第21話ミミミ


中庭に面した縁側で、マキオとニーナ、そしてミミミが、

腰掛けて話をしている。


「ミミミ、お前が勘違いしたんだろ?

 じゃあ、やっぱり悪いのはミミミだよ。

 さぁ、マキオにちゃんと謝るんだ」


ニーナが腕を組んで、ミミミを説得する。


「……」


ミミミは、眉を「ル」の字に、吊り上げ、

そっぽをむいている。


ふわふわの桃色がかった明るい髪は、耳の下辺りでくるっと巻いている。

瞳は黒目がちで、少しだけつり上がり、いたずらっ子さを強調している。



「いゃ……いいですよ、ニーナさん…

 謝ったりするような事じゃ…」


三人で話していると、カイトがやってきた。

その右目はプックリと腫れている。


「マキオ、ダメだぞ!

 このガキンチョには、いつも苦労させられてんだ。

 ちゃんと謝らせろ。

 そして…俺にも謝れー!」


どうやら、カイトの頬はミミミにやられたらしい。


「うるせぇー!」


ミミミはカイトに向かって置いてあった、救急箱を投げ飛ばし、

凄い速さで逃げ去っていった。

カイトはよけて、ミミミを追いかけていく。


「……あ〜ぁ、ミミミちゃん…逃げちゃいましたね…」


「ふぅ…ったく、困ったものだ。

 マキオ、どうだ?血は止まったか?」


鼻栓を抜くと、ツー鼻をつたってくるのを感じ、

慌てて上を向く。


「あぁ、まだみたいですね…」


ニーナは、ティッシュをもう一度小さくして、マキオの鼻につめてくれた。


マキオは、一番隊隊長ニーナの怖い場面しか見た事がなかったからか、

二ーナに接近され、ドキドキしてしまった。


(…ニーナさんて、怒ってないとこんな綺麗な人だったんだなぁ…

 良い匂いもするし……)


「……マキオ、どうした?」


「…いやっ、あ…ありがとうございます…」


「フフ…気にするな」


ニーナは立ち上がり、中庭に出ると散らかっている救急箱の中身を拾う。

マキオも手伝おうと立ち上がるが、右目がふさがっている為、ちょっと変な感じだった。


「…ニーナさん、ミミミちゃんて何歳なんですか?

 かなり小さいみたいだけど…」


「いくつだったかなぁ?

 でも、そんなに子供でもないんだ。

 中学生くらいだったと思うけど…

 マキオ、いいよ座っときな」


「あ…すいません。

 中学生か……今ここにいる人達は皆、大人だから、

 友達がいなくて、寂しいんですかねぇ?」


「どうだろうな…ミミミは団に来た時から、なんていうか…

 ずっとあんな感じで、反抗ばっかりしてるから。

 街にいた時は、他に子供もいたけど、その子らとも、

 仲良くはなかったし」


「でも……僕を殴ったのは…あの…ネロさんと勘違いして…

 抱きついたからって言ってましたけど、ネロさんとは大丈夫って事ですか?」


「ああ、ミミミを連れて来たのは、ネロだから」


「へぇ…そうなんだ。

 もしかして、ネロさんの…?」


「…違うよ、ネロの子供じゃないよ。

 ミミミの親は別の人」


「ですよね。

 ミミミちゃん可愛いし、ネロさんとは似てないですから」


「何故かは知らないけど、ネロには懐いてる…っていうか、

 まとわりついてるっていうか…」

 まぁ、あれでも最初に比べたら、他の団員にも慣れてきた方なんだ」


「そうですか、でもなんだか少し可哀想だな」


二人で話していると、中庭に一人の女性が入って来た。


「あれ?ミミミは?」


「ああ、どっか逃げて行った」


「そう…どうしたのその怪我?」


その女性は、長い髪を後ろで結び、身体のラインが見える、

忍者のような黒っぽい装束を身につけている。

顔には、動物の仮面をつけていた。

マキオは初めて見る人だった。


「…あぁ、ちょっと…」


ニーナがマキオの代わりに答えた。


「ミミミだよ、ネロと勘違いして、マキオ抱きついたんだ」


「あ〜、それで気づいて殴られた」


「…まぁ…ははは」


「キツネ、お前がちゃんとミミミを見ててやらないからだぞ、

 会議が終わってから、どこに行ってたんだよ?」


「ごめんごめん…ちょっとね…

 えっと…初めてだよね、マキオ。

 ふ〜ん……確かに顔も少し…髪が伸びてる感じもネロに似てるかも」


「そうですか!?……切っておきます…」


マキオは、キツネからネロに似ていると言われ、かなりショックだった。

自分は団に入ってからは、頑張って出来るだけ明るく皆んなに接してきたつもりで、

まさか、ネロのような暗すぎる印象の人と似てるなんて、言われるとは思ってなかった。


「あれ?ネロに似てるって言われて、嫌だった?

 マキオもネロの事、好きじゃないんだ?」


「キツネ、マキオをからかうな」


「フフフ…ゴメンね、ジョーダン。

 でも、ネロもあんな感じだけど、顔は結構イイ感じで、女にはモテるんだよ?

 だから、マキオもね。

 例えばバニ…」


「キツネ!

 いいから、早くミミミを捕まえとけよ」


「は〜い。

 二ーナ怖いんだからまったく…

 じゃぁね、マキオ」


キツネは手をひらひらとさせて、去って行く。


「マキオ、ごめんな。

 あいつと会うのは、初めてだったろ。

 キツネは、団長の情報部員でさ。

 仕事柄、団にはあまりいないんだ。

 ちょっと、性格的に人を逆なでする所があってね。

 悪く思わないでくれよ」


「…はぁ………二ーナさん」


「ん?」


「……団員に髪切るの上手い人います?」

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