第45話 確定
あれから元気のなかった水沢さんだったけれど、黒川と霧島に慰められたらしく、いつの間にか元気を取り戻していた。
「黒塚先輩! これ……ど、どうですか!?」
腕を引かれて入ったお店で、アクセサリを自分に付けてみて感想を聞いてくる水沢さん。
いやむしろ元気になりすぎのような気もする。
そしてなぜか早霧と冴島の僕を見る視線に、棘が混じるようになったようにも感じる。
まったくもって意味が分からない。
「えーっと、よく似合ってると思うよ」
このモールに来てから、水沢さんと二人で話す機会が多いとは僕も思うけど、それは僕のせいじゃないよね?
後輩は水沢さんを置いて二人で固まって行動しているし、早霧たちも僕を置いて四人で行動しているし……。
僕が水沢さんの相手をしてあげないとかわいそうだよね。
他の可能性を考えないようにしながら、しょうがないと言い聞かせる。別に水沢さんが嫌ってわけじゃないんだけど。……って誰に言い訳してるんだ。
ふと浮かんだ秋田さんの顔を振り払うように頭を振る。
「えへへ……」
うーん。まぁ、水沢さんは嬉しそうだからまあいいか。
他にもお店をぶらぶらと回ったけれど、黒川が一緒にいるんであれば外せない店がある。
それはもちろん『サフラン』だ。
店内を見回してみるけれど、幸いにして店長さんは不在のようだった。
「黒塚先輩はどういう服が好みですか?」
ホッと胸をなでおろしていると、黒川に貸してもらったのだろうか、雑誌を見せるように開いた水沢さんが僕の隣に来る。
開かれたページに目を落とすと、夏特集として露出が多めの女性用の服がたくさん載っている。
えーっとつまり、聞かれたのは僕自身の着る服の好みじゃなくて、どんな服装の女の子が好きかってことなのかな?
「……うーん、――あ、菜緒ちゃんだ……」
雑誌を眺めているとふと知っている顔があったので思わず呟いてしまう。
と、その声が聞こえたんだろう。
「あ、もしかして、黒塚先輩も菜緒ちゃんのファンなんですか」
「ほほぅ……、それは初耳だねぇ」
「……うん?」
不意に聞こえた声に振り返ると、そこには黒川が仁王立ちしていた。
「前に話したときは黒塚っちはそういうことに興味なさそうだったけど……」
まぁ確かに当時はそうだったけど、今はねぇ……、ご近所さんだし。
だからファンというわけではない。
……わけではないんだけれど。
「えーっと、まぁ、ちょっとね……」
「ほー、そりゃ意外だな」
「だねぇ。黒塚くんって、自分より背の高い女の子はダメだとオレは思ってたけど」
そんな僕の反応に、早霧と冴島まで意外な反応をしてくれる。
……ってちょっと待って!
「いやいや、何ソレ!? いつ僕が背の高い子がダメって言ったよ!?」
「え……、そうなんですか……?」
隣で水沢さんが絶望感あふれる表情でつぶやいている。
「黒塚先輩……」
いやいや、後輩の二人もそんな目で僕を見るのやめてくれない!?
「やー、なんとなくそんな雰囲気を感じ取っただけだが」
悪気などかけらもなさそうに早霧が言うけれど、僕ってそんな雰囲気出してたのかな。
僕たちのやりとりに遊びに来たメンバーが全員集まってくる。
「黒塚くん……、そうだったんですか」
唯一僕と身長の変わらない霧島が、両手を口元に当てて両頬を染めている。
「――えっ?」
「おまっ! ここに来てそんなオチかよ!?」
「はぁっ!? 何言ってるんだよ! 身長なんて気にしてないし!? っていうかオチってなんなのさ!?」
僕の話題ということはわかるけれど、僕がなんのことかよくわからない部分で盛り上がらないで欲しい。
「いやまぁ……、うん、そうだな。スマン」
「そうだよね。小さい子にしか興味がないとか……、ちょっと外聞が悪いもんね」
「ちょっ、その言い方はやめてくれない!?」
背の高い子に興味がないということは、小さい子に興味があるって話になるんだろうけど、すごく誤解されそうな言葉である。
僕の否定に納得はしてくれたみたいだけれど、しょうがないからそういうことにしといてやる的な雰囲気がひしひしと感じられる。
男二人が何か誤解をしているような雰囲気を出しているけれど、決してそんなことはない。
「あ、そうなんだ。……でも一応言っておくけど、私は黒塚くんより身長高いよ?」
「――えっ!?」
そんな爆弾発言に、同じ位置にあるはずの霧島の顔をまじまじと見つめる。
いやいや……そんなはずは……。
確か四月始めにあった健康診断で、えーっと……。
――僕、自分の身長しか暴露してないっ!?
「そ、そんな……」
思わず膝から崩れそうになるけれど、なんとか耐えていると。
「「「あははは!!」」」
いつものメンバーがいたずらが成功したかのように笑いだした。
霧島も声を上げはしないけれど、口元を手で隠して笑っている。
「元気出してください、黒塚先輩。……そんなことでわたしは先輩のこと嫌いになったりしませんから……」
僕を慰めるようにして声を掛けてくれたのは、さっき絶望感あふれる表情をしていた水沢さんだ。
「そうですよ。そんな黒塚先輩の事を好きになってくれる女の子もきっといますから」
その後ろで保澄さんが必死に笑いをこらえながら僕に慰めの言葉をかけてくれている。
「はぁ……」
そんないつもの状態に落ち着いた結果に僕は大きくため息をつくのだった。
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