第27話アドバイス
旅館の一室。
片桐が、椅子に腰掛け、冷めたコーヒーを口にしている。
霧雨の煙る日本庭園の中庭を眺めていると、
カイトが中庭に入って来た。
カイトは、何も言わず池の辺りに佇む。
「……?…カイト…何か?」
片桐が座ったまま尋ねるが、カイトは答えない。
いつもは、軽くフワッと風にそよぐ綺麗な髪も、
今は霧雨にしっとりと濡れ、毛先に雫が憩う。
「…?」
片桐は、いつもと様子の違うカイトを見ていると、
小さく何かをつぶやいたように見えた。
片桐が、靴をはき中庭に降りて、カイトに近づく。
「………水も滴るいい男と言いますが……
今の私には、その色気は必要ありませんが…?」
カイトは、何かをつぶやいた。
「………を出すナ」
「?」
カイトの声は片桐には届かなかった為、片桐はもう一歩カイトに近く。
……と、その瞬間に閃光が眼前を走る。
片桐は上体を少しだけ反らして寸前で刃をかわし、腰のサーベルを抜き払う。
カイトは体を前に入れ、サーベルより先に片桐の右横に移ると、ナイフを逆手に持ち替え、
首筋に突き立てる。
とっさに片桐はサーベルを放し、ナイフを持つカイトの左手を払い、軌道をそらせながら、
左の脇腹に膝を入れる。
カイトは、払われた手の反動で体をひねり、回し蹴りを放つ。
片桐は、蹴りを左手で受け反動で後ろに押しやられながら、次の追い討ちに備え、
腰から短剣を抜き、構えた。
一連の攻防は、一瞬の間に行われたが、互いの間合いを嫌う事で、
動きが止まった。
互いに、言葉を発さず、瞬きもしないまま数秒が過ぎる。
片桐は、先に短剣を収めて両手を広げ、無抵抗を示した。
「……カイト……戦闘訓練は…予約を入れて頂きたいのですが…?」
「………何のつもりだ…」
「?」
片桐は、何の事かわからないと言う感じで、目を細めた。
「……今度のおもちゃは…マキオか…」
片桐は、何かを察して静かに息を吸って、鼻から抜いた。
「………何を言うかと思えば、そん…」
「アイツだけで十分だろ……?」
片桐をさえぎったカイトの言葉に、片桐は黙って目を閉じ、
右手で左の肘を支え、左手の人差し指を額につけた。
カイトはまだ続けた。
「…十分…間に合ってるだろ…」
「………」
「……俺のモノを奪うな…」
片桐は目を閉じたまま、口だけを動かす。
「あなたの……モノではない」
カイトは、無視して喋る。
「まだ足りないか?」
「………」
「バニラを…利用してまで…おもちゃが欲しいか……?」
片桐は、目を薄く開いたが、喋りはしない。
「あの時…オレは……何も言わなかった」
「………」
「最初で最後だと思ったから…」
「………」
「…二度は…許さない」
「………」
「伝えたぞ……?」
薄く開いた瞳だけを、カイトに向ける。
「………脅し…ですか?」
「…アドバイスだ……」
カイトは足元に落ちていたサーベルを蹴る。
サーベルは、片桐の頰をかすめ、土壁に突き刺さった。
片桐は、瞬きもせずにカイトを見つめる。
カイトの瞳には、光が映っていなかった。
「……じゃあな」
カイトは立ち去っていった。
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