第8話 現場監理の取り扱い注意

 どうも、金山です。46歳のおじさんです~。

 この職場は若い子が多いし、毎日元気で明るくて、おじさんはいいと思う。

 ハードな職場で、おじさんは大変だけど……。なんとか頑張っています。


「金山さん! 先週渡した書類、書いてくれましたか?」

「何だったっけ? ホワイト住宅? 住建鈴村? ハウスハート? う~ん、あとは……」

「私のは、社内用の今月のスローガンです!」

「あ! そんなのもあったっけ~。その用紙、どこかな~。どんなのだっけ? 愛ちゃん覚えてる?」

「…………」

「この辺かな~」

「金山さん。ちょっと机片付けたらどうですか」

「祥さん。もっと言ってください!」

「これはこれで、意味あるんだよ~」

「今、探している時点で意味とかないように思いますが」

「いやね、探してはいるけど、いいとこ探してると思うんだ~。祥君の机はいつもきれいだから、わからないだろうな~」

「分かりたくもありません。その机、今から私が片付けましょうか? 金谷さん!」

「いや~大丈夫だよ」

「全然、大丈夫じゃありません。捨てましょう。いらない物は。私やります」

「なんだかな~。愛ちゃん最近、由紀のおばさんに似てきたと思わない、祥君」

「全部、金山さんが悪いと思います」

「祥さんの言う通りです」

「そうかな~」

「それに、由紀さんはおばさんじゃありません! あんなきれいな人、おばさん呼ばわりしないでください」

「あのね、きれいとか関係ないんだよ。40歳を超えればおばさん、おじさんなんだよ~」

「女の敵ですね」

「ね~祥君」

「俺を巻き込まんでください。金谷さん、事務員さんは味方につけた方が何かと良いですよ」

「え~」

「金谷さん! 早く片付けますよ。ここはいらないですね」

「あ~ちょっと待って……」

「愛ちゃん。よかったら私も手伝おうか?」

「由紀さん。ぜひぜひ! お願いします」

「ほら、言わんこっちゃない」

「祥君~」

「知りません」

「おじさん。愛ちゃん困らせるな! 全部すてる」

「あ~ってこれは! 昨日提出だった! あ、これは明日まで。これは……」

「信じられません。金山さん、今までどうやって仕事してたんですか! 期限やぶるとか最低です」

「このおじさん、適当だから。何考えてるんだかわからないし、ボケっとしてるし、締りのない話し方するし。とんでもないおじさんだわ」

「事務員さん、ひどいな~」

「金山さん。身から出た錆ですね」

「祥君冷たい!」

「よく言われます」

「あった、私の書類。あったけど……やぶれてる……」

「愛ちゃん。このおやじの現実はこんなもんだよ」

「今、イラってしました。とんだおやじですね。疲れます」

「あれ? 愛ちゃんって、そんなキャラだったっけ?」

「知りませんでした? 私、怒ると結構怖いですよ」

「金山さん。一番怒らせたらいけない人を怒らせましたね」

「祥君、知ってたの?」

「知ってた、っていうよりは疑ってた。でもこれではっきりしました。愛ちゃんは怒らせると怖い、っていうかSですね」

「Sか~いいね~。おじさんMだからちょうどいいね~」

「またそんなこと言ってると」

「Mとかキモイ」

「ほら」

「わ~ドSだね。ちょっとドキドキするね」

「金山さん……」

「おやじキモイ! 変態! 愛ちゃん、さっさと片付けてここから離れよ。キモすぎ」

「ちょっと、由紀のおばさん。言い過ぎ」

「金山さん。言い過ぎでもないように思いますよ。変態入ってます……」

「そうかな~。普通でしょ。男はみな変態だよ~」

「…………。こんなにイライラするおやじ、初めてかも」

「愛ちゃん無視無視! ゴミ捨てるよ」

「そうですね」

「あ~愛ちゃん。ダメダメ~それは~」

「文句言える立場ですか」

「わ~瞳が冷たい。ゾクゾクするね~」

「金山さん……。男から見てもキモイです」



 事務員さんはね。なんて言うか、強いよね~。男ばかりの職場だからかな。年々たくましくなっていくよ。

 味方に、とまでは思わないけど、敵にはしたくないな~。ってあれ? もう敵にまわしてるのかな? そんなつもりわないけど、女性は難しいからね~~。おじさん、女性は好きなんだけどね。上手くいかないよね~。



「金山さん。これどうするんですか」

「どうしようね~祥君手つだ……」

「嫌です」

「まだ最後まで言ってないよ~」

「ぐちゃぐちゃですね。触るのも嫌だ」

「祥君、助けてよ~」

「お疲れ~」

「原君、お帰り。遅かったね~」

「ちょっと監督と現場で盛り上がっちゃって! って。げ、何このでかい段ボール。邪魔だからどかしていい」

「あ~ごめんね」

「何これ? ゴミ」

「それ、金山さんの机の上にあったもの」

「はぁ?」

「事務員さんに、捨てられちゃった」

「がははは。とうとう捨てられたか。ついでに、金山さんも捨てられたんじゃない」

「多分そうですね。事務員さん、だいぶ引いてましたし」

「なんか面白そうだな。金山さん、なんかやらかした?」

「ちょっと変態が出た」

「ぶは! あ~あ。そりゃダメだ」

「そんな~。ちょっとだよ~」

「バカだね。はいはい、って言うこと聞いてればいいのに」

「本当にね。余計なこと言うから」

「そうかな~」

「金山さん、誰に言ったの?」

「由紀さんと愛ちゃん」

「げ! 愛ちゃんはまずいだろ」

「そうかな~。梨花ちゃんほど抵抗ないと思ったんだけど」

「うわ~。なんか金山さん、やらし~」

「そう?」

「確かに梨花ちゃんは下ネタ禁止だな。愛ちゃんは担当じゃないから分からんな~あんまりしゃべったことない」

「ゴミを見るような、冷たい目でみてた」

「そうそう。その瞳がゾクゾクだったよ~」

「変態くせ~な~」

「ただの変態だったよ」

「祥君!」

「金山さん。やっちまったな。それで、このゴミの山ね」

「大半がゴミじゃないんだよ~」

「いや~。正直、俺も助かった! 金山さん、汚すぎ」

「え~そうかな~。これでも、それなりに分けておいてあったんだよ」

「でも、汚すぎ! 積み上げた書類が、俺の机に落ちてるときあるし」

「それ、こっちもそう」

「ごめんね~2人とも」

「仕方ね~な。事務員に逆らった罰だ。あいつらキツイとこあるけど、ほぼほぼ正論言ってるし」

「へ~原っち。よくみてるね」

「まぁ、俺だって怒られるしよ。でも、その正論がまた頭にくるんだけどよ」

「それわかる」

「だろ。でも、言い返せないのも事実」

「この職場は大変だろうしね、事務員さんたちには。職人は言うこと聞かないし。現場監理も我が強いわ、変態だわ、キモイわで」

「だな~。唯一の女子だし、それなりに扱わないとな。とりあえず怒らせないようにさ。な、金山さん」

「僕が悪いの~」

「何をいまさら」

「祥君も~」

「でも、しょうがね~な~。金谷さん、片付け手伝うよ。さっさとやって帰ろ。祥もな」

「俺はいい」

「ここは助けてやろうぜ、な!」

「え~」

「ありがとう。2人とも」

「さっさとやるぞ。この際、きれいにするぞ」

「判断は金山さんしかできないから、とりあえず分類してくよ。原っちは左からね」

「おし。金山さんもやるぞ」

「よ~し」

「つか、多いな~」

「期限切れもなかなか多いですよ。これとかいいんですか?」

「それは捨ててもいいかな」

「あ~~!!」

「何、原っち。声でかいよ」

「これ、俺の書類。すげ~探してたのに、なんで金山さんのとこに?」

「混ざっちゃったのかな~」

「あれ? この図面も原っちのじゃない?」

「なくなって、また元請けのとこに取りに行ったやつだ」

「あれ? じゃあ返すね~」

「もういらんわ~!」

「これも原っちのだ。これも。この辺、原っちの多いよ。ごそっと金山さんのとこに移動した感じ」

「なんでだろ~」

「どうせ、金山さんの机から雪崩れて、戻すときに下からごっそり持っていったんじゃないですか?」

「そうかな~ごめんね。原さん」

「…………」

「原っちが珍しく黙ってる」

「あ~。これは祥君のだ~」

「そうですね。でも、もういりません」

「ごめんね~」

「あ、また原っちの」

「本当だ~。僕のより、原さんの書類の方が多かったりして~」

「それはそれで、大問題ですよ」

「そうだね~」

「だぁ~~~!! そうだね~じゃないわ」

「あ~あ。金山さん、怒らせた」

「やっぱり全部捨ててやる」

「え~~」

「だから嫌だったのに」



 

 

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