第15話 情報収集

「うわぁ……、どうしよう……」


 あれから家に帰って、僕がが秋田さんにお願いをした結果、どういうことになったのかを思い出して頭を抱えていた。

 えーっと、確か秋田さんは明日、タッパーを返しに来るって言ってたよね?

 そのついでに学校の話をしてくれるっていうことは、つまり玄関で立ち話というわけにはいかないよね?

 だとしたらこの部屋に来るんだよね?


「おお、そうだ……。部屋を片付けないと」


 改めて明日どうなるのかシミュレーションしたことによって、僕が今すべきことが判明した。

 だが、座っていたリビングのソファから立ち上がって周囲を見回すが、これと言って散らかっているわけではないようだ。

 それもそのはず、まだ引っ越して半月ほどしか経っていない。

 うん。でも掃除はしておこうか。


「念のため自分の部屋も……」


 入ってくるとは思わないけれど、一応ね……。

 こっちもあんまり散らかってはいないけれど、念入りに掃除をしておいた。




「そういえば何時ごろ来るんだろうか……」


 翌朝起きて、ダイニングテーブルで朝ご飯を食べながら肝心なことに気が付いた。


「うーん……、まさか朝イチでは来ないよね?」


 とりあえず自分の部屋に戻り、学校でもらった進路希望調査のプリントを鞄から出す。

 話を聞く前に、自分でも調べるところは調べようかと思ったのだ。

 パソコンをつけてブラウザを開くと、近辺の大学を検索してみる。


 僕は理系のクラスだし、やっぱり情報系の大学かなぁ……。

 プログラミングにも興味はあるけど……、でも音楽系も捨てがたい。

 ちらりと横に鎮座しているキーボードを見やる。鍵盤が88ある割と幅広いキーボードだ。これだけ広いと音域が足りなくなる曲はほぼない。

 でもキーボードやピアノを弾くのは好きだけど、将来仕事になるかと考えるとさっぱり実感が沸かない。


 ピンポーン


 パソコンの前で唸っていると、不意にインターホンが鳴った。


「――来た!」


 自室を出て急いで玄関へと向かうと、「はーい」と声を上げてドアを開ける。

 すると予想通り、そこには秋田さんと野花さんの二人がいた。


「おはよう!」


「おはようございます」


 二人ともとても笑顔である。

 秋田さんはスカート姿で、野花さんはパンツルックだ。

 だけど野花さんの髪型がいつもよりかは整っているような気がする。いやまぁ二択で答えろと言われればボサボサ頭と答えるんだけれども。


「あ、おはようございます」


「すっごくおいしかったよコレ!」


「はい、とってもおいしかったですよ」


 そう言って二人ともタッパーを僕に返してくれた。当たり前だけど中身は空だ。お返しに詰めて返すのはやっぱり僕くらいなのか。


「で、学校の話が聞きたいって言ってたけど……」


「あ、はい。ぜひお話を聞かせて欲しいんですけど……、野花さんも大丈夫ですか?」


 僕が直接お願いしたのは秋田さんだけだったので、野花さんにも改めてお願いをしてみるが。


「もちろん大丈夫ですよ」


 笑顔で快諾してもらった。どうやら何も問題ないようだ。


「玄関先で話すのもアレだし、中に入っていいかな?」


 秋田さんがワクワクした表情で僕に尋ねてくる。

 何かすごく楽しみにされている気がするけど、僕の家って何もないよ?


「はい、どうぞ」


 玄関に入ってお客さん用のスリッパを二足出すと、奥のリビングの扉を開ける。

 お姉さんが二人も僕の家に上がるって、何だか緊張する……。

 まぁ、特に何があるわけでもないんだけど……。


「へぇ、思ったより片付いてるねー」


 秋田さんがリビングを見回しながら感想を漏らす。


「すずちゃんの部屋じゃないんだから……」


 そこに野花さんが呆れながらツッコミを入れるが、話しぶりからすると秋田さんの部屋は散らかっているんだろうか。


「適当に座ってください」


 僕はキッチンへ行って冷蔵庫から麦茶を出してくると、コップを三つと一緒にダイニングテーブルに置く。

 そういえば椅子が二つしかないな……。

 自分の部屋から椅子持ってこようかな。


「ちょっと部屋から椅子持ってきますね」


「はーい」


 僕は自分の部屋に戻ると、パソコンデスクの椅子と進路希望調査のプリントを持ってリビングに戻る。

 野花さんがコップに麦茶を注いでいるところだった。「すみません」と言ってお茶を受け取ると、椅子をダイニングテーブルの側に置いて僕も座る。


「実は学校からこんなプリントをもらいまして……」


「ほうほう」


「受験生ですねぇ」


 野花さんもやっぱり懐かしむように呟いている。


「秋田さんと野花さんはどこの大学に通ってるんですか?」


「私たちは藤堂学院大学だよ」


「そうそう。デザイン情報学部デザイン学科だね」


 藤堂学院大学って……、この間いつものメンバーで買い物に行ったモールの裏手にある大学かな?


「へぇ……デザイン学科なんですね」


 デザイン学科って何を勉強するところなんだろう。まぁデザインなんだろうけど、何か想像つかないな。

 秋田さんと野花さんにも具体的に聞いてみたけれど、まだ学校が始まったばっかりだし、デザイン基礎理論と言われてもいまいちピンとこなかった。

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