第46話 一緒に帰りませんか?
「ねぇ黒塚っち。前に後輩に見せたっていう、料理の写真見せてくれない?」
後輩を含めて八人でモールに遊びに行った翌日のお昼休み、購買部で買ったパンの最後の一口を飲み込んだところに、黒川から唐突に写真を見せてくれとお願いされた。
なんだろうと思って声のほうに振り返ると、思い出したかのようにいつものメンバーが僕のところに集まってくる。
「そうそう、俺も気になってたんだよな」
「私も見てみたいです」
「……なんだよ皆して……、まあいいけど」
ポケットからスマホを取り出して、料理の写真が表示されたところで黒川に渡す。
と、なぜか四人が固まって、僕に画面が見えないように写真を観賞しだした。
疑問に思いながらも僕はパンの空き袋を処分するため、教室の隅にあるごみ箱へと向かう。
そしてごみを捨てて自分の席に戻ろうと振り返った時、またもやどこかで見た光景が広がっていた。
「ねぇ……、黒塚クン……」
なんだかどこかで聞いたことのある低い声で、僕の席を囲む冴島が僕を呼ぶ。
「……なにかな?」
自分の席には着かずに冴島の後ろで立ち止まって返事をする。
「これはどういうことかな?」
そう言って僕のスマホの画面を見えるように向けてきた。
……そこに写っていた写真は。
「――おおおぉぉぅ!!」
認識した瞬間にひったくるようにして冴島の手から自分のスマホを取り戻す。
食い入るように自分のスマホを確認するけれど、気のせいではないらしい。
写っている写真の前後の写真も確認してみるけれど、間違いない。
――なんであの時撮ったプリクラの写真が。そこにはもちろん、キスされているように見える写真も含まれるわけで。
「なんで……」
スマホで撮った写真以外の画像が見れるんだ……。
よりにもよってこの四人に見られるなんて……。
ううう……、穴があったら入りたい。
「黒塚っち……、案外モテるんだねぇ」
黒川がしみじみと呟いている。
「というかですね、一人はお隣の秋田さんみたいですけど、もう一人は誰なんでしょうか?」
霧島がもう一人写っている人物に見覚えがないとばかりに首を傾げている。
「そうなんだよなぁ。後輩クンに話を聞いたときはお隣さんと思ったが、どうも違和感があったが……」
「……え? 後輩……?」
恥ずかしさに身もだえているところで聞き捨てならないセリフが耳に入ってしまった。
「後輩だよ。黒塚……、お前、この写真あの三人に見せてただろ?」
早霧がニヤリと口角を釣り上げている。
そういえば料理の写真を見せてって言われて……、スマホを渡したような……。
――まさかっ!
「いやー、さすがにあれは気の毒だよな……」
ハッとした僕の表情を察したのか、早霧が後輩に対して申し訳なさそうな表情になっている。
あああ……、やっぱりあの三人にも、秋田さんと野花さんの写真が見られていたのか……。
「うう……」
がくりと膝をついて項垂れる僕。
そんな僕の肩にポンと手が置かれると。
「で、秋田さんはわかるんだけど、結局もう一人は誰なの? ……もしかして?」
「……そのまさかだよ。あれは野花さん」
「「――マジか!」」
打ちひしがれて小さくなった僕の声もちゃんと届いたようだ。
男二人が驚愕の表情になっているのが手に取るようにわかる声が頭上から降ってきた。
「へぇ……、すごいなぁ。黒塚っちの両隣は美人さんだったのね……」
「あああ……、でもなんで撮ってない画像まで見れるんだよ……」
僕が自分のスマホの挙動に不満をぶつけていると、またもや頭上から回答が降ってきた。
「あははは! 自分で入れたアプリなのに気づいてないの? 黒塚くんが使ってる画像閲覧アプリは、スマホ内の全画像表示するタイプのやつだよ」
「――マジで!?」
あまりのショックに顔を上げて答えをくれた冴島を見上げるけれど、心底楽しそうな表情をしているだけだ。
「まぁ、そのあたりは設定変更できると思うから、やってみればいいんじゃないかな」
慰めの言葉がかけられるけれど、もう手遅れなんだよな……。
僕は恥ずかしさのあまり、床を手のひらで殴りつけることしかできなかった。
結局午後の授業はほとんど頭に入ってこなかった。
ようやく落ち着いてきたとは思うけれど、まだ顔が熱い気がする。
「では解散」
担任の解散の声と共に僕はポケットからスマホを取り出すと、さっそく画像閲覧アプリの設定を変更することにした。
昼休みの間は結局ひたすら頭を抱えて過ごし、五時間目授業後の休憩中も恥ずかしさに悶えているうちに終わってしまったのだ。
今ここで変更しておかないと、後でどうなることやら……。って一番ダメな相手にはもう見られたあとだけど。
「じゃあね、黒塚くん」
いつものメンバーは部活へと消えていく。
唯一部活に入っていない早霧も、用事があると言ってさっさと帰って行った。
僕も帰ろう。
教室を出て昇降口へとたどり着くと、靴を履き替える。
――と。
「黒塚先輩」
足元に向けていた顔を上げると、そこには水沢さんがいた。
……が、昨日やらかしたことを思い出して一瞬で顔が沸騰する。
「あ……、あぁ、水沢さん……」
ぐるぐるする頭で必死に考えて、一瞬謝ろうかとも思ったけれどなんとか思いとどまる。
気まずい思いをさせたことは確かだけれど、そんなことをすればまた気まずい雰囲気になるだけだ。
「今帰りですか?」
「……うん」
なんとなく顔を直視できなくて校門へと続く銀杏並木へと視線を向ける。
「……途中まで一緒に帰りませんか?」
「うん」
とりあえず早く家に帰りたかった僕は、水沢さんの誘いに素直に頷いたのだった。
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