第13話 カレー

 野花さんにカレーをおすそ分けすると言った翌日。

 朝学校で黒川に、昨日の帰りに起こった僕を非難する一連の出来事の真相を聞いて、一人で頭を抱えてしまったりしたけれど、それ以外は無事に一日を過ごす事ができたと思う。


 というわけでさっそくカレーを作ることにした。

 と言っても今日は食べる予定はしていない。一日置いたカレーはおいしいよね。

 それに野花さんにおすそ分けをするカレーだ。自然と気合が入るのもしょうがないと思う。


 学校が終わって家に帰ると、さっそくカレー作りだ。

 まずは玉ねぎをみじん切りにして、飴色玉ねぎを作る。フライパンにマーガリンを投入すると、みじん切り玉ねぎを一気に流し込む。

 そして超弱火でひたすら炒める。飽きるまで炒める。飴色になっても炒める。


「……お腹空いた」


 時計を見ると、学校から帰ってからもうすぐ三時間が経とうとしていた。

 ……そんなに玉ねぎ炒めてたんだ。

 炒められている玉ねぎを見ているとどうも、「まだまだいける!」っていう気がしてくるから不思議だ。

 でもそろそろやめておこう。


 一旦火を止めてスーパーで買ってきたお弁当を食べると、カレー作り再開だ。

 鶏肉をぶつ切りにして炒めたら、次に人参を入れる。そしてジャガイモと、ここでもう一度玉ねぎを入れる。

 飴色玉ねぎとは別の、具としての玉ねぎである。最後に僕の好きな茄子も入れておく。

 あとは水を入れて、横に置いておいた飴色玉ねぎを投入して煮込む。蓋をして超弱火でさらに煮込む。鶏肉が姿かたちをなくすくらい煮込んだ。


 そして最後にトマトの出番である。

 菜箸を突き刺してガスコンロの火で炙ると、皮が簡単に剥けるのだ。

 皮をむいたトマトをできるだけ細かく切って鍋に投入する。


 最後にカレールウだな。

 ここは二種類のカレールウをミックスすべきだろう。

 昨日買ったはずの袋からカレールウを取り出すが……。


「あ、そうか。普通に作るつもりだったから一種類しか買ってないや……」


 カレーをおすそ分けすることを約束したのは買い物したあとだったからなぁ。

 うーむ……。しかしここにきてカレールウを一種類で妥協するとかできるだろうか。

 飴色玉ねぎを作り、ここまで手間暇かけて調理してきたのだ。ここで妥協なぞできるはずがない。

 そうと決まればここは買いに行くしか選択肢はないということだ。


 時計を確認するともう夜の21時前である。確かスーパーは21時までだったはずだ。急がないとやばい。

 鍋の火を止めると財布を持って家を飛び出した。


 階段に差し掛かったところで、下から誰かが上がってくる足音が聞こえてくる。

 ここは五階なので、秋田さんか野花さんが帰ってきたのかな?

 ……と思ったけれど、まったく見覚えのない人だった。


「こんばんわ」


 挨拶はするが、急いでいたので返事も聞かずに階段を駆け下りる。

 にしてもすごい美人さんだったような気がする……。

 秋田さんか野花さんの友達かな?

 今日は金曜日だし、誰かが泊まりに来たのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、自宅にないカレールウをスーパーで購入すると家に帰るのだった。


「あー、疲れた」


 カレールウを投入すれば、あとは一晩寝かせれば完成だ。


「でも一応味見しておこうかな」


 小皿に出来立てのカレーをよそって一口食べる。


「おおぅ、美味いぞこれは。さすが飴色玉ねぎだね」


 飴色玉ねぎのおかげかどうかは本当のところわからないけれど、少なくとも明日になればさらにおいしくなっているに違いない。

 やりきった僕は、鍋の火を止めて、風呂に入って寝ることにした。

 おやすみなさい。




 翌朝の土曜日。

 起きて顔を洗い、朝ご飯を食べる。

 もちろん朝からカレーはさすがに食べようとは思わないので、そこはパンで済ませる。

 ……冷凍ご飯はあるけれど、さすがに炊きたてのご飯で食べたいよね。


 そうと決まれば今日のお昼ご飯はカレーだな。

 朝から上機嫌でご飯を炊く準備だけ済ませておく。

 そういえば野花さんにもおすそ分けしないとな……。ついでだし、秋田さんにもおすそ分けするか。


 さて、お昼までまだ時間があるな……。

 リビングから寝室へと戻ってくると、時間を潰せそうなものを物色する。

 パソコンと本棚に置いてある本類に、あとは楽器であるキーボードが目についた。

 よし、今日はキーボードでも弾いて時間をつぶすか。


 キーボードの前に座り、電源を入れておもむろに弾き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る