第4話めぐりあい、セピア色、赤色



 月日が経ち六月の梅雨が終わり七月中旬になった。季節は夏になり暑い日が続いた。その日はその夏でも無垢なたんぽぽの花の色が陽射しになって光になっているような日だった。休日である日曜日、茜子は公園を散歩していた。肌は汗ばみ濡れていた。そして歩みを進め喉が渇いたので公園の自動販売機でコーラを買って飲んでいると誰かから話しかけられた。

「え?」

「茜子さんですよね?」話しかけたのは健だった。健は夏が来て間もないのに若干日焼けをしていた。

「あ、健くんじゃないですか。こんな場所で会うなんて奇遇ですね。これもまた運命ですかね。あの後、連絡先を交換してないことに気付いて後悔したんですよ」茜子はそう健に笑いかけるとコーラを一気に飲み干し缶のゴミ箱に入れた。ゴトンと機械的な音が鳴ると茜子はゲップを我慢した。急に冷たい物を一気に飲んだせいか頭がクラクラしそれを初夏のほがらかな陽射しが癒やしていった。

「僕も後悔していたんです。あれからあの場所の近くをうろついたりしてあなたを探したんですが中々見つからなくて。半ば諦めていたのですが今日会えて良かったです」健は心底からそれが良かったという表情をし二歩、茜子に近づいた。二人の距離は人一人分くらいの距離を空け二人は立っていた。「ああ、そうだ。あそこのベンチにでも座りましょうよ」健はそう言うとスタスタと歩きベンチに座った。茜子もそれに従いベンチに腰を下ろす。

「連絡先を交換しましょう」茜子はそう言うとスマートフォンを取り出した。健もそれにならいそれを出すと連絡先を交換した。

「そう言えばこの情景、夢で見たことある気がするわ」茜子は少し考え込む素振りをするとそう言った。

「そうですね。僕も何だか見たことあるような気がします。確か月の上のベッドの上でだったような」

「一緒に泊まったホテルで眠ったときのことよね?」急に真剣な目つきで鋭くすると茜子はそう訪ねた。

「もしかして、同時に同じの夢を見たのかな。不思議ですね」

「あの時は満月だった」いつの間にかじんわり冷や汗をかいていた。肌寒さもした。氷で背中を上から下になぞられたようだった。

「今日も満月ですよ」健はそう言うと茜子から顔を逸らした。

「偶然の一致ね。そうだ、今日私の家に来なよ。恋人に紹介してあげる」茜子はそう言うとベタベタとした汗を乾かすように手を団扇にして顔を扇いだ。しかし生暖かな風は人心地付けるのを幾分取り戻してくれた。「ちょっと待っててね。今電話するから」茜子はそう言いスマートフォンのタッチパネルを操作すると通話を始めた。

 構内放送で熱中症に気をつけましょうと流れてきた。女性の声の放送だった。最後に今日は満月ですと締めくくると放送は終わった。

「いいって、彼女待ってるって」茜子はそう言うと柔らかく笑った。

 彼女たち二人の住むマンションはコンクリートに白色のペンキで塗られた高層マンションだった。彼女たちの住む一室は十三階にあった。エレベーターに乗り十三階のボタンを押すと圧迫感のある静寂に包まれた。二人は何も話さずにやがて目的の階に辿り着くとエレベーターを出た。高い階から眺めるこの町の景色は若干セピア色がかかる色合いに変わっていた。そこから一番奥の扉の前に進むと茜子は「ここが私達の住んでる部屋。待ってて鍵を開けるから」と言った。鞄から鍵を取り出すとそれを差し込みくるりと回すと錠を外した。扉を開けると涼しい風が通り抜けた。きっとエアコンを付けているのだろう。「入って入って」健はそれに従った。部屋の中に入るとヒノキのような匂いがし、こじんまりとしてはいるものの女性らしい小物などが棚に置かれた入り口だった。オリーブ色のフローリングの廊下を抜けると右側の机に腰の上まで髪を伸ばした女性がヘッドホンを付けてPCと向き合っていた。後ろ側になり顔は見えない。この人が茜子の恋人なのだろう。健はそう察した。茜子はその恋人の肩を軽く叩くとその恋人は振り向いた。

 髪型は姫カットであり瞳はブライスの人形のようにアンニュイで目の周りに紅っぽい小さな水玉のような化粧をしていた。頬は鋭利さを描き顎が少し尖っている。姫カットの鋭利さと合わさり聡明な印象を受けた。唇は乾燥しているのか凹凸が顕になっていた。服装は赤黒いガウンのようなものを羽織っておりその下に薄いピンクのシャツを着ていた。胸元が膨らんでいて豊満な胸を持つことを服の上からでも伺わせた。その割には痩せていて色白な肌であり、健康そうであるがバランスが揺らぐような錯覚をさせた。

「やあ、いらっしゃい」声は高いもののややしゃがれ、タバコを吸っていることを想像させた。そう思い視線を動かせばデスクには灰皿が置いてあった。その側に缶のピースが置かれていた。

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