旅人、あるいは旅人たち
紅葉人
第1話
赤の海。
紅葉でできた赤の海を東からの太陽が照らしている。
その海には道がある。木を切り取って道を踏み固めた細く質素な道だ。
道には木漏れ日が溜まり、積もった落ち葉をギザギザに切り抜いている。
その道に一輪の花が咲いていた。どこにでも生えているような花で風に揺られそよそよと凪いでいる。
その道を、緑の四輪駆動車が街中ならクラクションを鳴らされるようなスピードで走っていた。
そしてその花の上を通る。
あまり固くない道をオフロード用のタイヤで地面を掘りながら進む四輪駆動者が通り抜けた後、その花は風でそよそよと凪いでいた。
その車は傷の少ない新車で、後部座席の上に布団が引かれ、ベッドとして使えるようになっている。
本来なら茂みや森の中で目立たなくするための軍用の緑も鮮やかな赤の海では海上の白鳥のように浮いていた。
「とてもきれいな森ですね、運転して無かったらずっと見ていたいです。」
少年にも少女にも見える運転手の男が助手席の女性に話しかけた。
運転手は茶色のズボンに黒いシャツのシャツを着て、腰に緑色のベルトを閉めている。
ベルトにはいくつかのポーチとが付いていて、肩から革製のホルスターを吊っていた。
ホルスターにはステンレス製で木製のグリップのスクイズコッカーが付いた拳銃が入っていた。
その上から緑の、ポケットが4つ着いたジャケットを羽織っている。
背もたれにはホルスターとマガジンポーチが着いたベスト、横合いには30口径ローラーロッキング式のライフルが扉に固定されていた。
それはスコープが付いていて、グリップとストックが一体化した木製のストックに換装され、延長されたセレクターのついたライフルだ。
「そうだな。これだけの紅葉は私も始めてだ。だがアキサ少しスピードを、いやいい。このままゆっくり行こう。」
助手席に座る顔に傷のある、黒と金の入り混じった髪の女が咥えた煙草から紫煙を燻らせて言う。
女は緑のズボンに茶色のシャツを着て同色の上着を羽織っている。腰には3列のウェビングがついた緑色の太いベルト、そこにポーチとナイフ、ホルスターを着け、同色のサスペンダーで吊っていた
ホルスターには9mm口径の角錐の滑り止めを持った拳銃を、横合いにはドラムマガジンのついたアキサと同型のライフルで軽機関銃として使えるように改造されたモデルを、背もたれには短いサスペンダーの着いた3列のウェビングが着いた太いベルトが掛けてあり、そこにドラムマガジン用のポーチが4個ついていた。
「ナターシャ、幾ら何でもこれが最高速度ではありません。これの2倍は出せます。」
アキサが助手席の女、ナターシャに文句を言う
「せっかくの紅葉だし、お前もかなり嬉しそうだからな。」
ナターシャがそう言うとアキサは心底嬉しそうな声で
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。」
緑の四輪駆動車は速度を変えずゆっくりと走っていった。
太陽が真上に上がり、時計の針が秋の高い空を指す頃、車は橋の前に辿り着いた。
橋は小さいながらもしっかりと組まれていて、四輪駆動車が上を通っても大丈夫そうだった。
その橋の向こう、川の向こう岸には城壁と呼んでいいのかわからない、銃どころか弓でも貫けそうな木を組んだ壁。
門は開いていてその横には小屋と二階建ての建物ほどの高さの物見櫓が立っている。
「物見櫓に誰もいませんね。どうしたんでしょうか。」
「実は中では疫病が大流行、国民は全滅。とかかもな。」
そう言いながら上着のポケットから円柱形の小さな箱を取り出し、そのなかに吸っていた煙草を入れた。
「アキサ、呼んでみて、っとその必要はなさそうだな。」
小屋の扉が勢いよく開かれ、灰色の服を着た男が出てきて、車に向かって歩いてくる。
男は左腰に刀を差し、首から木の板を吊るし、右腰に革製の大きなポーチを下げ、銃口から弾を入れる、国によっては骨董品扱いのライフルを背負っていた。
そのライフルを見てアキサが言う。
「あのライフル、子供の頃博物館で見たことあります。確か弾の中に木の板が入っていてそれが弾をライフリングに噛ませるんですよね。」
「ああ、そうだ。ついでに教えとくがあの銃の最大射程は当時の砲の射程と同じくらいで、水平射撃でも当時のマスケット銃の3倍以上の射程がある。」
ナターシャによるアキサへの歴史の授業が終わる頃、男は車に着いた。
男が助手席のドアを叩く。
ナターシャが自分の機関銃をアキサに預け、自分の拳銃のスライドを引き初弾を装填してハンマーを上げた。
そして扉を開ける。
ナターシャが車から降りると男が頭を下げた。
「そうこそ我が国へ。入国をご希望でしょうか?それとも移住でしょうか?。」
男がとても嬉しそうにいう。
その雰囲気にナターシャは自分の拳銃のレバーを動かし、ハンマーをデコッキングすることで答えた。
「入国を希望だ。期間は未定なんだか大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です 。この紙にご自分の名前、予定の欄に未定とお書き下さい。」
男が右腰のポーチから紙と、木でできたペンを取り出して渡す。
ナターシャがありがとうと言い、車に戻る。
紙をアキサに渡し、男に言われたことを要約して教える。
僅かな間、紙と、ペンが擦れる音だけが鳴り、止まった。
アキサが書き終わった紙をナターシャに渡し、ナターシャが男に渡す。
男が自分のポーチに紙を入れ、左腰の刀を左手で抜く。
ナターシャがハンマーを上げ、拳銃を抜く。
そして
「ありがとうございます。これから国を案内させていただくのですが車に乗ってもよろしいでしょうか?」
と、言った。刀は鞘ごと抜かれていた。
アキサは一瞬固まった後、ナターシャにアキサに助手席からベットに改造された後部座席に移るように言われ
「わかりました。」
と不満げな声で言う。
「私達のベッドは私達だけの聖域だろ?」
ナターシャがそういうと、分かりましたとアキサが言う
そして男を助手席に上げる。
助手席に座ると刀を脇に立てかけ
「すいません。 自己紹介が遅れました。私、この国で警備兼旅人の案内役を勤めさせていただいているミヤマです。後、敬語ではなくても大丈夫です。」
そう言ってミヤマが右手を出した。
「こっちもだ。私はナターシャでこっちはアキサだ。よろしく。」
その手をナターシャが掴む。
そして車は門を潜り、入国した。
国の中には木でできた古めかしい家が踏み固めた太い1車線ほどの道の両脇に並び、窓には白い紙が貼られていた。
「誰もいないな。何かあったのか。」
「今日はお祭りでして。私達警備隊の一部隊員と極一部の官営店以外は皆祭りをやっています。
貴方達が来たのは丁度祭りの休憩時間だったんですよ。」
それを聞いてナターシャが言う。
「では宿に荷物を置いて体を洗ったら祭の案内を頼もうかな。」
「それは実にありがたい。見るだけでしたら見張り台が国内でもかなりいい場所なのですかやはり祭は......
ナターシャが言葉を続ける。
「参加してこそ。」
そう言って2人が笑う。
「アキサも聞きたいことあったら聞いときな。」
「何を祝う祭りなんですか?。」
男が答える。
「収穫祭だよ。お米と鮭の。毎年、鮭の大群が川を登ってくるんだ。そこで一年分の鮭を取るのさ。おかげで毎年この時期は鮭がタダ同然で振舞われるよ。」
アキサが身を乗り出して聞く。
「それは本当ですか!?」
ミヤマが笑いながら
「ああ、本当さ。腹のなかに卵を抱えた鮭が大量に上がるからね。今日の夜には鮭が捌かれ始めるから食事処に案内しようか?多分旅人さんだからってタダにしてくれると思うよ。」
と言う。
アキサが目を輝かせ、ナターシャが笑う。
「食べに行くのは体を洗った後だよ。」
「わかってます。汚い格好で人前に出ない。」
それを聞いて頷いた後ナターシャがミヤマに聞く。
「この国では銃の携帯にどのような制約があるんだ?」
「この国はあまり技術が発展してないので銃はごく一部の人間しか持ってません。なので銃に関係する法律がありません。その他の物については宿の部屋に解説が書いてありますので。」
ナターシャがわかった、ありがとうと言う。
「あ、それと宿の横には温泉がありますよ。祭が終わるまでは誰もいないと思うので貸切のようになると思います。」
「それはいいな。少しスピードをあげてもいいか?」
ナターシャが聞き、ミヤマが誰もいないから大丈夫です。と答えた。
国の中の小高い丘、その上に宿としてはあまり大きくない、泊まれて10組ほどの二階建ての宿があった。
「車はこちらにお止めください。」
男がそう言って丘の下、宿の隣の建物を指した
建物は宿と同じくらいの大きさで大きく開けられた入り口の奥には一匹の馬が止まっている。
ナターシャがハンドルを切りその建物へと車を進ませる。
「他にも旅人か何かいるのか?」
男は自信満々にいう
「ええ、行商人さんが。あなた方合わせて祭の季節に3人も来ているんですよ。そう言えば、あなた方はどこで私達の国知りました?」
車が建物に入る。
「知り合いの行商人に景色が良くて飯もうまくて旅人に優しい国があるって聞いてな。半信半疑だったんだが今のところ食事以外は本当のようだ。」
「それを聞いたら我々は食べ物を無料で提供しないといけませんね。」
地面に書かれた白線で区切られた場所へ車をバックで止める。
ナターシャが車から降り、後部座席のドアを開ける。
「アキサ、荷物を出して。」
そう言われアキサはナターシャのY字にジッパーが着いたバックパックとアキサの口が斜めのポケットが着いたバックパックを取り出す。
ナターシャのバックパックをナターシャに渡し、22口径のブルバック式ライフルを取り出してバックパックを背負ってから肩にかけた。
ではまずは宿に案内します。男がそう言って歩き出す。
その後について行き、外にでて宿へと続く石段を登る。
ミヤマが宿の扉を開けた。
それに続いてナターシャ、アキサの順で宿に入る
中は一段低くなった石畳とその上の板張りの床、扉の一直線上には小さなカウンター。両脇には赤と青の布で区切られた通路。壁際にはと階段とテーブル、椅子が並んでおり酒場として使えるようになっていた。
そのカウンターには誰もおらず、短い刀が1本立て掛けてあった。
「すいません。多分祭りを見てるので呼んできますね。椅子に座って待っていてください。」
そう言ってミヤマは階段を登る。
そして
「あ?ミヤマ何言ってやがる。いっくら祭りだっつてもこんな辺鄙な国に昨日の今日で旅人が来るかってんだ。」
かなり気の強そうな女の声がした。
「今日祭りに行けなくて最高ににハッピーなこのアヤメ様に祭の代わりに自分の頭のお祭り具合を見せに来たってか?」
ナターシャが言う。
「随分元気な番頭だ。ここで喧嘩したやつは最高だろうな。」
「そうですね。ですがこういう人がいる店は質が良いことが多いですし楽しみですね。」
「しつけえんだよミヤマ。これが嘘だったら手前愛用の爪楊枝を使いモンにならなくすんぞ。いたら?好きなようにやらせてやるよ。」
そして階段を降りる音が聞こえる。
「好きなようにやらせてくれるそうだが?」
「私はあなたの好きなようににされたいですね。」
そう言ったところで女、アヤメが階段から降りてきた。
長い黒髪で左目に眼帯をしたスタイルの良い女だ。
アヤメはナターシャ達を見ると目を丸くして煙草を落とした。
そして舌打ちをして落とした煙草を拾った。
「おいおいマジかよ。こんな辺鄙な国にデートか?ここにはお洒落ななホテルもカップル向けのデートスポットもないぞ。デートがしたけりゃ回れ右して近隣国へ行ってな。」
ミヤマが諌める。
「いや、いい。元軍人でね敬語で話されるよりそっちの方が馴染みがある。」
ナターシャが笑いながら言う。
「だろ?お連れのお餓鬼様には合わないだろうがな。」
お餓鬼様改めてアキサは
「私もスラムで働いていたので。」
と不満を漏らす
アヤメは笑いながら
「おいおい、こいつがスラム育ち?僕?スラムっていうのは自分の部屋のあだ名かい?」
といい、それをナターシャが止める。
「やめといてやれ。過去には詮索しないってのが旅人に対するマナーだ。」
「悪かったな。餓鬼、名前は?」
「アキサ。」
「そうか、悪かったな。アキサ。お詫びとしてタダで風呂入っていいから許せよ。な、ミヤマ?」
アヤメがミヤマに向けて笑を向ける。
ミヤマが何か言いたげな顔をして、俯く。
「で、風呂に続いてそうな通路が2つあるわけだが、どっちに行けば良い?」
ナターシャが聞き、
「どっちも誰も入ってねえからな、好きな方に入りな。」
アヤメが答えた。
「私は左の赤い方だな。一緒に入るか?」
「とても素晴らしい提案ですが辞めておきます。湯船から出られなくなって湯あたりしてしまうので。」
「私も入るからミヤマ、店番してろ。」
そう言ってアヤメは赤い方に入っていった。
「では私も。」
アキサが青い方に入り、ナターシャは赤い方へと入った。
一人取り残されたミヤマは一人椅子に座り、内ポケットから小さな木製の箱を取り出して中をあけた。
旅人、あるいは旅人たち 紅葉人 @akinohito2033
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。旅人、あるいは旅人たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます