第12話 誰が好き?
木下陽介、36歳。好きなものは、愛とか友情とか情熱とか運命とか。とにかく熱いものが好きだ。
今はポエムにはまってる。ポエムはいい。溢れる想いが伝えやすい。こんないいもの、もっと早く出会いたかった!
暑苦しい、むさ苦しい仕事の中で見つけたオアシス。なんて素晴らしい!
君をみると、心が高鳴る
君を追えば、自然と足は駆ける
君に追い付けば、手を伸ばしたい
君を手にしたら、僕はどうなるんだろ
「うお~~~! きた~これマジやばい」
「声が大きいよ~木下君。ここ事務所の中だからね~」
「金山さん。マジきた。このポエムヤバイ」
「どれどれ。わ~なんかすごいな~。おじさん照れちゃう」
「照れるってことは、愛があるってことだな。俺すげ~」
「だからね。声が大きいよ~」
「何を叫んでるんですか。木下さんは」
「あ~お疲れ。
「ポエム……。それ本気だったんですね。何かの冗談かと」
「俺はいつも本気だ! すげ~いいのができたんだよ。みてくれよ。秀!」
「うわ~はず」
「はずいってことは、愛を感じるんだな! うお~やっぱきてる~」
「木下君。だから声がね~って聞こえてないかな」
「何でも前向きに取るの、木下さんのいいとこですね」
「秀君、心がこもってないよ~」
「そうでした?」
「ねえ、木下君。ところでそのポエムはどうするの? 書いて終わり?」
「金山さん! この愛はちゃんと届けます!」
「誰に? 奥さん?」
「NO~! 結婚と恋愛は違うから。俺は今、愛に生きてる」
「ねえ秀君。意味わかる?」
「意味はわからないですが、訳せと言われたら訳せますよ」
「じゃあ、ぜひお願いします」
「木下さんのとこは、結婚はしてるけど家庭内別居でフリーダムなんです。奥さんも好きな人がいるみたいだし」
「何それ。すごいね~。離婚しないんだ」
「離婚すればいいのに、って言ってるんですけどね。なぜかしないです。お互い本気で結婚したい人ができたら、離婚するんじゃないですか。結婚の概念がよくわからないですよね」
「本当だね~」
「結婚してても、愛は生まれる。恋愛もするもんなんだ。男は!!!」
「よくある不倫ってことですね」
「ちが~う! もっとピュアなんだ」
「よくわからないです。で、そのポエムはどうするんですか?」
「これはな……」
「梨花ちゃんにあげるとか?」
「なんでそれを! まさかお前」
「違うから。早まらないで」
「梨花ちゃんか~。あの子は事務員さんで一番人気だね~」
「そうなの?! 金山さん!」
「よく聞くよ。ね、秀君」
「まあ。誰がいい? みたいなことは話しますよね」
「誰が俺の梨花を狙ってるんだ」
「俺のって……」
「木下君、熱いね~。ヒュ~ヒュ~」
「ヒュ~って。金山さん、昭和か!」
「昭和で~す」
「誰だ? 誰が俺の梨花を!」
「もしかして、金山さんも!」
「僕はね、今愛ちゃんに注目してるから~」
「なんと! クールビューティー愛ちゃん」
「そんな風に言われてるんだ~」
「いや、木下さんが勝手に言ってるだけかと」
「僕なら、ドS愛ちゃんだな~」
「あれ? 金山さんって、こんな感じでしたっけ?」
「秀君とは、こういう話したことないもんね~。こんなもんだよ~」
「ちょっとイメージが」
「お~金山さん。わかる男だぜ」
「ありがと~」
「金山さんは、ドSが好きなんですか?」
「好きだよ~。最近愛ちゃんに怒られたとき、ドキドキしちゃって」
「金山さん! 男っすね」
「どこらへんが……」
「人を冷たい瞳でにらむんだよ~。あの子きれいな顔してるでしょ。だから余計に凄みが増すっていうの~。ゾクゾクってしたよ~」
「金山さんって、変態だったんですね」
「違うよ~。僕がじゃなくて、男はみんな変態なの。ね~木下君」
「俺は変態じゃな! でも金山さんのも愛だ! お互い頑張ろう!」
「僕はいいの。陰からこっそりみて、たまににらんでもらえたら」
「金山さん……。通報されますよ」
「え~。きっと僕みたいなの、そこら中にいるよ~。愛ちゃんのSっぷりに気付いている人は、まだ少ないと思うけど」
「たぶんそれ。金山さんにだけじゃないですか」
「お~特別! 金山さん一歩前進」
「木下さんは少し静かに」
「愛なんだから熱くなるんだ。で、秀は誰がいいんだ?」
「俺はとくに」
「しいて言えば誰~?」
「見た目だけなら由紀さんかな」
「わ~。秀君もの好き。由紀のおばさん選ぶなんて」
「そうですか? 由紀さん、めっちゃ美人ですよ。性格きついし怖いし口悪いけど。愛ちゃんより美人だと思うけどな。歳よりずっと若く見えるし」
「秀君、騙されてるよ。由紀のおばさんは、般若だよ~」
「それも多分、金山さんだけじゃないですか」
「そんなことないよ。鬼だよ」
「いいぞ。秀! 心おきなく由紀さんにいってくれ! ここにはライバルはいないってことだな」
「いきませんよ。というか、ここにはいないだけで、ほとんど梨花ちゃんだと思いますよ」
「なんと! 俺の梨花はそんなに人気か!」
「可愛い系なのは梨花ちゃんだけだし。性格も一番おっとりしてるしね」
「直樹君とか裕也君も、梨花ちゃんが好きって言ってたな~」
「あいつらまで~~~~。ダメだ。もっといいポエムを書かないと。俺は帰る。今日はいい月だから、いいポエムが浮かびそうだ! じゃあな」
「お疲れ様です」
「お疲れ~。木下君、おもしろいね~。ロマンチストだ」
「ですかね? ちょっと理解不能です。ついでに金山さんも」
「え~そう?」
「どっちかっていうと、金山さんに衝撃です」
「そっか~ドンマイ!」
「ドンマイって……。昭和か」
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