第22話散髪
温泉の近くの河原に、マキオとコノハがいる。
「…このくらいでどう?
…それとも、もう少し切る?」
コノハは、用意してくれた鏡でマキオに写してくれる。
「うん……もう少し短くしてもらっても、いいかな?」
「わかった…じゃあ、もう少し切るね」
風の音と川のせせらぎ、ハサミの動く音が心地よく響いてくる。
お昼過ぎの、ゆっくりとした時間が流れていた。
マキオは、ロデオソウルズに入って、初めて髪を切ってもらっている。
「すごいね、コノハは。
治療だけじゃなくて、髪も切れるなんて」
「別に凄くないよ。
治療は、基本的に柊さんの手伝いだし。
髪だって、弟が三人いてよく切ってあげてただけから」
「そうなんだ。
それで世話をするのが上手なんだね」
「もう…そんなんじゃないよ」
コノハは照れているようだ。
コノハとは、バニラと一緒に飲み会をした時に知り合い、普通に話ができる仲になった。
薄い茶色の髪を肩まで伸ばして、セルロイドのメガネをかけた、女の子らしいタイプだ。
医療班に所属してるが、料理係としても働いている。
ロデオソウルズの女の子は、団という場所からか、心なしか気の強目な子が多い。
でも、コノハはとても控えめで、どこかふわっとしていて、一緒にいて落ち着ける感じがしていた。
コノハも、マキオは気を使わずに話せると、言ってくれていて、
なんとなく、同じ空気感を持っているような気がしていて、マキオは嬉しかった。
ハサミの音を、小さく響かせながら、コノハが話しかける。
「マキオ君、最近ケガする事が増えてきたけど、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。
戦闘のケガじゃないから。
少し前から、片桐さんに戦い方を覚えてほしいって言われて、
指導してもらってるんだ。
この目と鼻は違うけど…」
「そうなんだ。
無茶しないでね、マキオ君はあんまり戦いに向いてる気がしないし」
「うん、自分でもそう思う。
恥ずかしいけどね」
「恥ずかしいなんて……そんな事、思わないで。
マキオ君だから言うけどね…シュラは……そういう所だから、仕方ないってわかってるけど、
それでもやっぱり、人が争うっていうのは私…嫌だな」
「…うん…僕もそう思う」
「私達みたいな人は……本当にこんなトコに来ちゃ、ダメだったね」
「……うん」
少しだけ強い風が吹く。
二人は何も言わず、ただ、風がおさまるのを待っていた。
日頃は、考えないようにしながら、心の奥にしまっている思いだ。
このシュラで、なぜ自分は生きているのか。
なぜ、誰かと争いながらも生きているのか。
償えない苦しみを抱えたまま…
もう…二度と戻れない世界の記憶を抱えたまま…
…なぜ……
「…はい。
こんな感じでどう?」
コノハが見せてくれた鏡に写った自分は、伸ばしっぱなしの髪は短くなり、
決してネロに似てるとは思わなかった。
「うん、ありがとう。
すごくいいよ、さっぱりしたし」
「うん。
短髪も、似合ってるよ」
「そうかなぁ…ははは。
そうだ、何かお礼をしなくちゃね」
「もう、いいよそんなの」
「いや、そうはいかないよ。
本当に助かったと思ってるんだ。
大した事はできないけどさ、料理の下ごしらえとか、片付けとか、
なんか手伝える事ないかな?」
「う〜ん…本当にいいんだけど……
…何か……えっと…あっそうだ、マキオはポーターだよね?」
「うん、何で?」
「今ね、山奥だから街に物資を調達に行けないでしょ?
だから、食料の物資も限りがあるの。
それで節約しないといけなくて」
「うん」
「それでね今朝、バニラがこの近くで狩猟をするからって出て行ったんだけど、
もし獲物が捕れたら、一人で運ぶのは大変だと思うから、
もし良ければ、見に行ってあげてくれると助かるんだけど…」
「ああ、全然いいよ!行く行く!」
マキオは急に大声を出した為、コノハは驚いてしまった。
「わっ…だ…大丈夫?」
「うん、すぐ行くよ!
どっちに行けばいい?」
「あ…あっちだけど…」
「わかった、じゃあ行ってくるね!」
コノハは、急にハイテンションになって、
あっという間に走って行ったマキオを見て、首をかしげた。
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