私は、わかってる。

鷹名

第1話 はじめまして


私は、わかってる。







ここで立ち上がればみんなが私をみることを。







日付だけ上にちょこんと書いたノートの上で

いつの間にかまた寝ていた。


私は、わかってる。


このまま寝ていたら成績が悪くなることなんて。

黒板はもう反面は書き終えている。

「帰りたい」

その衝動が私を不意に襲ってきた。

いや襲ってきたというのは大げさな表現かもしれない。

でもこの時に相応しい言葉は私にはわからない。


ただなんとなくで過ごしてきた学校生活。

二年も半ばを向かえ先生たちは「進路」「進路」と口を揃えて言う。


私は、わかってる。


今のうちに準備したほうが自分のためになることなんて。

先生たちは色んな生徒を見てきて

その中の敗残者もみてきたこと。


わかっている所で明確に進路が決まっている私ではない。


そろそろ帰りたい。

授業が終わったら出ようとも考えたが

今すぐ帰りたい。


だけど人の目を気にする私。

ぱっとみて七人は寝ているが

ここで立ち上がればみんなが私をみるだろう。

そして親切なのか上辺だけなのか知らないが

隣の席の女の子は「大丈夫?」と声をかけるだろう。


それこそ上辺だけの友達、美和。

一人になりたくなくてクラス替えしてすぐに私を捕まえた。

この五ヶ月間、周りから私と美和は親友だと思われる「雰囲気」を作ってきただろう。


その美和もきっと上辺だけの「大丈夫?」のラインがくるだろう。


私はわかってる。


でもどうやら私の中で「帰りたいメーター」が最高潮に達しそう。

先生も意味のわからぬ海外での経験談を長く長く話し終え、

またチョークを手に取る。


今だ。

スッとなるべく自分の気配をなくしたつもりで先生に近づく。




私は、わかってる。

視線を感じる。そんなの気にしないというあくまでも振りをして

私より顔一個分ぐらいの先生に声をかけた。


「体調悪いので、保健室行きます」



教室のドアを閉めるまで

ずっと視線を感じたままだった。





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私は、わかってる。 鷹名 @Tknchocosj31

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