第25話

 その頃、アイリ達3人は情報収集衛星の情報を基に隆輝のいるビルを特定し、すでに到着していたが、屋上からの爆発音が聞こえると慌てて移動速度を上げた。


 屋上に到着した3人が目にした光景は、首から上が無くなっているNMの死骸と、離れたフェンスにもたれかかって休んでいる隆輝の姿であった。


 アイリは隆輝に近づきながらヘルメットのバイザーを上げる。


「大丈夫?」


 アイリの声を聞いた隆輝も合わせてバイザーを上げた。


「ああ、大丈夫だ」


「付近にNMはいないし、ここにヘリを呼べるから、スーツの起動停止をしても大丈夫だよ」


 その言葉に隆輝は起動可能時間を見ると、残りは2分を切っていた。


「分かった、BFS停止」


「ちょっと待って」


 なぜアイリが慌てて止めようとしたのか? 隆輝はその後すぐに理解する。

 スーツの機能が停止した途端、身体は鉛のように重くなり、立っている事も出来ずその場に崩れ落ちる。


「おっと」


 かろうじて晉一によって受け止められると、隆輝は力なく息を吐いた。


「悪い」


「良いって事よ」


 やがてヘリが到着すると、隆輝はそのまま抱えらながらヘリに乗り込む。


「やり過ぎたかな?」


 ヘリが離陸する中、隆輝は破壊された屋上の様子を見ながら強張った表情で呟く。


「まあ、何とかなるだろう」


 晉一は笑顔でそう答えると、隆輝も思わず笑みを浮かべた。


 しかし、ヘリが学園の地下ポートに到着すると、険しい表情の香織が待ち構えており、隆輝はその表情を硬くする。


「飛沢!」


 香織は、晉一に肩を借りながらヘリを降りる隆輝に対し、容赦なく大声を浴びせると足音を鳴らして歩み寄る。


「なんて無理するのよ。通信が使えないなら、逃げて3人が合流するのを待てば良いでしょ」


「すいません、頭が働きませんでした」


 隆輝がそう言うと、香織は隆輝の頭を叩くが、それは明らかに軽いものであった。


「あなたに何かあったら、お母さんや妹さんはどうするのよ」


 隆輝にとってその言葉は、叩かれたよりも重く衝撃的で、途端に神妙な表情になる。


「分かったら、2度と無茶な事はしないでね」


「分かりました」


 香織の優し気な口調に、隆輝はただうなだれるしかなかった。


 その後、隆輝は何とか1人で着替えを終え、重い足取りで寮に戻るエレベーターに向かっていた。

 晉一は隆輝を気にしていたものの、隆輝自身が動きが鈍くなっている自分のペースに付き合わせる事を申し訳なく思い、先に戻ってもらっている事から、隆輝は1人で廊下を歩いていたが、エレベーター前の認証ルームに入ると、そこに誰かが立っている事に気付き、既に誰もいないと思い込んでいた隆輝は、その場から飛び退きそうになるほど驚きを見せた。


「驚き過ぎじゃないですか?」


 無表情のまま、そう口を開いたのは晶であった。


「いや、もう誰もいないと思っていたから」


「偶然ですね」


「偶然って」


 隆輝はなぜ晶がそこにいるのかも理解出来ないまま呆然としているが、晶は隆輝に構わずエレベーターの乗場ボタンを押すとすぐに扉は開いた。


「早くしないと、置いて行きますよ」


 晶は中に乗り込むと、開ボタンを押しながら隆輝を待つ。

 このエレベーターは一度上に行けば、戻ってくるまでにそれなりの時間が掛かる事から、隆輝は重い身体で少しでも早く歩こうと動かすが、同時に一度寮まで昇ったカゴを、晶が前もって呼んでいた事に気が付く。


「もしかして、待っていたのか?」


「そんな訳ないです」


 問いかけに即答した晶に、隆輝は思わず脱力し壁に寄りかかり上を見上げる。


「忘れ物しただけです」


「そ、そうか」


 その後2人に会話はなく、隆輝が晶を見ると晶はあからさまに顔を背ける為、隆輝もただエレベーターが寮に着く事だけを考えるようになった。


 やがて寮の2階にエレベーターが到着すると、晶は隆輝を置いて足早にエレベーターを出てしまう。


「まだ2階だぞ」


 晶の部屋は3階である事から、隆輝はそう口にするが、晶は何も答えず背を向けたまま階段に向かっていった。

 その行動に隆輝も訳が分からないまま、自室へ戻るべく重い足取りで歩き始める。


「先輩」


 隆輝が自室のドアの前に着いた時、階段から晶の呼ぶ声がするので、隆輝は今一度階段へ引き返そうとする。


「大した用事ではないので、来なくていいです」


 その言葉に隆輝は、呆れながら足を止める。


「あの、ありがとうございました。おやすみなさい」


 その後すぐに走り去る足音が聞こえたので、隆輝は溜息を吐きつつ口もとを緩ませる。


「おやすみ」


 隆輝は3階の晶に聞こえる様に大声で返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る