第48話クレイモア

ヒューガ地方。

市街地にあるビルの中。


シノノメ傭兵団 百人隊のアズマ隊は、戦闘中だった。

ターゲットは、結成して8ヶ月の新興団「バリケード」。

2千人と少数だが、若者が多く凶暴な為、早めに狩るよう、上部から指示が出ている団だ。



アズマは、5階で数人の男を相手に剣を振っている。

敵は、刀や槍で次々とアズマに襲いかかるが、

アズマは、ことごとく相手の攻撃をはじき返しながら、

三人、四人と切り捨てていく。


そこに、アズマ隊の隊員三人が、急いでかけつけ、報告する。


「アズマ隊長、団長のガライを7階で包囲しました。

 ここは、我々が!」


そう言うと、隊員達はアズマの前に出て、武器を構える。


「わかった、まかせたぞ」


そう言い残し、アズマは階段を登り、7階に向かった。


隊員が出口を封鎖している部屋に入ると、隊員4人に囲まれている男がいる。

背の高い男だ。190センチを超えていそうだった。

奴が団長のガライだろう。

強盗、強姦の他、3件の殺人で逮捕されている。

凶悪犯だった。


ガライを囲んでいる隊員の少し後方で、クメと副長のスグリが状況を見守っている。

アズマが男に話しかける。


「お前が、バリケード団長ガライか?」


「…おお……お偉いさんの登場かよ…」


「そうだ、俺が隊長のアズマだ。

 これからお前の処刑を行う。

 堂々と勝負しろ」


アズマは、愛剣のクレイモアを引き抜き構える。


「来るな!

 お前らに、嬲り殺される位なら、自分で死んだ方がマシだ!」


ガライは怯えた表情で、腰の刀を抜き、腹に当てがい、

息遣いを荒くした。


アズマは、剣を一度下ろし、ガライを止める。


「やめておけ。

 ガライ……お前は、確か半年かそこらで、悪党を束ねて、二千人規模の団を作っている。

 これは、そうそう出来る事じゃない。

 お前には、優れた力があるのだろう

 そんな豪将のガライが、敵が怖くて自殺なんて、

 ちょっと、似合わないんじゃないか?


 それよりも……その刀で俺と戦った方が、その命…助かるかもしれないぞ?」


「ど…どういう事だ?」


「今、お前は俺の隊に囲まれているが、俺と勝負して勝てば、見逃してやる」


「…嘘だ!

 もしお前に勝ったって、どうせ次々襲ってくるんだろ!

 そんな事はわかってる!」


「いや…そんな卑怯な事はしない。

 約束する。

 知っていると思うが、シュラでの戦いは、全世界に中継されている。

 その人々の前で、隊長の俺が嘘をついたら、傭兵団の信用は地に堕ちる。

 だから、そんな事はしない」


「…本当だな…逃がしてくれるんだな…?」


「ああ…本当だ。

 おそらくシュラに来て半年のお前は、知らないだろうが、

 傭兵団の隊長を倒すと、罪人にも、大きなメリットがある。

 

 俺には今、多くのスポンサーが付いている。

 もし、この戦いでお前が勝てば、上質なガライ専用の武器や、大量の食料が贈られる。

 誰にも横取りされる事なくな…。

 どうだ?……俺と戦った方がメリットが大きいと思うが…?」


それは、本当だった。


以前のシュラでは、強い傭兵になると、有名になり過ぎ、

罪人が戦わずに逃げてしまい、

デスゲームとして、成立しなくなった…という過去がある。


ファンは強い傭兵達の戦闘シーンが見たい為、戦闘が減ると、

傭兵の支援者や、シュラを観覧している客からの、

収益が大幅に減っていく。


そのために、対応策として、

こういった褒賞が、勝者の罪人に贈られる事となった。


傭兵と罪人の力の差は、大きい。

その為、傭兵殺しは、罪人の勲章になっている。


その褒賞を手に入れた者は、いわば罪人世界シュラでの、特権階級となれる物だった。


その品々は、シュラの世界では決して手に入らない逸品揃いであり、

それを持っているだけで、多くの団から幹部として誘われたり、

その腕を買われたりと、多くの副産物も生まれている。


そういった工夫がいくつもあり、このシュラでのデスゲームは、

バランスを維持されていた。


ガライは、アズマの話を聞き、少し考えて、

腹に当てていた刀を外し、攻撃的に構えた。


「…わかった。

 これは、このガライにとって、チャンスという事だな?」


「そうだ…お前の名を上げるチャンスだ」


そう言うと、アズマはクレイモアを上段に構え、腰を落とす。


ガライも、怯えていた表情は消え、凶悪な本性が表に出てきた。

刀をフラフラと揺らしながら、わざとスキを見せている。


アズマは、ピクリとも動かずに、ガライを見据えている。


ガライは、194センチあり、アズマは見たところ、

178センチといったところだろう。

リーチには、ガライが有利だった。

ガライはふざけるように、フラフラと近づいたり、

離れたりしながら、アズマの集中力を削ごうとしている。


ほんの一瞬、隊員の誰かの剣がこすれる音がして、

緊張が途切れた。

その瞬間をガライは見逃さなかった。

その音と同時に、ガライは自分の間合いにアズマをとらえる為、

一歩を踏み出した。

その瞬間に、5メートル以上はあった間合いをアズマは、

ただの一歩で詰め、ガライの左肩から袈裟懸けに切り倒した。


ガライの体は防具ごと見事に裂け、腰の辺りだけ、皮がつながっている状態だった。

しかし、ガライにはまだ意識があるようで、その体に走る激痛を、目で語っている。

アズマは、ガライを見下ろしている。


「ガライ…痛いか?

 だが……お前の罪の重さは、こんなものじゃない」


ガライは、

口から湧いてくる血を吐き出しながら、しゃべった。


「………まんぞく…か?…お前も……おれと…同じ……ヒト…ゴロシ…だな…?」


アズマは、冷たい目でガライを見つめる。


「ガライ……死ぬ前に、賢くなってから逝け…

 

 お前は間違いなく、腐った人殺しだが、

 俺は、人を殺した事は一度もない。

 お前達…罪人は………もう…ヒトじゃないんだ。

 

 ………地獄で永遠に償え………」


アズマは、ガライの頭にクレイモアをゆっくりと突き刺した。

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