第10話甘い水

 バスを降りるとあたりは暗くなり月が出ていた。その黄色の光を見ていると私は何だか自分の胸元がその光と呼応するように感じ月の内にいるような気分になった。それは居心地がよく、水風呂に浸かっているうちにそれが心地よくなっていき自分の一部になるような感覚だった。いつしか血流はその水とともに流れ体内で循環する。ジャン・エヴァレット・ミレイのオフィーリアの絵画が月明かりに照らされている所を私は連想した。その恍惚とした満ちていく時間に私は過去の自分を一時的に忘れさせられていた。それは死を体現し生まれでた新しい生命でありその身は月明かりと共にあった。

 いつしか私は汗で全身びしょ濡れになっており着ているワンピースが張り付いていた。なぜだか涙も出ており唇まで辿り着いた涙は甘い水の味がした。私は強い雨に打たれたのかと錯覚した程であった。しかし空を見上げても雨は降っておらず月が黄色く輝くだけであった。

 私は小走りに家に向かった。身に乾いた風が当たるもじめじめとした体は気持ち悪かった。早く家に帰り熱いシャワーを浴び服を着替えたかった。



 家に帰ると「どうしたの、びしょ濡れよ。お湯は沸いてるから早くお風呂に入りなさい」と爽子が玄関に来て言った。私は寒気がし、荒い呼吸をし震えていた。私はそれに頷くと着替えも持たずに真っ先にお風呂場に向かい服を脱いだ。服は体に張り付き脱ぐのに少し苦労をした。体は硬くなっていて乳首は立っていた。風呂場に入るとまずは熱いシャワーを頭から浴びた。私に着いていた甘い水がするすると排水口に向かい落ちていった。数分シャワーを浴びようやく寒気が落ち着くと私は浴槽に入った。浴槽は入浴剤で白色に濁っており日本酒の匂いがした。

 私はため息を吐き一体何が起こったのかを考えた。夏の雨も降っていない状況でびしょ濡れになるなんておかしい。それにあの時私は普段の私ではなかった。とても気持ちが良かった気がする。あの気持ちは夢で見た月面にいるときの気持ちであると私は気付いた。初めて健と出会いホテルで就寝したときのことだ。

 そんなことを考えていると曇りガラスのドアの外に爽子が浮かび上がり服を脱いでいるのがわかった。そして中に入ってくると「どうしたのよ、びしょ濡れのまま帰ってきて顔面蒼白で震えていて何かあったの?」と言った。爽子は軽くシャワーを浴び私のいる浴槽に入ってきた。爽子のお風呂の水面に薄く浮かび上がったピンク色の乳首を見ていると私は落ち着いてきた。

 私は何が起こったのかを話した。話している間私はその月に招かれている感覚が今は消えていることに気付いた。話し終えると爽子は「不思議な事もあるもねえ」と言い、私の乳首をいじり始めた。私はくすぐったさに身をよじると爽子は淡く笑い「乳首も固くなっちゃったのね」と言った。私は勢い良く爽子に近づくと爽子の乳首を吸い始めた。その可愛らしい乳首を吸っていると私の頭を爽子は撫でてくれた。それから乳首から口を離し爽子の唇に吸い付くようにキスをした。「甘えん坊さんね」と爽子は言った。爽子の肩に手を伸ばし抱きしめてキスを繰り返す。それに爽子は「甘い水の味がするわ」と言った。その言葉に私はさっきの出来事を思い出し硬直した。私が固まっているのを見ると爽子は「何か私悪いこと言った?」と言った。

「私に付いていた液体も甘い水の味がしたの。それは洗い流したはずなのに、どうして私の口の中からその味がするのかしら」

「まあ、落ち着きなさいよ。もしかしたらあなたが一瞬で汗をかいたのかもしれないでしょ」と爽子は言った。私はそれに納得できないものの、キスをもう一度した。

「頭も体もまだ洗ってないの。今から洗う」と私は言って浴槽を出た。

「私が洗ってあげるわ」と爽子は言うと私と一緒に浴槽を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る