第14話ザラミ3
数時間後……
真柴陣営
廃ビルの上階に設置した司令室から、ドルアーゴが下を覗いている。
「はっはっは真柴!お前の読み通りだったようだな!
わざわざ大将のおっさん自ら、先頭に立って、乗り込んできやがったぞ!」
真柴は、食事をしながら話を聞いている。
「馬鹿が、ザラミめ。
団長が真っ先に死んでどうする?
そんな頭しかないから、団を乗っ取られるような事になるんだ」
「どうやら、クルスムスは殺られたようだな、ナムナム…
まぁ、気に食わん奴だったから、ありがたかったがな!」
ドルアーゴは、念仏を唱えるふりをして、笑っている。
「自分の身も守れん奴が、コネだけで幹部になったツケが回ったんだろう、
いい気味だ。
ドルアーゴ、戦況はどうなってる?」
「……う〜む…おっさん、中々やりおるなぁ…」
還暦を過ぎたザラミの身捨ての戦いは、凄まじかった。
一人で二千人の団を築き上げただけあって、他の者を寄せ付けないほどの、戦いぶりだった。
そのザラミの愛剣モンゴル刀の前には、巨団オルトロスの団員さえ、気押されていた。
「お前も見ておいた方が良いぞ、真柴!
真っ先に死ぬどころか、誰よりも強ぇじゃねぇか」
ソドム総統と張りあってたってのは、納得できるのぉ」
「ふん、年寄りが張り切りやがって。
だが、このままじゃこっちの団員の士気が落ちてしまう。
仕方ないドルアーゴ、お前が行って成仏させてやれ」
「おっしゃ!久々に燃える相手とやれそうだな!」
ザラミの獅子奮迅の戦いにより、アスタリスクの団員は、実力以上の力を発揮し、
真柴隊を押していた。
しかし、副隊長の武僧ドルアーゴの出現により、状況は一変する。
「なんだ、ありゃ!あんなもんでやられたら、骨も残らないぞ」
アスタリスク兵は、ドルアーゴを見て、一気に怯んで行く。
身長2メートルを超える巨体の、ドルアーゴが振るう武器は、その身の丈をも超える極太鉄棒だった。
その棒先に触れた者は、風船が割れるように、弾けて消えていった。
「ヤベェぞ、逃げろ!」
「誰か、あの化け物を止めてくれ!」
「オラオラ!見えたぞ、ザラミのおっさん!
なかなかやるじゃねぇか!
その勇壮に免じて、俺が念仏を唱えてやろう!」
「出てきたな!貴様がドルアーゴだな!
噂通りの巨体だなぁ。
しかし、デカさを武器にしているようだが、
それが命取りになることも、学んでから来るんだったな!
よし!お前ら、今だ!」
ザラミの合図とともに、ビル群に潜んでいた弓隊から、ドルアーゴの巨体めがけ、
一斉射撃が行われた。
何十という矢が、ドルアーゴのみを目掛け、飛んでくる。
しかし、ドルアーゴは持っていた30キロの鉄棒を見えない程の速さで回転させ、放たれた幾つもの矢の雨を
ことごとく叩き折ってしまった。
「はっはー!どうした、おっさん!こんな作戦は今まで何度も食らってるぞ?
こんなもんで殺られる奴は、オルトロスでは生き残っていけねぇんだよ!」
ザラミの作戦は、効果を発揮せずに終わってしまった。
「くそっ、仕方ねぇ!お前らは手を出すな!俺がこの大仏殺しをしてやる!」
「そうこなくっちゃな!待ってたぜ、おっさん!少しは楽しませてくれよ」
戦場は、団長ザラミと副将ドルアーゴの一騎打ちとなった。
速さで勝るザラミは先手を取った。
しかし、そのモンゴル刀は巨体に届く前にドルアーゴの極太鉄棒に阻まれる。
振りかぶり、放たれたドルアーゴの一撃で、180センチを超えるザラミの身体は、いとも簡単に宙を舞ってしまった。
ザラミは、地面に打ち付けられたが、すぐに態勢を立て直し攻撃するも、
何度も同じように弾き飛ばされ、地面に打ち付けられてしまう。
「こ…こいつ、ただデカイだけじゃねぇ……相当な実戦慣れしてやがる…
くそっ…ここまでか…」
「どうした、おっさん。
もうちょっと、手応えがあると思ってたが、どうやら歳には勝てなかったようだな!
そろそろ終わりにしてやる、まぁソドム総統には、喉仏を渡してやるからのぉ、
ちゃんと成仏しろよ!」
倒れているザラミに、無情にもドルアーゴの鉄棒は振り落とされた。
その刹那、ドルアーゴの右の太ももに、一本の鉄槍が突き刺さった。
その衝撃で、鉄棒はザラミの頭を外れ、右肩をかすめた。
「ック・・・誰だ!邪魔しやがったのは!」
ドルアーゴが、槍の飛んできた方向を探すと、
若い男が、髪をかきあげながら、笑っていた。
「どうしたんだよ、諦め良すぎんじゃない?ザラミの旦那?」
ザラミが首を上げて目をこらす。
「お前は…ロデオソウルズのカイト!?」
ドルアーゴに鉄槍を放ったのは、ロデオソウルズ 二番隊隊長カイトだった。
「悪いね大仏さま、横槍入れちゃって」
「何だ!てめぇは!一騎打ちの邪魔をするとは、男の風上にも置けぬ奴め!」
「何だよつれないなぁ、ジョーダンにリアクションぐらいしてよ?
寒いのは、悪かったけどさぁ…」
「ふざけてやがるなぁ!
おっさん、ちょっと待っておけ。
先にこのガキから成仏させてやるからなぁ!」
ドルアーゴは右足に刺さった槍を引き抜くと、カイトめがけて、全力で投げ放った。
その豪腕から放たれた槍は一瞬でカイトの胸に達した。
しかし、カイトは身をヒラリとひるがえし、槍を掴むと二回転し、その勢いを見事に殺した。
「返却どうも。
ちょうど、武器が無くて困ってたんだ。
ザラミの旦那、勝手で悪いけど物資の借り、今から返させてもらうから」
「・・借り!?」
「ごちゃごちゃうるせんだよ!クソガキが!」
ドルアーゴは、見た目に比例しない素早さで飛び上がり、
150キロの体重を乗せた一撃を、カイトめがけて叩きつけた。
カイトは、ギリギリのところで、右側に飛び、身をかわす。
鉄棒は地面に叩きつけられ、爆発したように砂煙が広がる。
その砂煙の中、ドルアーゴはカイトの動きを読んでいたのか、叩きつけた鉄棒を水平に振り抜き、カイトに追撃を食らわせた。
鉄棒がカイトの身体を捉えたら、その圧倒的な圧力により、カイトの身体は、弾けるようにバラバラに吹き飛んだだろう。
しかし鉄棒が捉えたのは、身体ではなく、槍だった。
カイトは迫ってくる鉄棒を槍で受けると、受けた衝撃点を支点として、身体を縦に回転させた。
そして、その縦回転の勢いを利用し、槍を弾いて弧を描くように振り回し、ドルアーゴの頭に叩きつけた。
カッ!という音と同時に、ドルアーゴの頭は、両耳を境にして、綺麗に顔と頭に切り分けられた。
戦場には一瞬の静寂の後、割れるような歓声と悲鳴が同時に巻き起こった。
「ふぅー…ザラミの旦那、休んでる暇ないよ、この勢いで残りのオルトロス兵も片付けちゃおーぜ!
よしっ!カイト隊、突撃ーっ!」
カイトの掛け声で、どこからともなく、ロデオソウルズの大群が現れ、真柴隊に切り込んでいく。
思いがけない援軍により、アスタリスクの団員は大いに活気付き、勢いを取り戻した。
真柴隊の士官たちは、副長を失い、押され気味の団員の士気を上げるために、声を張り上げる。
「怖気付くなっ!俺たちには、まだ真柴隊長がいる!
俺たちは、常勝の真柴隊だ!!」
その言葉に、団員たちも、
「そうだ!ここで負けたら、真柴隊長に殺されるぞ!」
「真柴隊長がいる限り、俺たちは負けはしない!」
と、一気に盛り返す。
ザラミは、負傷した肩を押さえて立ち上がる。
「っく・・副長を倒しても、この勢い・・真柴にはそれ以上の信頼があるということか・・」
その時、真柴隊の本陣だったビルから、一つの影が現れた。
「真柴隊長が来たぞ!」
「これで、この戦いはもらった!」
歓声とともに、戦場の熱は一気に上昇した。
ザラミが目にしたその影は、光の下に出ても影のままだった。
影は、全身に黒い装束をまとい、右手に大きめのボールを持っていた。
「・・・あいつが真柴か・」
ザラミがつぶやくと、影は持っていたそのボールを近くにいた真柴隊の士官たちの元に投げた。
士官たちは、何が起きたのかわからなかったが、その投げられたボールが地面に落ち、何秒か経ってから、気づく。
そのボールが、真柴隊長の首だったことに。
そして、そう気づいた時に、士官たちの隣に影はいた。
次の瞬間、影は五人いる士官たちの間を、縫うように歩いた。
ワンテンポ遅れて士官たちの首は、まるで牡丹の花が落ちるように、
ボトっと音を立てて落ちていった。
「真柴隊長の首は落ちたぞ!
アスタリスクの勝利だ!
勝どきをあげろ!」
戦場に歓声が響き、逃げ去る真柴隊、追うアスタリスク兵。
そして、戦場に幕が下りた。
ザラミに団員がかけより、肩の傷に布をまいていく。
ザラミは、痛みも感じずに、敗走していく真柴隊を見つめていた。
「・・・勝ったのか・・」
しばらくすると、参謀のマコトがやって来た。
「ザラミ団長!やりましたね!」
「ああ・・・・あいつらが来たからだ・・おい・・・カイト!」
「ん?ああ、ちょっと待っててくれよ、もうすぐ、うちの団長もくるから」
「何!?団長の八雲が?どういうことだ?」
「ほら、噂をすれば、お出ましだよ」
ニーナと片桐を連れ、八雲が現れ、ザラミの前に立った。
「八雲・・あんた一体・・どういうつもりなんだ?」
「別に。
ただ、やるべきことをやっただけだ」
「やるべきこと?いや、全然わからんのだが……なぜ、敵である俺達を助けたんだ?」
「あなたの参謀から、この戦いのことを聞いた。
だから、勝手に参加させてもらった」
ザラミがマコトを見ると、マコトも少しうろたえた。
「いや、確かにお話はしましたが、しかし、私は援軍などは……」
「だから、勝手にと言っている、何度も言わせるな。
そして、話がある」
「話?」
「ああ、私たちは、イグニス地方に行く。
だから、そこまでの道を開けろ」
「ここを捨てて、イグニスに行くというのか?」
「ああそうだ、だからもうあなた方の相手をするつもりはない。
だからそちらも、私たちに手を出すな、いいな?」
ザラミは、マコトを見ると少し考えてから、うなずいた為、
承諾する事にした。
「・・・・ああ、わかった、約束する」
「よし、あと頼みがある」
「なんだ?」
「私たちは、イグニスに行くが、全員ではない。
居住を変えるのは危険だから、行きたくない人達もいる。
その人たちを世話してほしい」
「…何人だ」
「私たちは二百人で行く。
残る千人を頼みたい」
「失礼、八雲団長、よろしいですか?」
マコトが、話をさえぎる。
「なんだ」
「そのお話、我々にとっては住民も増えて、ありがたい話です。
しかし、先ほど我々が相手にしたのは、巨団オルトロス。
おそらく、しばらくしたらここにオルトロスが攻めてくるでしょう。
その時には、彼らも危険な目に合わせてしまうことになってしまいます。
連れて行って頂いた方が、危険はまだ少ないかもしれませんが…」
「ああ、私もそれは心配だったから、手は打ってある。
あなた達アスタリスクは、イグニスの巨団「アレクサンダー」と同盟を組めるよう、話を通してある」
「アレクサンダー」はイグニスに本拠地を構える巨団で、数だけで言えばオルトロスよりも多い。
しかも、距離も近い為、十分な戦力を期待できる。
しかし、ザラミはソドムの裏切りもあり、同盟は不安だった。
「その、同盟というのは、傘下なのか?」
八雲は、首を横に振る。
「話は、参謀からも聞いている。
この同盟は、直属や傘下ではなく、対等な関係の同盟だ
オルトロスも、アレクサンダー相手なら、簡単には手は出してこない、だから大丈夫だ。
そう遠くないうちに、使者が来るはずだ」
あまりにも、自分達にとって良い話だった為、マコトはにわかに信じられなかった。
「そんな……どうしてそこまで、我々を助けてくれるのですか?」
「あなた方を助けるのではない、また恩義を売りたいのでもない。
私たちは置いていく仲間を守りたいだけだ。
だから、よろしく頼む」
ザラミは、その八雲の飾りも淀みもない言葉に、嘘はないと確信できた。
「ははははっ、素晴らしい、俺たちはお前たちを誤解していた。
もっと早く色々と話をするべきだったようだな。
悔しいが、力も知恵も、俺が太刀打ちなどできる相手ではないという事を、
痛いほど味あわせてもらった。
噂以上の力だ。
それに、こうなる事は、全て八雲と片桐の計算通りなのだろう?
いや、返事は結構、もう何も言わないでいい、俺もそこまでバカじゃないからな。
マコト、彼らの望みは何も聞かず、全て受けさせてもらおう」
「わかりました、団長」
「理解を頂き、助かった。
お礼というわけではないが、そちらの防衛強化の為に、必要な者がいる。
ニーナ、連れてきて」
ニーナは袋をかぶせた男を連れてきた。
「!!・・まさか!?」
ニーナは男の袋とった。
「船戸!!無事だったのか!」
「すみません、団長、大変な時に力になれずに!!」
「何を言う!……生きていて…くれただけで…十分だ……」
八雲は背を向ける。
「私の話は以上だ。
細かい調整があるなら、片桐に話をしてくれ。
では頼んだ」
八雲はニーナと、帰って行く。
その後ろ姿を見ていると、ザラミには八雲が戦さ場に舞い降りた天使のように感じた。
「片桐さん、全てあんたらの手の平で踊らされてたようだ。
全く、凄い団長についたもんだな」
「ええ…幸か不幸か……ね」
片桐も、八雲を少し眩しそうな顔で、見送っていた。
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