第2章 有意義な夜と告白

2章第1話 甘い夜よりは有意義な夜がいい



 午前9時半過ぎ。

 私は駅近くの家電量販店にいた。


 待ち合わせ時間の前にSDカードを買うためだ。


 開店と同時に来たので、お客さんはまだ少ない。

 待ち合わせまで少し時間あるし、少しはゆっくり買い物できるかな。


 SDカード売り場で、愛用しているメーカーで必要な容量のSDカードを手に取る。

 一応、2枚買おうかな。


 会計して駅前に向かったら、ちょうどいいかも。

 私はレジに向かおうと振り向いた。


「さ、佐藤さん?」

「え? た、谷本さん? 私、待ち合わせ場所間違えました!?」



 10時に駅前で待ち合わせしているはずの谷本さんが私の目の前にいた。



「早く起きて暇だなぁと思ってたら、佐藤さんがSDカード欲しいって言ってたの思い出して。

せっかくだからプレゼントしようかなぁと思って来てみたら、佐藤さんにバッタリ会うなんてね」

「待ち合わせ場所、間違えたかなと思いました……」

「びっくりしちゃって、ごめんね」

「びっくりはしましたけど、謝らなくていいですよ! 会計してくるので、ちょっと待っててくださいね!」

「本当に俺が買おうか?」

「い、いいですよ! いってきます!」

「慌てないでね」



 少し苦笑されているのを感じる。

 少し、子供っぽかったかなぁ……。



 私たちは、駅から少し離れたところにある河原に来ていた。

 私のお気に入りの場所。


「そういえば、今日ここで花火大会あるよね」

「え? そうでしたっけ?」

「ほら、あそこ」


 谷本さんが、少し何かを探すように辺りを見渡して、近くにあった電柱を指差した。

 そこに貼ってあるポスターには確かにここで夜花火大会をやると書かれていた。


「本当だ」

「俺でよかったら、花火大会行く?」


 花火大会、先輩と行きたかったなぁ。

 でも、今となっては叶わぬ夢。


「花火のいい撮り方も教えるよ?」

「行きます!」


 恋人同士で少し甘い夜もとても魅力的だけど。

 今の私には、趣味友達と写真を撮りながら過ごす夜の方がすごく魅力的に感じた。



 * * *



一度、浴衣に着替えて待ち合わせることになったので、それぞれ一旦家に帰った。

再び駅前で待ち合わせて、河原にもう一度行く。


夜の河原なのに人がいっぱいで。

照明も沢山用意されていて、暗く感じることはなかった。

私たちが来たときには、ちょうど花火大会が始まるところで、大きな花火が打ち上がった。


「こんなに凄いんですね!」

「凄いって、花火? 人?」

「どっちも!」


 少し離れたこの位置でも人がいっぱいいるくらい、大勢の人がいる。

 中には、私や谷本さんと同じように浴衣着ている人も沢山いた。


 人の混雑具合もすごいけど、前の方に行かなくても満足できるくらい花火が大きくて、とにかく迫力がすごい。


「毎年このくらいの時期にやってるんだから、もうちょっとくらい人少なくてもいいよな」

「谷本さんは、ここに住んで長いんですか?」

「俺は生まれも育ちもここだよ」

「私は大学からこっちなので、初めてなんです!」

「そかそか。

ここの花火大会は毎年やってて、それなりに大きいらしいよ?」

「地元の倍の規模です! 私の地元が田舎だというのもありますけど」

「へぇ」


 私の田舎の話を少ししながら、花火を少し見た後、カメラを取り出す。

 撮り方を聞きながら撮っていたら、あっという間に花火大会が終わっていた。

 人もいなくなって、河原も昼間みたいに静けさを取り戻しつつあった。

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