閑話 あいつはどうなった? -Side三井聡司-
くそっ!
まったく思い出すだけで腹が立ってくる。
一緒に飲みに行っていた連れに、この間の文化祭の時の成果をニヤニヤしながら聞かれてしまった。せっかく忘れかけてたのに……。
一緒に可愛いすずちゃんの顔も思い出したが、それはそれだ。あの身長でモデルをやってることが信じられないが、そんな男の物になってるのかと思うと腹が立つ。
腹は立つが、いつもより過激な発言だったかもしれないのは確かだ。まあそこだけは反省だな。
「ただいま」
自宅の玄関をくぐりながら、自室へ行こうとリビングを通り抜けると、珍しく親父がいた。
「おう、おかえり」
思わず立ち止まったせいで親父に声を掛けられる。連れに水を差されたが、ここであいつの顛末を聞いてみれば気分も上がるというものだろう。
「そういえば親父。あいつはどうなったんだ?」
ニヤリと口元を歪め、期待を込めて聞いてみると、新聞を読んでいた親父がピクリと反応する。
「あん?」
「ほら、あいつだよあいつ、背の低い新人モデルだよ」
首だけこっちに向けるが、視線は明後日の方向を向いている。もしかして忘れてんじゃねーだろうな……。
「……あー、彼ね」
ようやく思い出したか。
「確か黒塚誠一郎くんだったかな」
「……うん?」
そうだっけ? 確かに黒かった気はするが、モデルの名前は違ったような。
「黒野一秋という名前でモデルをやってるみたいだがね」
本名は違うんだっけか。覚えてないが、たぶんこいつだろう。
「あぁそいつそいつ」
頷いていると、親父が読んでいた新聞を閉じて、オレへと向き直って急に真面目な表情になる。
「聞くところによると、彼はすずちゃんと結婚するそうだ」
「……はぁ?」
いや待て。意味が分からんぞ。オレが聞きたいのはそういうことじゃないんだが。ってか結婚? まだ学生だろ……?
「なんだそれ?」
意味が分からなくて親父を問い詰めるが、真面目な表情を崩さすに目を細めてオレを見据えてくる。
「きっかけをくれたお前には逆に感謝してると言っていたぞ」
「――はぁっ!?」
なんでそうなる!? っつーかモデル活動できなくしてやる話はどうなったんだ!
「よかったな」
「よくねーよ! 結局あいつはまだモデルやってんのか!?」
なんだよ。親父はオレの味方じゃなかったのか? 今までなんだかんだ言って、頼みは聞いてくれただろ。
「元気に活躍中だな」
「ふざけんな!」
まったくもってオレが求めている答えを返さない親父に、イライラも募っていたせいか怒鳴りつけてしまう。だが、声を荒らげてもまったく動じない親父に、益々イライラは募るばかりだ。
「ふざけてるのはお前の方だ」
そこに冷静な低い声での迫力のある言葉が響く。まったく予想していなくて、思わずオレのイライラが引っ込んでしまう。
「なん……だって?」
「私が『よかったな』と言ったのは間違いでもなんでもない。お前に対して何もなくてよかったなと言ったんだ」
「な……なんだよそれ」
まったくもって親父の言いたいことがわからない。オレに何も起こってなくてよかっただと? まさかあいつが仕返しをするとでも?
「お前が実際に相手に何と言ったかは知らんが……、脅迫は犯罪だぞ?」
「え……」
なんだって……? 犯罪? 一体何が?
「会社を盾に、モデルを続けられなくしてやると脅したそうじゃないか。訴えられなくてよかったな。いいか、金輪際こんなくだらないことをするんじゃないぞ。会社はお前の物じゃないんだ。わかったな」
一気にまくし立てると、親父はリビングを出て二階へと上がって行く。一人取り残されたオレは放心状態だ。
一体何がダメだったんだ? あいつを脅したことか? それとも文化祭に遊びに行ったことか……? すずちゃんを気に入ったことがそもそもの間違いだったのか?
血の気が引いてまっすぐ立っていられずに、ふらふらとダイニングテーブルに両手をつく。今までに何度かやりすぎたこともあったが、それも脅迫に当たるのか……? もしかして、オレは今までとんでもないことを……。
そのままふらふらしながら自室へと向かって歩き出す。親父が向かった先と同じ二階にあるが、そんなことは関係ない。
酔いは完全に冷めていたが今は何も考えたくない。階段を登り切り、まっすぐに自分の部屋へと入ると、そのまま倒れこむようにしてベッドに横になる。
そして仰向けに寝がえりを打って、ボーっと部屋の隅を眺めているうちに意識は闇へと沈んでいくのだった。
翌朝起きた後、完全に酒が抜けていたオレは、それはもうめちゃくちゃ反省したことをここに記しておく。
隣のお姉さんは大学生 m-kawa @m-kawa
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