第32話

 入学式という事で、4人で登校する事を前日に決めておいた事もあり、隆輝は早めにセットしておいた目覚ましで目を覚ます。

 そして意気揚々と朝食をとりに食堂に向かうが、既に他の3人は朝食を終えており、隆輝は何故か敗北感を覚える。

 時間は全く問題ないものの、いつもより短時間で朝食を済ませると、駆け足で部屋に戻り身支度を整えると、急いで寮の玄関に移動した。


「って、もう揃っているのかよ」


 隆輝の言葉通り、他の3人は既に揃っており、アイリと晶はしきりに話をしているが、隆輝に気が付くとアイリは挨拶をし、晶は軽く会釈をした。

 その様子から、晶も昨夜の事は気にしていない様に思え、隆輝も安心する。


 そして、2人から一歩引いた位置で、晋一は大あくびをしていたが、隆輝に気付くと右手を上げて近づいてきた。


「3人とも早いんだな」


「俺やアイリなんかは、朝練とかの日もあるから、この時間でも遅い位だけどな」


「あくびしている奴に言われても、説得力が無いんだが」


 隆輝の言葉に晋一は苦笑する。


「まあ、晶は晶でランニングしていたし、皆結構余裕があったって事さ」


「それだと、俺1人が無駄に寝ていた様に聞こえるんだが」


「か、考えすぎだよ」


 流石にこれ以上晋一を責めるのは、遅れた腹いせをしている様に思え、隆輝は視線を移すと、真新しい制服に身を包んだ晶を捉えるが、晶は隆輝の視線に気が付くと、なぜかアイリの背後に隠れる。


「なんで隠れるんだよ」


「なんとなく」


「まあ、似合ってるじゃないか」


「あ、ありがとうございます」


 晶の顔は少し赤くなるが、指摘すれば反抗されると思い、隆輝は黙っている事にする。


「じゃあ、行きましょうか」


「ああ」


 アイリの言葉に隆輝はそう答えると、4人は学校へ向かって歩き出す。


「入学式って何時からだ?」


「9時半迄に体育館に集合して、10時開始です」


「じゃあ、まだ1時間以上あるじゃないか」


「時間を潰すのは苦ではありませんから、大丈夫です」


「今日は昼までなんだよな」


「そうですね。そうだ、お2人に聞きたいのですが」


 晶はアイリと晋一を見る。


「入学式とかで気を付ける事はありますか?」


「気を付ける事か」


 2人はしばらく考える。


「しいて言えば入学式後のホームルームかな」


 晋一の答えに、晶は気になっているようで幾分前のめりになる。


「いや、自己紹介とかあるじゃないか。あれって緊張するんだよな」


「あ、分かる分かる」


 晋一とアイリは同意しあうが、隆輝だけは釈然としていない様子であった。その事に気が付いた晶は隆輝の顔を見る。


「先輩はどうでしたか?」


「俺は別に」


「確かに隆輝って昨日も堂々としていた」


「そ、そうなんですか」


 晶は意外そうな表情を浮かべる。


「クラス委員になっても、そつなくこなしていたし」


「ク、クラス委員?」


 晶は顔を引きつらせながら隆輝を見る。


「それは、どういう意味かな、晶君」


「いえ、何でも」


「じゃあ、隆輝に心構えとか聞いとけば良いんじゃないか?」


 晋一がそう言うと、隆輝は考え込むが、傍目から見てそれはワザとらしく演技にも思えた。


「心構えか」


「お願いします」


「そうだな、自己紹介ではウケを狙え。そうすれば晶はクラスの人気者になれるぞ」


「結構です」


 その後校舎に到着すると、2年生3人は晶と別れ、各々の教室に向かう。途中アイリは1年生時の教室に向かおうとするが、隆輝に指摘され事なきを得た。 


「お前、何だあの美少女は!」


 教室に着くなり、隆輝は先に来ていた功二に詰め寄られる。


「信じられん、あの黒髪ロング、和風美人そのものじゃないか、どういう事だ説明しろ!」


「とりあえず落ち着こうか」


「ああ、スマン」


 功二はその場で深呼吸を行う。


「で、あれは誰だ?」


「誰の事を言っている」


「え?」


「今日俺達は、アイリと別のクラスの晋一の3人でしか登校していないぞ」


「なんだって」


 功二は途端にその表情を引きつらせる。


「もしかしたら、入学式前に不慮の事故で亡くなった生徒が」


「隆輝! 晶ちゃんに怒られるよ」


 アイリは思わず声を上げる。


「晶? 晶ちゃんか。いい名前だな」


「アイリ」


 功二の反応に隆輝は責めるような視線でアイリを見ると。アイリは途端に慌てだす。


「え、ダメだったの?」


「晶は、俺達が守ってやらなければならないというのに」


「え? え?」


「晶に怒られるぞ」


「嘘?」


「なに朝から馬鹿やっているのよ」


 教室に入ってきた愛美が3人の様子を見て呆れた様に言い放った。

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