第9話 俺たちの憩いの場

 裕也っす。鳶2年目で、もうじき父親になるっす。22歳で若いすぎ~なんてよく言われるっすけど、俺にはよくわからないっす。結婚も年上とでき婚だけど、全部なるよになってるし。

 先のことは分からないけど、毎日それなりだと思ってるっていうか、けっこういいじゃん! って感じ。すげ~いい職場っす。

 

 

「やっぱ、仕事の後のビールは上手いな~最高!」

「直ちゃん、今日もどっちが多く飲めるか勝負っす」

「受けてやるぜ! おい、リーもやろうぜ」

「はい。お酒美味しい」

「直樹、ほどほどにしろよ! 明日も仕事だぞ」

「大丈夫っすよ慎吾さん。どうせすぐ裕也はつぶれるし、リーはざるだし」

「直ちゃん! 今日は調子がいいっすから! 3杯はいけます」

「3杯かよ」

「裕也も。つぶれるなよ」

「はいっす」

「わたし、だいじょうぶ」

「リーは、大丈夫か」

「よし、じゃあ乾杯しよう。楽しく飲むぞ~乾杯!」

「乾杯っす!」

「かんぱい」



 月に一回、会社で飲み会があるっす。仕事が終わった人から店にきて、好きなだけ飲んで食べて帰れる、いい日っす。

 みんなで騒いで、バカな話して、たまには喧嘩もあるけど、この時間が俺は好きっす!


「なぁ、裕也。俺、最近始まったコーヒーのCM、すげ~好きなんだけど」

「わかるっす! 鳶職と営業の人がベンチでコーヒー飲んでるやつっすよね?」

「お前、話分かるな~そうそうあれ。よくね? 〝あんた、えらいな〟ってやつ」

「いいっすよね。なんか、鳶職って下に見られてるところあるっすからね。あれは対等にみてくれて嬉しいっすよね」

「そうそう。お互いに、相手の仕事は自分じゃできね~な~って。あれいいよな~。互いを尊敬してるっつかさ」

「わかるっす。CM流れると、つい見ちゃうっすもん。陸斗も言ってたっす」

「あのCMは、俺ら鳶職人のためのCMみたいだよな」

「そうっすね。なんか頑張れるっす」

「あ~わかる。裕也お前、良い奴だな~。バカだけど」

「直ちゃんもバカなんで、お互い様っすよ」

「そうか? じゃあどっちがバカか。明日のトイレ争奪戦で決めるか~」

「いいっすよ!」

「バカじゃないの。あんたたち」

「こらこら愛ちゃん」

「2人とも同じくらいバカ。でも変態よりはマシ」

「愛、どうしたっす?」

「いろいろあってね~」

「俺ら巻き添え感、はんぱないね」

「ごめんね、直ちゃん」

「梨花ちゃん、可愛いからいいです」

「直ちゃん、梨花ちゃん好きっすね」

「可愛いだろう。裕也だって好きなくせに」

「好きっす。優しいし」

「あ~! やっぱり男なんて変態バカだ~~」

「愛ちゃん。大丈夫? 由紀さ~ん。愛ちゃん寝ちゃいそうだし、そろそろ行きますか?」

「ちょっと待って。外で喧嘩はじめたみたいだから止めてくる」

「え~!!」

「喧嘩、私もみたいです」

「愛ちゃんはここに居ようよ~。酔ってるし」

「裕也、俺たちも行くぞ」

「うっす。どうせ晃君と誰かでしょ」

「私も!」

「愛ちゃ~ん」

「私言ってくるから、梨花はここにいな」


「あ~あ。こりゃ私でも止められないな」

「わ~すごい。ごくせんみたい」

「愛ちゃんは初めて見るか。すごいでしょ。本気の殴り合い」

「はい。初めてみます。こんなマンガやドラマみたいなことが、実際に起こるんですね」

「そうなの。てか愛ちゃんは見ても平気なの?」

「はい。酔いもさめましたし」

「やっぱ、あんたも強いね。梨花はダメだから」

「梨花さんには無理そうですね」

「さて、誰に止めさせようか。いないか~」

「誰を呼びます?」

「社長か祥君か原君しかダメだね」

「何でですか?」

「ブタと浩司以外に、周りで喧嘩してるバカたちいるでしょ。あれね、止めに入った結果。ここではミイラ取りがミイラになるの。みんなバカだから」

「なるほど……。最初は二人だったたの、気付けば乱闘」

「バカでしょ。ここまで大きくなると、ある程度上の人間じゃないと止められない」

「こんなに喧嘩して、明日仕事は大丈夫なんですか?」

「そこは大丈夫。男の良いところだね。殴って言いたい事言ったら良しなんだよ」

「もうドラマですね」


「直ちゃんは、止めに行かないっす?」

「やだよ。殴られるんの怖い。てか、晃君、いつもよりがんばってるね」

「そうっすね。普段はガラスの心臓なのに」

「壊れやすいって。笑えるな~あの人」

「現場の職長になっただけで、緊張と責任で休むっすよ。繊細って言ってったっす」

「わははは。あの人に繊細とかないよな~」

「ヨーグルトとかチーズとか、乳製品を朝食べるとお腹が痛くなるっす。繊細っすよ」

「あれは食べすぎだ! 晃君面白いな~単純でおバカ」

「なんか、直ちゃんい言われたらお終いっすね」

「裕也もなかなか言うようになってきたな~」

「でも、由紀ねえさんもそう思うっすよね?」

「だね。直樹もたいがい単純バカ」

「おい! 裕也も似たようなもんだろ」

「直ちゃんほどじゃないっす」

「直樹の負けだな」

「由紀ねえまで」

「しかし、本当に単純バカが多いとこだね、ここは。知ってる? 桃じいとか、ご利益とか、運気アップって言葉に弱くてさ。黄色い物を身に着けていくと、パチンコ勝てるよって言ったら、黄色いハンカチ持ってパチンコ行くようなった。可愛いでしょ」

「由紀ねえ~すげ~」

「信じると思わなかったし」

「由紀ねえ。恐ろしい」

「直樹も気をつけなね。すぐに私に騙されそうだから」

「そうっすね。直ちゃんはいちころっすね」

「受けて立つ!」

「だから、そういう所だよ」

「そうっすね」

「???」









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