第28話捜索
マキオは、この山奥の村に来て毎日、片桐副団長に戦闘の稽古を
してもらっていた。
おかげで、以前より遥かに戦闘技術は向上した。
数日前、カイトと釣りをした次の日から、訓練はなくなった。
理由は、団長と副団長、情報部のキツネが、次の街へ下調べに行き、
不在となった為だった。
しかし、マキオは自主的に戦闘訓練をしていた。
だが、それだけでは満足のいく内容にならないと思い、
カイトに稽古を頼んだが、めんどーだと断られた。
断った時のカイトは、妙に冷たい感じがしていた。
仕方なく、河原で一人で戦闘訓練をする事にした。
片桐に何度も習った動きを、ひたすら一人で繰り返す。
一時間ほど集中してから一息つき、川の水を飲んで振り返ると、
後ろでバニラが見ていた。
「…バニラ!…どうしたの?」
「…別に……ただ見てただけ」
「見てた?俺を?」
バニラはうなずく。
「いつから?」
「30分くらい前」
「ええ?…声かけてよ」
「…真剣だったから」
「ああ……そう……少しだけさぁ、スムーズに動けるようになった気がするから、
今のうちに身体に刻み込みたくって…ごめんね、気付かなくって」
バニラは、首を横に振って、
「……動き……すごくいいと思う」
「……ホント?」
バニラはうなずいて立ち上がると、腰の剣を抜いた。
「…え?…もしかして、稽古してくれるの?」
バニラは構えて、うなずく。
「……ありがとう……じゃあ、行くよ!」
それから、一時間ほどバニラは稽古に付き合ってくれた。
初めてバニラと剣を合わせたが、バニラの剣技の美しさに、驚かされた。
もし、自分が切られて死ぬなら、ぜひバニラに切られたい。
そう感じさせる美しさだった。
「……ハァ…ハァ…ごめんねバニラ、つき合わせちゃって」
バニラは剣をしまい、首を横に振る。
「……すごく強くなってる」
「ありがとう…バニラにそう言ってもらえると、嬉しいよ。
…でも一本も取れなかったな」
バニラは、少しだけ微笑んでくれた。
その日の夜、ある事件が起きた。
団の子供が二人、村の子供が三人いなくなったのだ。
この村には、元々3組の家族が自給自足で暮らしている。
その家族らと、ロデオソウルズは交渉をして、しばらくの間、
村に住ませてもらっていた。
その家族の子供と、団にいる子供が仲良くなり、
五人で遊んでいたが、親たちが夕方過ぎても子供が帰ってこないと、言ってきたのだ。
今は、団長と副団長が不在の為、
こうした有事の時には、一番隊の隊長ニーナが指揮をとる事になっている。
ニーナは、50人の団員を集め、捜索をする事にした。
団員は、街にいた時の5分の1ほどになっていた為、
多くの人員を用意できなかった。
今の時刻は、すでに19時を過ぎている。
山は完全に暗闇となり、大変危険な状況となっている。
「今から、この50人で手分けして、五人の子供を捜索する。
各十名ずつで組みになり、範囲を決めて捜索にあたってくれ。
ただし、注意してもらいたい。
山の中は完全な暗闇で、視界はひどく悪い。
野生動物も多く…皆知っているだろうが、キメラも出現する可能性がある。
もし、遭遇した時には、必ず逃げるよう命令しておく。
決して、二次被害を出さぬよう、気を付けて行動してくれ」
団員は、決められた捜索区域に分かれていった。
マキオはバニラを隊長とする班に入り、捜索に出た。
バニラは森で迷わないように、目印と松明を木に付けながら、進んでいく。
そして、所々に水と缶詰を設置し、
もし子供が見つけたら、食料を手に出来るようにしていった。
大声で呼びかけながら進むが、一時間以上経過しても、状況は変化しなかった。
それどころか、雨まで降り出し、最悪の状況となっていった。
二時間捜索をした所で、バニラは少し休憩を取る事にした。
マキオはバニラに近づき、話をする。
「バニラ…あのさ、キメラって確か初日に話してくれた化物の事だよね?
生物兵器の実験で作られたっていう……」
「…うん…数も少ないし基本的に山や森にしかいないから、普通は出会う事はない。
でも、夜には活動的になるから……だから、絶対に夜は山に入っちゃいけないって、
子供達も皆んな知ってるはずなんだけど…」
マキオは闇雲に探しても、見つかる可能性は低い気がしていた。
子供でもキメラの事を知っているなら、当たり前に山の中にいるとは思えなかった。
雨も降ってきてるし、どこかに隠れてるんじゃないかと考えた。
「……あのさ、バニラ……狩猟をやってた時に、この辺を歩き回ってたと思うんだけど…」
バニラはうなずく。
「その時に、村以外に建物とかなかった?
山小屋とか物置小屋とか…」
バニラは少し考えながら、
「………かなり離れた所に…壊れかけの神社があったけど…」
「もしかしたら、そこに隠れてないかな?
場所とかわかる?」
バニラは強くうなずき、立ち上がって出発の指示を出した。
それからもう一時間ほど歩くと、暗闇の中に、何か人工物のようなものが見えて来た。
それは、石の階段だった。
松明で照らすが、頂上は見えない。
かなりの段数がありそうだった。
何段か登った時に、マキオは変な違和感を感じ、立ち止まる。
「バニラ……何か……いるかも」
バニラは、階段の途中でとまり、みなに火を消すように指示した。
辺りは暗闇に包まれ、音は雨にかき消されてしまい、何も聞こえてこない。
それでもマキオには、何かがいる気がしてならなかった。
バニラは、カイトからマキオの感覚の鋭さを聞いていた為、
疑う事なく、信じていた。
バニラは、剣を静かに抜き、階段を確かめるように一段ずつ登って行く。
少しづつ暗闇に目が慣れてきた。
しばらく登って、やっと頂上が近くなり、建物のシルエットが闇の中に浮かんできた、
その時……建物の前に、巨大な何かがうずくまっているのがわかった。
バニラは、手で皆を制し、歩みを止めさせた。
……キメラだ
誰もが、直感でそうわかる程の異様さだった。
皆はしばらく、動かずにいたが、相手も近づいてはこない。
十メートル以上離れているが、その大きさは、クマなどの比ではなく、
大きな象を、もう二回りほど大きくしたほどの巨大さだ。
明らかに、野生にいる動物の大きさではなかった。
形は熊に似ているが、体毛がなく皮もないような感じで、
筋のようなものが、全身を覆っている。
腕は特徴的で、アンバランスに太くて長く、人の手の形をしていた。
だが、マキオはふと、ある事に気がつく。
建物の中にチラチラと、明かりのような物が見えている気がする。
……何かがおかしい。
マキオは、そう感じた。
明かりがあるのなら、誰かが中にいるのだろう。
だが、それならなぜこの巨大な化物は、ここにいるのだろうか?
………
もしかしたら、と思いバニラに小声で話しかけた。
「あのデカイの……もしかしたら、もう…」
バニラは、少し考えてからうなずくと、二人はそいつに近づいて行く。
すると、強い刺激臭がしてきた。
そして、剣が届く距離までくると、二人にはわかった。
その化物には、頭がなかった。
すでに生きてはいなかったのだ。
バニラは急いで、建物の中に入る。
中には、囲炉裏があり火が焚かれていて、周りに五人の子供たちが眠っていた。
皆が、子供たちを背負い、急いで村に帰って行く。
ただマキオは、その光景を見ながらも、違和感が消えなかった。
キメラは死んでいたのに、あの時の気配は何だったのか…
そして、誰が……このキメラを……
部屋の中には、かすかにタバコの匂いがしていた。
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