第24話
有翼型NMに捕獲された隆輝は自らの肩に目をやると、肩から胸にかけて気味の悪い形状をした鋭い爪に捕まれているが、痛みを感じないのは、装備しているプロテクターが文字通り守ってくれているからだと実感する。
同時にその爪を見ながら、そう言えばニワトリの爪も、あまり見た目が良いものではなかったと思い出していた。
ただ自分が普段では絶対にいるはずのない空中にいる事に、強い緊張感を覚えたが、晶が呼吸で落ち着きを取り戻した事を思い出し、大きく深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせた。
「流石にこの高さだと、スーツの力やプロテクターがあっても無理だろうな」
隆輝は上空から落とされるのを防ぐ為、両手でNMの脚を掴むが、それを嫌うNMは暴れ、くちばしで隆輝を攻撃しようとする。
「くそ、暴れるなよ」
その言葉を理解したのかNMは途端に大人しくなるが、むしろその飛行速度は上がっていく。
「言う事を聞いたのか?」
隆輝は一瞬そう思ったが、NMは真っ直ぐにビルに向かっており、このままでは自身がビルの壁面に叩きつけられると理解した。
「やられてたまるかよ」
隆輝は右手で腰から短剣を抜くと、左手でNMの脚を掴んだまま、短剣を投げつける。
不自然な体勢ではあったが、スーツの力もあり、短剣はNMの胴体に突き刺さると、NMは悲鳴を上げて一瞬その動きを止めた。
肩を掴む力が弱まったのを見計らって、隆輝は自らビルに向かって飛び込むが、その先は壁面ではなくガラスであり、隆輝の身体はガラスを突き破ると、オフィスとして使われているであろう、その部屋の設備を破壊しながら、ようやく部屋の中央で止まる。
隆輝が立ち上がり息を整えていると、その体の大きさから部屋に入る事が出来ないNMは、窓の外から隆輝に向かってけたたましい声で鳴き喚いていた。
「いいぜ、決着付けてやるよ!」
隆輝はその部屋を出ると、ビルの屋上に向かって物凄い勢いで駆け出した。
そして屋上に通じる金属製の重いドアに施錠がされているとみると、スーツの力を発揮しながら、ドアノブを押し強引にドアを開けた。
屋上に着いた隆輝が辺りを見回すと、そこは先程のビルに比べタンクや室外機などの設備が少なく、身を隠すのは困難であったが、隆輝はお構いなしにその身を晒す。
「どうした、俺はここにいるぞ!」
すると、その言葉に反応したかのように、羽ばたく音と共にNMも現れる。
隆輝とNMは距離をとったまま、互いに仕掛ける事はなかった。
その間、隆輝はスーツの活動限界まで7分を切っている事と、手持ちの装備が閃光弾とハンドグレネードの2種類しかない事を確認する。
そしてバイザーにはいまだ通信エラーが表示され、他のメンバーや香織との通信は不可能になっていた。
「こっちは初出動だっていうのによ」
そう呟いて溜息を吐いたその瞬間、NMは隆輝目掛け突進を開始する。
「やべ」
動作が一歩遅れた隆輝は、慌ててその場から飛び退き、何とかNMの突進を寸でのところでかわす。
そしてすぐにNMに向き直り次の動きを警戒するが、対するNMもそれ以上追いかけて来る様な事はせず、再び距離を取って隆輝の様子をうかがっていた。
「あんなデカい身体で、時速90キロか」
隆輝はバイザーに映し出されたNMの飛行速度に驚くが、一方でそれに対応出来ているスーツの能力に更なる自信を持つ。
「さてと、上手くいくかな」
隆輝は給水タンクを背にして閃光弾を手にすると、大きく息を吐いてうなだれる様に頭を下げる。
その途端、NMは再び隆輝に突進してくるが、隆輝は自分の足もとに閃光弾を落とすと、ギリギリまでNMを引き付けた後、真上に飛び上がった。
次の瞬間、閃光弾がさく裂し辺りは真っ白な光に包まれる。
その光にNMは完全に意識を失うと、そのまま轟音と共に給水タンクに追突し、その衝撃でタンクは大きく形を変え、中の水が溢れ出す程であった。
隆輝はNMに近づくが、すでにNMは動く事が出来ない程のダメージを負っており、ただ身体を痙攣させていた。
「お前達は、一体何なんだよ?」
隆輝はそう口を開くが、NMは苦し気に呼吸をするだけで何の反応も示さない。
そこで隆輝は改めて通信状況を確認するが、やはりエラーが表示されており、通信は不可能な状態であったが、その事に対して隆輝は、何故か安心したかのように静かに息を吐いた。
「お前達は父さんを殺し、本当に多くの人間を殺したよな」
その言葉とは裏腹に、隆輝の口調は落ち着いたものであった。
「ずっと思っていたんだ。なんで俺達はお前達のエサなのかって」
NMの眼には隆輝が映り込んでおり、その視界は隆輝を捉えているようにも思えたが、視力の弱いNMが隆輝を認識しているかは分からなかった。
「でもこれからは違う」
隆輝は腰からハンドグレネードを取ると、NMの頭を前にしゃがむ。
「命ある限り、お前達を一匹でも多く倒してやるよ」
そう言うと、隆輝はNMの口の中にハンドグレネードを放り込み、背を向けてその場から離れた。
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