第33話
入学式とはいえ、2年生はすでに通常の授業に入っており、その様子を窺い知る事は叶わなかったが、そんな中、帰りのホームルームが終わると隆輝は香織に呼ばれ教室に残る。
「明日の新入生歓迎会だけど」
「新入生歓迎会?」
香織の話では明日行われる歓迎会にて、各委員会やクラブがPRする時間があるとの事で、新設する剣道部もそこに参加出来るらしく、その打ち合わせをしようと言う話であった。
本当は剣道場で話がしたかったらしいが、剣道場は完成こそしているものの、最終的な引渡しが今週末という事らしい。
「でも、どうして香織さん、いや三田村先生が?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「何がです」
「私、剣道部の顧問」
香織の言葉に隆輝は眉をひそめる。
「何よ、その顔は、何なら勝負する?」
「経験者なんですか?」
「もちろん」
「三田村先生」
聞きなれない声に隆輝がその人物に視線を向けると、教室の入り口に1人の女子が立っていたが、隆輝には見覚えが無く、それが他のクラスの女子という事が分かった。
「細川、入って来て良いよ」
女子はそのまま入ってくると、香織と隆輝の前で立ち止まる。少々クセのあるショートヘアに涼しげな目元が印象的な女子は同級生にしては大人びて見えたが、隆輝を見ると微笑んで軽くお辞儀をし、隆輝もそれに合わせて頭を下げた。
「隆輝、彼女は
「えっと、飛沢隆輝です。よろしく」
「こちらこそ」
「彼女は剣道経験者で、この度剣道部に入部してくれる事になったのよ」
「そうなんだ」
「三田村先生の勧誘は強烈でしたから」
「そ、そうだったけ」
「でも飛沢君の事は知っていたから、そんな人とやれるなら面白いかなと思って」
成美の言葉に、隆輝は思わず苦笑する。
「正直、この1年はロクに練習出来てなかったから、失望させそうだけど」
「それなら私も同じ様なものだから、一緒に頑張りましょ」
その後3人で明日の打ち合わせを行い、意見を出し合った結果、掛かり稽古を披露する事にするが、稽古の時間が取れない為ぶっつけ本番になってしまう事に3人は一抹の不安を覚える。
隆輝は寮に戻ると、1階のエントランスに置かれたテーブルセットに、入学式を終えて先に帰ってきていた晶が腰を掛けているのを見かける。とは言え何かをしている様子もなく、隆輝は気になって声を掛ける。
「何やってんだ?」
「あ、先輩、おかえりなさい。流石に部屋にいてもする事が無いので」
「そう言えば、晶って趣味とかあるのか?」
「ありませんよ」
「まあ、そういう俺もここ1年は忙しかったから趣味とか無いけど、バイトの為にバイクの免許は取ったから余裕が出来たら買おうかな」
隆輝はそう言うも、晶の表情からは関心がなさそうなのは明白で、早々に趣味の話題は切り上げる事にした。
「明日から学校も普通通りだろうし、退屈とは言ってられなくなだろ」
「だと良いんですが」
「クラブ活動とかしないのか?」
「興味はありません」
「そうか」
隆輝はクラブ活動の話も切り上げる。
「ところで、自己紹介はどうだった?」
「別に」
「友達100人出来たか?」
「出来ませんし、いりません」
隆輝の話題にストックの余裕はなく、どうしたものかと考える。晶はアイリには一番懐いているので、彼女がいる時は晶の態度は軟化するのだが、アイリはおろか晋一もクラブ活動中の為、しばらくは帰って来ない。
「すいません先輩」
「何が?」
「盛り上がらなくて」
その言葉に思わず隆輝は笑みがこぼれる。晶自身には悪気はないのだろうし、そういう言葉が出る自体、晶自身も気を使っているのであろうと思った。
「全くだ」
隆輝はそう言いながらも笑顔を見せると、晶の表情も少しだけ柔らかくなった気がした。
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