な和の心だな……。だいたいラッキーちゃんが我慢や忍耐とかできるとは思えないんだけど。」

「いやいや私ほど我慢と忍耐でできた人間もいないと思うんだけど?」

「我慢と忍耐でできた人間は、勤務態度不良でクビになったりしないし、お前は人間じゃない。」

「うーん……じゃあまあこれから!これからは和の心を大事にして行くから!」

「はぁ……。なんでまたそんなこと言い出したの?」



いまいち納得していない様子の黒沢くんに、ラッキーちゃんが勝ち誇った様子で語りかける。



「いい?日本人である以上、うまくいかないことがあっても我慢して耐えていかなきゃいけないと思うの。

 だから、バイトにいくら落ちようと、くよくよ悩んだりもせず、働けない日々を耐えていかなきゃいけないと思うの。」

「働けない日々でも、耐える。」



黒沢くんは少し混乱した様子で言葉を噛み締める。

なぜならラッキーちゃんは天使をクビになって1年間、働きたいと言うそぶりを見せもしていなかったのだ。

黒沢くんには言葉の意味が理解できなかった。



「あたしは本当に働きたくて仕方ないけど、受からない以上働けない。だから、我慢。」

「働きたくて仕方がない?」



黒沢くんは根が真面目なので、ラッキーちゃんが単純に成長した可能性を考えている。



「だから黒沢くんも我慢して欲しいの。あたしが我慢している間、黒沢くんも我慢して私の生活費を負担し続けて欲しいの。

 それが、あたし達が大事にするべき、和の心。」

「ああ……何も変わってないのね。」



黒沢くんの受難はまだまだ続きそうだ。

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ラッキーちゃんと黒沢くんと。 安南亭アプリコット @aka_nobody

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