第4話 小太りとからあげ棒

 仕事終わりは腹がへる。しょうがないよね〜。1日の運動量、半端ないし。重い資材を運んで、運んで、とにかく運ぶ。疲れる毎日の中で楽しみと言ったら、食いもんしかない。

 食べるの大好き! 食い物命! みんなはブタって言うけど、ちょっと小太りなだけだ! 小太りな須藤晃だ! 


「裕也みてみて。からあげ棒、ラスト1本。あぶね〜セーフ」

「よかったっす。あって。またコンビニ行くの面倒いんで~」

「俺の為の1本だな」

「わかったっすから、買って早く戻りますよ。原さんに、早くって言われてるんっすから」

「分かってるって。あとポテチとチョと、アイス買えば終わりだから」

「デフまっしぐらっすね」

「何か言った?」

「何も」



 仕事終わりに食べるこのお菓子やアイスの美味いこと。家で食べる嫁の夕飯より美味い! からあげ棒に関しては毎日でも食べたい、俺のソウルフードだ。

 からあげ棒を食べて、1日の仕事を締めくくる。これが俺のルーティーンだ!


「お疲れ、裕也」

「お疲れっす。孝夫君、今日は早かったっすね」

「おう!  監督が会議で早めに終わった。5時に事務所にいるなんて久しぶりだわ〜。あ〜腹減った」

「アメならあるっすよ」

「アメか〜って。ここにいいものあるじゃん。ポテチいただき〜」

「あ、それ。晃君のっす」

「じゃあもしかして……。見っけ、からあげ棒」

「それはヤバイっすよ」

「1個ぐらい大丈夫だろ」

「ヤバイですって! あ〜〜! げ!!」

「もやし~~~!!!」

「あれ、もう戻ってきちゃったのか」

「もやし~~俺の、食った」

「1個もらったぜ」

「ぶち殺す」

「たったの1個じゃん」

「てめぇ~許さん。俺の、からあげ棒。ぜって~ゆるさん~~」

「うるせ~な~。買って返せばいいんだろ。このブタ」

「許さね~し。ブタじゃね~し」

「はいはい。じゃあ明日買ってやるから。じゃあな。俺帰るわ」

「もやし~~~~」

「晃君。明日いっぱい買ってもらえばいいっすよ。とりあえず、これ食べて……」

「もやし~~~~」



 食い物の恨みは恐ろしい。よくわかる。何よりも大事なからあげ棒を、あいつは食った。俺のルーティーンをぶち壊した。

 1個ぐらいって、数の問題じゃね~んだよ。俺より先に、マジ食ってんじゃね~~~! 

 今日の1個は今日しかないのに。

 ゆるさね~。

 からあげ棒の恨み、一生忘れね~。

 ブタじゃね~し。

 小太りなだけだし。


「原さん、ちょっといいっすか」

「なんだ裕也。まだいたのか」

「それがですね……」

「がはははは~~」

「……笑いすぎっす」

「ひ~。おもしれ~。バカだな~ブタ」

「晃君のからあげ棒の思いは、マジ熱いっす」

「熱いって! 笑える! そんなんで、殴りかかるか~。ヤバイ、腹痛い」

「今日のからあげ棒は今日しかないっす」

「何だそれ。名言か?」

「そおっす。からあげ棒の恨みは一生忘れないっす」

「うける! マジあいつ最高! がははははは」

「ついでに、ブタじゃなくて、小太りらしいっす」

「!!! 無理無理! 笑い死にする。ひ~」

「原さん、マジ笑いすぎっす。気持ちはわかるけど。でも晃君は真剣っす。本当にデブだとは思ってないっす」

「そっち?! お前もたいがいだな。でもさ、真剣だからおもしれ~んだろ。いいな~あいつ。俺好きだわ」

「はぁ……。それで、話の続きいいっすか」

「いいぞ、気にせず話せ」

「晃君、殴りかかってあっさり返り討ちにあって、事務所で拗ねてるっすけど……」

「ぶふ。すまん……がはははは。止まらねえ~。可愛いブタだな~」

「違うっす。小さいブタです」

「がははは。小さいつければ、ブタでいいのか~! じゃあ小ブタだな」

「その小ブタをよろしくっす」

「げ~! おもしれ~けど俺に振るなよ~」

「俺じゃ、無理っす。お疲れっす」



どうせ誰も、俺の気持ちはわかってくれないだろう。

そもそもみんなが、食べ物に執着がなさすぎるんだ。

からあげ棒が好きなことの何がいけないんだ。

楽しみにしてたのに、勝手に食べられて。怒って何が悪い。

俺は悪くない!

絶対に悪くない!


「おい、晃。そろそろ帰ったら」

「祥さん冷たい。どっか連れてってください」

「まだ俺ら、ゲームしてるし。あ! 陸斗やったな! 俺が頑張ってたのに」

「祥さん、下手。それじゃ2人とも死んじゃいますよ」

「まだ初心者なんだから仕方ないだろ」

「機械に弱いよね。祥は」

「祥さん、現場把握はバシバシなのに」

「だな~。スマホが使えないなんて笑える」

「浩司うるさい! あ、浩司。ここはどうする?」

「回して、ぐるぐるって」

「回す……。スマホを?」

「違う! 画面の上で指を回す!」

「お~動いた」

「老人みたい」

「うるさい、陸斗」

「それより祥さん。晃君はいいんですか」

「へ? なに?」

「ゲームやりながらなんて、どうせ無理だろう」

「可哀そう。浩司さん代わりに聞いてあげてくださいよ」

「はぁ~。おいブタ、もう帰れ。明日も仕事だぞ」

「ブタじゃない。小太りなだけだ。みんなして帰れって」

「はいはい。小太りな。で、帰ったらどうだ? 小太り」

「浩司さん……」

「あ~なんだこれ、なんか画面にでてきたぞ、浩司教えろ」

「祥さんも……」

「どうせ俺の話なんて誰も聞いてない。勝手に食ったもやしが絶対に悪い。そうだろ? 陸斗」

「そうですね」

「だろ? 俺悪くない」

「でも、からあげ棒で殴りかかるのもどうでしょう」

「陸斗~。お前はどっちの味方なんだ」

「どっちの味方でもありません。しいて言えば、祥さんの味方です」

「ゲームかよ!」

「おい、陸斗。味方なら助けろ」

「ほんと下手ですね。祥さん」

「ゲームかよ!」


 


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