第3章 過去の精算と、リスタート

3章第1話 思い出の場所



 翌日のお昼頃。

 私と谷本さんは、駅近くのファーストフードに来ていた。


「頭いてぇ……」

「どうしたんですか?」

「酒飲まないと寝れなくてさ、今日は二日酔いなんだよね」

「アルコール中毒……」

「違う」


 少し食い気味に否定された。


「寝れないなら睡眠薬……」

「全然効かない」


 こちらも少し食い気味で否定された。


「彼女さんのことが原因ですか?」


 昨日ぶっちゃけられた分、少し踏み込んで聞くことができるようになった。

 いいか悪いかはわからないけど、遠慮はなくなってきたのかもしれない。


「なのかなー……やっとまとまった休みが取れたからって、お盆休み入ったその日に彼女に会いたいって連絡しても会えなくてさ。

そのときから寝付きが悪かったんだけど、2週間前に死んだことを彼女の両親に聞かされてからはもっと寝れなくなっちゃって。

病院で睡眠薬もらったんだけど、効いたのは初日くらいだったよ。

これなら、アルコールで酔いつぶれた方が早く寝れる」


 それは谷本さんも同じだったようで、遠慮なくぶっちゃけられてしまった。



 どう声をかけたらいいんだろう。

 何も言えなくて、困ってしまう。



「だから、このまま京子に会えなくなったことで寝れなくて辛く苦しいのが続くなら、死のうと思ったんだよ。

最近は感覚がマヒしたのか、会えなくて辛いというより寝れなくて辛い」

「今日、大丈夫ですか?」

「二日酔いが辛いだけだから、平気。

ただ、ごめんなー。

もう1回だけ水飲んでくる……」


 私は、『頭痛い』と言いながら店員さんに水をもらいに行く谷本さんを見送った。



 * * *



「結構大きいですよね、ここ」

「俺もそう思う。

大きいだけあって人口密度が低くて、静かに感じるから俺はここが好きなんだ」

「人が多いところ、苦手なんですか?」

「正直に言うと、嫌い」

「私も少し苦手です」


 森林公園の入口でカメラの準備をしながら、森林公園について話をする。


「思い出の場所は、もっと奥のところにあるんだけど、まずはこの辺の写真を撮ろうか」

「はい」


何度か大学のサークル活動で来たことはあるけど、奥まで行ったことがない。

どんなところなんだろう。


「ついたよ、ここだ」

「ここが公園の中なんて信じられないです!」

「奥から繋がる道からここに来ることができるけど、整備されていない道だし、本当はここは公園の外なのかもしれない。

私有地ってわけじゃなさそうだから俺は気にしたことないけど、ここは人の手が入らない自然のままでずっとあり続けている。

だから、俺はここが好きなんだよ」


 好きなもののことだからだろうか。

 谷本さんがいつもよりもおしゃべりだ。


「子供の時からの遊び場だったんだ、ここ。

京子とも子供の時から俺と一緒によく来ていた」

「二人は幼馴染みだったんですか?」

「そうだよ。

京子は妹みたいな友達みたいな付き合いだった。

最後に来たのは、写真を撮った……京子が死ぬ1ヶ月前だ」


 思い出すのも辛そうで、谷本さんは顔をしかめている。

 泣くのを堪えているのか、声が少しだけ鼻声だった。


 昨日見せてもらった写真には、この滝と谷本さんしか写っていなかった。

 それなら、この写真を撮ったのは彼女さんだよね。

 何か、意味があるのかな……?

 彼女さんは何を伝えたかったんだろう……。


「彼女さんは、何か言っていましたか?」

「え?」

「何か……伝えたかったのかなって思うんです」

「俺に?」

「なんとなく、そんな気がします」



 少しだけ考えるかのように滝を見つめる谷本さんの邪魔をしないように、私も滝を見つめることにした。

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