■オープニングフェイズ〈ゲオルグとレナーデ〉2

 【聖カルラ通り】


 かつて神々は世界の支配を巡り争い、その結果世界は一度滅んだ。

 自らが争うことの危険さに気づいた神々は、代わりに戦う〈神の兵士〉とそれを観覧するための巨大なテーブルを築いた。

 しかし、兵たちは相打ちに倒れ、勝者の無いまま戦いは終わった。

 失望した神々はこの地を去り、神の兵士の後裔が僅かに残るのみだった。

 あるとき、漂流者たちが彼方よりこの地を訪れる。

 卓に一柱残っていた混沌の神と、漂流者の王は一つの契約を結んだ。

 神は言った――卓に彼らを住まわせる代わりに、退屈な自分に物語を見せてくれ、と。

 王が合意すると、混沌の神ローギルは彼らの相手として、千の魔物、そして百の竜を生み出した。

 漂流者たちはその数を増やし、争い、魔物や竜を倒し、混沌の神の望む通りの世界が生み出された。

 それが今日のディシリングである。


「――といったところで間違っていないだろうか」

 歩きながら話すゲオルグに対しレナーデは、あんた本当に記憶喪失なのかい? と訝しげに尋ねる。

「本当だよ。その知識はあったけど、まさかこんな雄大なもんだったなんてな」

 もう一度、遥かに聳える天面の底を見ながらゲオルグは言った。

「この〈栄光の卓〉は割と大きめだからね。ゲオルグ、あんたの〈驟雨通り〉だけどさ、聞いたことあるな。南のほうの卓だったはず、確か〈南風の卓〉って場所だ。あそこは最近、王様に何かあって、大量の騎士がお役ご免になったと聞くね。詳しくは知らないけど、あんたはそうして失職した黒騎士の一人じゃないのかい」

「そんなところだろうな。しかし、そんな遠くの卓から俺はどうやってこっちまで来たんだろうか。それに姉さん、遠くの卓についてずいぶん詳しいな」

「ああー……まあなんだ、遠くを目指す手段も事情も、色々あるってこったね」

「なるほど」言いよどんだレナーデを見てゲオルグは特に立ち入ろうとはしなかった。

「それより相棒、そろそろギルドに着くよ」

 ギルドの建物は、大衆食堂か酒場のような二階建てだ。

 二人は両開きのドアを通り抜けて入っていく。

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