第11話 じいさんと土場

かれこれ40年以上この仕事を続けている。ここでは最年長の65歳だ。みんなは俺を桃じいと呼ぶ。じいさん扱いだ。だいぶ歳をくっちまって、職人が辛くなってきたところだから、それも仕方ない。肩も腰も痛くなるし、俺もそろそろ隠居して、土場じい生活になるかな~。

土場じい、ってのは、土場の整理整頓をしたり、掃除をしたり、時には現場まで資材を運んだりする作業員だ。毎日きれいに分けられた資材をトラックに積めるのは、土場じい達のおかげだ。みな60歳以上だが、これまたパワフルに働いている。


職人は歳とともに辛くなってくる。体力も衰え、体にガタがくる。

65歳を過ぎれば高齢者作業員となって、高所にあがることもできず、ひたすら下で資材を運ぶ。それがまた大変だ。

一緒に仕事をする奴らはみんな若い。スマホがどうだ、ゲームがどうだ、と毎日うるさいが、若い奴らと仕事をするのは好きだ。子供をみてるような感覚だが、仕事ができるようになっていく様子や、責任を背負って頑張る様子なんかみていると、応援したくなってくる。

こんなことを思うようじゃ、やっぱり俺も隠居だな~。

土場じい達と年相応の話をするのも、いいかもな。



「お疲れ様です。あれ、桃山さんは今日土場?」

「お疲れ。今日は土場」

「助かる。最近資材がやたらと入ってくるから、土場が全然片付かなくて」

「志村さんはどこ担当だっけ」

「僕はメッシュシートだよ。今日はリー君がいるから、時間の限り紐付け作業」

「そういえば、シート大量にあったな」

「一気にきたからね。桃山さんは今日はどこ? シートに来てくれてもいいよ」

「俺はリフトで、土場をひたすら片付けるよう社長に言われてる」

「たしかにいつも以上にぐちゃぐちゃだ。江古田さん、朝嘆いてたよ」

「あれは江古田さん一人じゃ大変だ」

「江古田さんね、仕事時間延ばすみたい」

「よく働くね。志村さんも」

「それなら桃山さんもだよ。現役職人なんてすごいよ。僕なんて体が動かないよ」

「俺も限界きてる。いつまで働くのかね~」

「僕なんて、結婚遅くて子供がまだ学生だから先が長いよ」

「大変だな~。志村さんとこ、共働きでしょ。家事もやってるんだよね」

「そう。今日は夕方4時のセールに駆け込みだよ」

「すごなぁ」

「僕のとこなんて楽なもんだよ。江古田さんなんて、孫が3人でしょ。娘さんは鬱で面倒みれないからって、奥さんと江古田さんで小さい孫の面倒見ているよ。この歳で子育ては大変だよ」

「俺なんて帰って酒飲むかパチンコするかだから、恐れ入るよ」

「人それぞれだから。桃山さんは、やっと自分の時間がきたんだよ」

「俺は離婚してるし、一人だから気楽なもんだ」

「職人してて、楽ってことはないよ」

「いや、本気で土場にこようかと思ってる。職人たちと居るのも悪くないんだけどな」

「土場にいると、職人に腹立つけどね~。でも僕でも少しわかる。若い子たちと居ると、なんか元気になるよね。僕らとは時代が違うからかな。羨ましいなと思うよ。自由奔放で我儘で我が道を行く。でも一生懸命だし毎日楽しそう」

「志村さんも、そんなこと考えるんだな」

「もっと土場をきれいにしろ! ゴミを捨てるな! 私物は持ち帰れ! とも思ってるけどね」

「ごもっともだ」

「土場は土場でいいよ。僕はわりと気に入ってる。話すことなんて家のことや金。子供や孫だけど。生活感があるのが逆にいい。現実っていうかね。みんな一緒だな~って思えて。愚痴も分かり合えるし」

「俺も若い奴らにくっついてないで、自分の将来をしっかり見据えないといけないかね。年相応に現実をみないと」

「いつでも土場においでよ」

「いいね。行くところがあるってのは、ありがたい」

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