第13話ザラミ2
ザラミの謀反から、三日後…
ロデオソウルズ陣営、司令室。
片桐が足を組み、本を読んでいる。
「コンコン」
「どうぞ」
ドアを開け、ニーナが入ってくる。
「片桐副団長、お客様だ」
ニーナに連れられてきたのは、アスタリスクのマコト参謀だ。
片桐は、人好きする目を少し薄め、マコトを見つめる。
「おや、どうなされました?てっきり、私は戦いの最中だと思っていたのですが?」
マコトは、額にジワリと汗がにじんだ。
「……確かにその通りだ、申し訳ない」
「ははは、そんな、いきなり謝らないでくださいよ、喧嘩両成敗と言いますから。
それに…
まだ決着はついてませんよ?」
片桐は、軽く笑みを浮かべたが、マコトには、その目が全く笑っていない事は、すぐにわかった。
マコトは、この名だたる団の幹部を務めていたという片桐と初めて対峙し、
自分達が、とんでもない男を相手にしてしまっていた事を、改めて後悔をした。
この男はロデオソウルズでは、副団長兼参謀を務めているが、
おそらく全ての実権を握っているのだろうと推測できた。
知性的な容姿と、均整のとれた身体、
穏やかな笑顔の下には、微かに覗く狂気も垣間見える。
そこには、初見の自分にさえ感じる、常人では持てないカリスマ性が溢れていた。
マコトは、これほどの人間を見た事がなかった。
おそらく、この男には嘘やハッタリは通用しないと悟る事ができた。
「片桐さん、実はお願いがあって参った。
誠に身勝手で申し訳ないのだが、一時休戦にしてもらえないだろうか?」
「・・ほう、それはなかなか興味深い話ですね?どうされました?」
「理由は……勝手なのだが、できれば聞かないで頂きたい。
もちろん、タダで休戦しろとは言わない。
休戦を受けて頂ければ、二千人分の食料と医療品の物資を、共に3ヶ月分お渡しする」
「ほう……マコト参謀長殿、一つ言わせて頂いても?」
「…どうぞ」
「では、まずこの「シュラ」には、ルールは存在しないという事を、ご存知でしょうか?」
「…ああ、承知している…」
「よろしい。
では、その中で休戦というものを守る理由も存在しない…という事にもならないだろうか……双方に…ね」
「……」
「それに、我々ロデオソウルズは、今が攻め時だと知っている。
戦いに勝てば物資など、貰わなくとも全て手に入るのだから」
「……」
「そういったことを全て分かった上で、あなた方は休戦を望むのですか?」
マコトの背中は、水でも浴びたかのように、グッショリと濡れている。
「…はい…全て理解した上で、お願いに上がりました」
「よろしい、お受けしましょう」
「!」
「しかし、二つ条件があります。よろしいですか?」
「……何なりと」
「物資は5ヶ月分とすること、
そして、休戦の理由を、隠さずに全てお聞かせ願いたい」
「……わかりました。お話しいたします。
実は……」
__________________________
片桐とマコトの会談から、五日後……
クルスムスの援軍要請を受けたオルトロスのソドム総統は、
真柴隊長に命じ、千名を率いさせ出兵。
アスタリスクの本拠地より、30キロ離れた街に逗留。
クルスムス本人からの、伝令を待つ。
真柴隊長は、愛剣のバスタードソードを研ぎながら、司令室で副長のドルアーゴに話しかける。
「ドルアーゴ、クルスムスのやつ、何かあったんじゃないか?」
「連絡が取れないからか?」
「ああ」
「連絡が取れないのは、前線に出ているからだ、
とアスタリスクの団員が言ってたじゃないか」
ドルアーゴは、巨大な僧兵のような出で立ちをし、写経をしながら聞いている。
「確かに、そう聞いたが、よく考えてみれば、
いくら、小団との戦いだからって、あの口だけ番長が、
わざわざ、自分から前線で指揮するなんて、ありえるか?」
「そう言わてみると、確かにおかしいかもしれんなぁ。
だが、何かあったとしたら、何がある?」
「分からんが、もしそうだとしたら、アスタリスクの奴らは、
わざわざ嘘の情報を伝えてきた事になる。
用心しておいた方が良いかもな」
「まぁ、真柴がそういうんなら、一応警戒はしとくが…
しかしちっぽけな団が、巨団オルトロスに楯つくなんて、そんな無謀なことをするとは思えんがなぁ…」
「クルスムスが、オルトロスを立つ時に、ザラミの要請を受けたソドム総統は、アスタリスクを乗っ取る算段を立てていた。
もしかしたら、団長のザラミが納得せずに、逆らった可能性はあるぜ?
自分が築き上げた城を横取りされるんじゃ、キュウソネコカミでもおかしくないさ」
「それでも、俺ならそんな自殺はゴメンだ。
まぁ話はわかった、下の奴らにも伝えて警戒させておく」
__________________________
真柴隊の千名が逗留して、三日後……
アスタリスク本拠地の司令室。
参謀のマコトが、ザラミ団長に報告する。
「団長、援軍の真柴隊の動きが完全に止まりました。
もう3日も動いていません」
「何?気づかれたってのか?」
「わかりません、しかし、クルスムス本人からの伝令を待っている様子ですから、
もしかしたら、異変に気づいてるのかもしれません」
「ちっ!どうしたら良い?」
「もし真柴隊が異変に気付き、団に帰還してしまったら、今度は、オルトロスが大軍で押し寄せて来るかもしれません。
そう考えると、ここはまだ千名の真柴隊を叩き、オルトロスに警戒をさせておき、せめて対策を考える時間を作るべきかと」
「真柴隊への勝算は?」
「人数的には五分五分、ただ真柴隊は、巨団オルトロスの実戦部隊です。
クルスムスとは違い、指揮の経験も豊富であり、戦士としても優秀。
それに、巨体の武僧ドルアーゴが副将についています。
船戸隊長なき今、どちらも普通に相手をして、勝てる敵ではないでしょう。
こちらが奇襲をかけてたとしても、優位に立てる保証はありません」
「賭けるしかないか…これも全て俺が弱気になったばかりに起こった事だ
…よし、ここは俺が先陣を切る」
「何を馬鹿な!団長は後ろで指揮をしないで、どうするんですか!
焦って先陣を切り、万が一にも討たれてしまっては、元も子もないんですよ」
「マコト…強敵に向かうのに、当たり前にやっていては、勝てやしない。
大将自ら先陣を切って、団員に男を見せるってのも団長の役目なんだよ!
そうすれば少しでも団員どもの士気もウナギ登りよ!
…お前も、覚えておけ」
「団長……確かに、団長らしい考え方ですね…わかりました、
ただし…俺はおっさんの骨など拾いませんからね」
「へっ…心配すんな…小僧のてめぇより、長生きするつもりだよ。
真柴の墓石を用意して待ってろ!
よっしゃ!お前ら出発だ!俺の後についてこい!」
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