第14話 いけるとこまで

 父が会社を興して、息子の俺が継いだ足場屋。

 数人だった従業員も何十人となり、事務員までいる。

 よくここまできたな、とつくづく思う。

 仕事が思うよに取れなかったり、事故で外されたり、軌道にのったと思ったらリーマンショック。でこぼこ道をそれでもなんとか歩んできた。

 すべては従業員のおかげだ。

 この業界はいつでも人手不足。雇っても、なかなか続かないのが現状だ。休みは少ないし、体力も必要。過酷な天候にも耐え、重い資材を毎日運ぶ。誰にでもできる仕事ではない。本当に貴重な存在だからこそ、従業員は宝で、大事にしたいと常々思う。

 現場は昔と比べて安全に厳しく、細かくなった。免許だ書類だ看板だと、作業以外でも煩わされる。でも、なんとかみんなでついてい行きたい。時代に乗って、新しい足場屋になっていきたい。古い足場屋のイメージは取り去って、明るい新しい足場屋を目指したい。

 日々変化していくための努力なら惜しまない。それが社長の役割だと思ってる。

 飲み会くらい、いくらでもしてやる。

 肉だって満足いくまで食べさせてやる。

 会社内の喧嘩ぐらい、多めにみてやる。

 金に困っているなら助けるし、家を出たいと言うなら寮に入れてやる。

 過去なんてどうでもいい。仕事を精一杯やってくれるなら、そのやる気を買ってやる。

 終身雇用だってしてやる。働きたいだけ働けばいい。

 ずっと安心して暮らしていけるように会社を安定させ、従業員を守り、いけるところまで、全員でいってみたい。

 それが社長である自分の願いだ。


「じゃあ。営業連絡を始めるから、お前ら聞いとけよ。じゃあ金山さんから」

「え~、さっき事故報告書でもあったけど、僕の現場で瓦を割る事故がありました。でもその後の処理が早く、職人にも好感がもてた、とお施主さんからのお礼の手紙を、監督から預かってきました。タイムカードのところにおいておくので、みんな読んでみてください。事故が無いに越したことはないけど、それでも起きてしまった場合、対応でこんなにも違うのか、とまじまじ思いました。現場での判断は時に大変だと思うけど、より良い判断ができるようになっていけたらいいと思います。今回褒められたのは陸斗君です。ささやかですが、僕からクオカードを進呈したいと思います。前に出てくれるかな」

「はい」

「今回は、本当に素晴らしい対応でした。僕も監督から褒められて気分が良かったし、また次もあの子がいいって言われてうれしかったです。これからも現場をお願いします」

「ありがとうございます」

「じゃ、みんなで拍手しよう。陸斗には社長直々にお礼もするよ。内容はお楽しみで」

「はい」

「よし、次は原」

「監督とのやり取りについて、もう一回確認しておきたい。現場で監督に何か言われとき、現場監理から聞いてないことは、確認してほしい。その場で安請け合いして仕事をしないように。今回それでトラブルになった。最終的には言った言わない、のどうしようもないとこにいきついた。今更だが、報連相はしっかり頼む。俺は、お前たちの労働力を安く売るのは嫌だ。ちょっとしたことでも、作業をするのは現場にいるお前らだからな。ちゃんと仕事として作業をして欲しいから、監督から何か頼まれても、まず俺ら現場監理に確認してほしい」

「俺からも、これは言わせて欲しい。サービスでやることもあるけど、それは持ちつ持たれずの部分で、毎回ではないから。必ず予算があって、工期があって、それに合わせて仕事をしている。何かあれば、それは追加作業になる。そうなれば、そこには金が発生するもんなんだ。お前たちだけ追加で作業して、お金がもらえないじゃ理不尽だからな。しっかり連絡して欲しい。難しい監督なら、社長に電話しますから、って言って、俺に振ってくれて構わないから」

「社長!」

「なんだ、慎吾」

「監督からの相談には乗ってもいいんですよね」

「それはもちろんだ。監督も完璧じゃないし、むしろ現場のことはお前たちの方がわかって。相談にはのってあげていいし、気になることも監督に聞いてくれていい。そういう部分は職長に一任してる」

「はい。わかりました」

「じゃあ、原しめて」

「つーことで、現場の連絡の徹底をお願いします。言うことを聞かない監督なら、俺にも電話かけてくれていいから。よろしく」

「次、祥」

「先日、先行足場に手こずって、足場をやり直したことがありました。まずは、その時に応援にきてくれた人、ありがとうございます。その日中に作業が終わったのは応援にきてくれた人のおかげです。そして、足場をやり直したことについて。それを今どうこう言うつもりはありません。結果オーライです。でも、今回のような失敗が減ればいいと思っていますし、先行足場が苦手な人も、能力を高めれたら、と思いました。会社の信用や実力は、職人の力に直結している部分があります。下がどんどん力をつけて、誰が組んでも素晴らしい足場になるといいと思います。そこで、月に数回、勉強会を開催しようと、社長と考えました。参加は自由ですが、先生役は職長クラスの職人に順番にやって欲しいと思います。今更聞けないことも、そこでもう一度確認して、全員の実力アップにつながったら、と思っています」

「祥の言ってることは俺も正しいと思う。向き不向きがあるかもしれないが、個々の力が上がると仕事を受けやすいし、回しやすい。ひいては会社のイメージアップにもつながると思う。どうだろう。直樹はどう思う?」

「いいと思います。俺も図面みるの苦手だし、そういうの聞きたい」

「陸斗は?」

「いいと思います。参加自由なら、なおのこと。強制されるとやれないので」

「じゃあ、今月からやってみるか、祥」

「そうですね。では、また決まり次第連絡しますが、職長の方は相談に乗ってください。以上です」

「次は事務員さんからの連絡を金山さんお願いします」

「はい。え~まず、トイレ掃除は自分たちでしてください。汚すぎてもう嫌です。事務所や土場、駐車場に置きっぱなしの物は即捨てます。提出物はできるだけきれいな字で書いてください。読めないものは再提出にします。タイムカードの記入漏れが多いです。特にブタ! 何回も言わせるな! 次やったら給料ないぞ! だそうです」

「げ~なんで俺だけ名指し。ぜって~由紀ねえさんだし。その言葉」

「ははは、厳しいな。だが間違ったことは言ってない。みんな、事務員さんの言うことも、できる限り聞くように。わかったか、晃!」

「また俺だけ~」

「最後は俺から。今月からはさらに暑くなるだろうから、水分補給や塩をしっかり取って、熱中症対策をするように。万が一何かあれば、すぐに現場監理に連絡すること。絶対に無理はするなよ。体が大事だ。それから、伊藤が入社して1ヶ月ちょい。ずっと働けるように、みんなで盛り上げてやってくれ。あと桃じいにも優しくな。そろそろ現役引退だろうから。それじゃあ、今日も安全第一で、現場を頼む」

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