第3話シンクロ

 朝になり陽射しが閉じたカーテンを黄々と照らすと二人は同時に目覚めた。両者お互い無言のまま着替えを済ませると健のほうから声をかけた「おはよう」

 茜子もそれに「おはようございます」と返すと陽射しの眩しさに目を細めた。

 昨夜の名残をぎこちなく残していた健はおもむろに「それで恋人ってどんな人なんだい?」と言う。

「私はバイセクシュアルなの。恋人というのは女性で今一緒に暮らしている。学生時代に仲の良かった友人とはあまり会わなくなったけど、その恋人とは大学生の頃出会って今に至るわ。まだ愛情の続いている関係、恋愛関係、昨夜のことは浮気に近いかもしれない、でも私の恋人はそれほど嫉妬深くないの。セックスをしなければフェラをしても裸を見せても良いみたい」茜子はそう言うと複雑な表情を浮かべた。その表情は蜘蛛の体がリラックスしている形に見えた。「今日の朝は晴れで良かったね」茜子はそう言い「質問はそれで終わり?」と聞いた。

「ああ、仲の良いカップルなんだね。僕の付け入る隙はないようだ」健は内心悔しいもののその感情を押しのけ力強い笑顔を作った。

「仲の良い友達でいましょ」茜子はそう言うと満面の笑顔を返し(それは透かして恋人の顔が見えるようなものであった)ポシェットを手に取り肩に掛けた。そして朝の日向にあるドアへ向かいそれを開き出ていった。

 健はそれを見送り深い溜め息を吐いた。朝起きたばかりの倦怠感と僅かな空腹を感じ。近くのコンビニで朝食を買うことに決めた健であった。



 コンビニで買った菓子パンを食べていると「仲の良い友達でいましょ」と言われたものの連絡先を交換していないことに気付いた。このときシンクロニシティと言うべきか茜子も同じことを考えていた。両者とも少々心惜しい気持ちがあったがそれが運命なのかもしれないなと考え忘れることにした。もしかしたら二人は本当の仲の良い友達になれたかもしれなかった。

 健は菓子パンを食べ終わると仕事に向かった。


その晩、茜子は家に帰ると恋人の爽子に昨夜の出来事を語った。

「それでね、連絡先を交換するのを忘れちゃったのよ」

「あら、それは残念ね。気があったのでしょ?そこまでしたなら」爽子はそう言う。

「そうね合っていたわ。バーにあの人が来て雨が止んだりしたしね。晴れ男なのかもしれない。それだけで十分魅力的だわ。今日も晴れだったし。梅雨の時期はホントうんざりね」茜子はそう言うと爽子の唇にキスをした。普段通りの接吻の交わし合い。「それに満月の人ね。昨夜は満月だったし」そう言うと茜子はカーテンを開き空を見上げた。「あら、雲で今日は月が見えない」サーとまたカーテンを閉めると少し悲しげであった。

 そんな茜子のおでこをパチンと爽子は手ではたき「月が見えないからって別に悲しいことではないでしょ?」と言った。

「そうなんだけど、なんだか月が恋しいの。あの黄色の内にいたい。あの中にいると全身が真夏の陽射しに置いたチョコレートのようにドロドロに溶けていくの。そう言えば昨日夢を見たのよ。私は月にいたのそこで昨日出会った彼と一緒にベッドに入るの」

「何よ続きは夢でしたの?」爽子はそう言うと唇を尖らした。「ふーん、そうなんだ」そして目を細める。

「違うわ。ベッドに入るだけ。そこでベッドに天井があるんだけどそこに何かが映し出されるの。たしかあれは彼と私が公園のベンチで座っているところだった」茜子はそれを思い出すように遠い目をしている。「やけにハッキリした夢だった」

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