2章第3話 彼が綺麗だと思った理由
谷本さんは、カメラが入ってるポーチから、一枚の写真を取り出し、写真を見ながら呟くように答えた。
「『死ぬために』じゃなくて『生きるために』だけど、思い出巡りはしようかなと思ってるよ。
京子が死んだとき、テーブルの上にあったこの写真も気になるし」
その写真……何が写ってるんだろう?
「ああ、佐藤さんも見ていいよ」
谷本さんが持つ写真が気になっていることに気づいたのか、谷本さんは、私にその写真を手渡してくれた。
谷本さんから受け取った写真を見ると、小さな滝が移っている森の中のようだった。
写真には、谷本さんが写っていた。
「思い出の場所は他にもあるし、写真もいっぱい撮った。
でも、テーブルの上にあったのは、この一枚だけなんだ。
事件性もなかったから、この写真が京子の遺書みたいなものだから、余計に気になってるんだ」
少しだけ何かを考えるかのように間があいて、谷本さんは話を続けた。
「俺は一人でも行くけど、良かったら佐藤さんにも来てほしい」
「え?」
私も?
どうして?
「生きるために思い出巡りとはいえ、どうせなら前向きな目的が欲しいんだ。
写真撮影をする目的があれば、辛くないかもしれない。
もちろん付き合わせてしまうから、その分のお礼はするよ」
どうしてだろう?
私は谷本さんに『勝手なことばかり言わないで!』って怒ってもいいはずなんだけど、怒る気持ちにはなれない。
それどころか、『申し訳ない』と言う谷本さんに対してもやもやとしてしまう。
ああ、そういうことか。
「お礼はいらないです」
「え?」
わかった。
私は『お礼をされること』と思ってないから、納得していないのか。
「私は今日のことは趣味友達として谷本さんと一緒に行動していただけだから。
明日も趣味友達として一緒に行くんだし、お礼はいりません。
それって『お礼をされること』じゃないですよね?」
しばらく間があいて。
「そうだな。趣味友達の佐藤さんに対して失礼なことばかりしてるな、俺。
ごめんな」
「はい」
谷本さんが言ったその謝罪は素直に受け取れることができた。
「明日、写真を撮りに一緒に、この近くにある森林公園に行こう。
俺の思い出の場所も森林公園にあるんだ。ついででいいから付き合ってほしい」
「わかりました。 私で良ければ、一緒に行きましょう!」
谷本さんは、ほっとした様子で笑った。
その笑顔がどこか儚げで、私はそれがとても綺麗に見えた。
私はそこで気づいた。
谷本さんのことを綺麗だと思ったのは、どこか【消えそうで儚い】と思ったからだったんだろう。
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