第41話酒



次の日。


カイト、バニラ、鳴子の三人は、ブラッドベリー参謀の白河が廃病院に迎えに来て、

街の中心部にある、ブラッドベリーの基地に連れてこられた。

白河が、基地の入り口の前で振り返り、三人に伝える。


「今から作戦会議の為に、団長のいる部屋に向かう。

 だがその前に、お前達三人の持っている武器を預かる」


カイトが抵抗する。


「なんで武器を取り上げるんだよ?

 俺らは、お前らの仲間になろうって言ってんだから、そんな事する必要ないだろ?」


「いや、深見団長はともかく、まだ俺はお前達を信用していない」


カイトは、少し間をおいて背中の槍を外しだした。


「なんなんだよ…

 後でちゃんと返せよ!」


カイトは、しぶしぶ武器を入り口の兵に渡し、

バニラ、鳴子の二人もそれにならった。


部屋に着くと、ブラッドベリーの他の幹部の七名が先にいた。


部屋には、ホワイトボートと長い机が二列向かい合って並んでおり、それぞれ、

ブラッドベリーと、ロデオソウルズに分かれていた。


カイト達が席に着くと、ドアが開き、深見団長に続き、八雲が入ってきた。

八雲は手にグラスとワインボトルを持っている。


八雲が席に着くと、持っていたグラスにワインを注ぎ、

口にする。


ブラッドベリーの幹部らは、クスクスと笑いながら、

小声でしゃべっている。


「大丈夫か…この女?」

「仲間の首を切ったのが、ショックだったらしいぞ…」

「剣も振れないくせに、顔が可愛いだけで、団長になるからだよ…」

「こいつも、俺らと同じ幹部になるのかよ…?」

「…納得いかねぇな…」


八雲は、幹部達の様子を見て、手を上げる。


「悪いな…昨日から、飲まないとやってられなくて…

 会議はちゃんと出来るから…気にしないでくれ」


参謀の白河が、ホワイトボードの前に立ち、一つ咳払いをする。


「オホン…では、これからステイゴールド殲滅の会議を始める。

 まずは…」


会議は、それぞれの軽い紹介や動員可能な戦闘員数の報告など、滞りなく進んだ。

そして、白河から八雲へ説明が求められた。


「では今回の戦いから、我々の団に入団を希望されているロデオソウルズの団長、

 八雲殿から、作戦説明をお願いします」


八雲は立ち上がり、少しふらつきながら、ホワイトボードの前に行く。

そして、マジックを取ろうとして、グラスを落としてしまった。

ガシャンと割れた音が部屋中に響き、

皆、一斉に八雲の方を見る。


その瞬間だった。


ブラッドベリーの幹部達の前に机が降ってきた。

一番隊隊長のガレインは、何が起きたのかわからなかったが、降ってきた机を押しのけ、とっさに腰の剣を抜く。

しかし、なぜか腰の剣に手が触れない。

視線を下におろしたと同時に、隣の光景に目が止まった。

幹部達の首が無くなっていたのだ。

そして、誰かが呼びかけてきた。


「おい」


ガレインは、状況がわからないままで、呼ばれた方を向くと、見慣れた剣先が目の前にあった。

その先に見えるのは、カイトの姿だ。


「…動くな」


そうつぶやいたのは、カイトではなく、八雲だった。


そして、その声を聞いたのは、ガレインだけではなく、もう一人いた。

団長の深見だ。


深見は目の前がぼやけている。

それから、八雲の声が近くで聞こえ、彼女が目の前にいる事がわかった。

八雲との距離が近すぎて、ぼやけているのだった。


そして、八雲の言葉を頭で理解すると、何が起きたかを判断した。

……襲われた!

そう思うと、反射的に対抗心が湧いた。

感覚を研ぎ澄ませると、自分の腰には剣がある事がわかり、

隙を突こうと考えた。

ぼやけた視界の向こうに、八雲の顔が見えている。

そして彼女がまばたきをした瞬間に、右手を腰に動かした。


が、その瞬間、火が着いたように、顔が熱くなる。


「がぁっ……!」


深見が自分の顔に手を当てると、右目に何か硬い物が刺さっている。

それからは、あまりの熱さに何も考えられなくなった。



その頃ガレインは、色んな音や声を聞きながら、じっとしていた。

しばらくすると、誰かに後ろで手をしばられた。

それでも、カイトの剣は当て続けられている。

その剣が、自分の物である事もわかった。


八雲の声がした。


「ガレイン、私はお前の事は知らない。

 だが…これから、二つの事を言う。

 それに2秒以内で答えろ……いいな?」

 

…2秒…?と、ガレインは思ったが、とにかく早く返事をした方が良いと判断し、

ガレインは、喉から声を絞り出した。


「…はい」


「私たちに二度と手を出すな」


「はい」


「今日からお前がここの人々を守っていけ」


「はい」


そう言うと、体は自由になった。


八雲達は、何も言わずに、またガレインに目も向けずに、部屋を出て行く。

カイトが、深見を肩に担ぎ上げ、出ていった。


今、ガレインに残ったものは、命が助かったという軽い安心感と、

目の前に広がる血の海だけだった。

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