第23話

 自衛隊への引継ぎやヘリの合流地点を決める為、4人はしばらくその場に待機する事となるが、万が一の事を考え現場を離脱するまではスーツは起動させた状態にしていた。


「あの」


「何? 飛沢」


「今ここにいながら、こういう事を言うのも何ですけど」


「言ってみなさい」


「ガーディアンが、警察や自衛隊を差し置いて出動する事に、今ひとつ理解出来なくて」


「なるほどね、じゃあ、その疑問に対する答えだけど、我々の一番の売りはコンパクトという事だからよ」


「コンパクト?」


「例えば自衛隊も最近では対NM用の兵器が揃っているわ。でも実際に今日みたいな現場で自衛隊が動くとなると、それなりの人員を危険に晒して、周囲の被害も多大なものになるわね」


「戦争するようなものですか?」


「そんな感じね。実際に自衛隊とNMの交戦で、ゴーストタウンと化した街もある位だし、その補償費用も財政を圧迫しているのよ。そういう意味で自衛隊に批判が起きているのも事実」


「確かにこっちはスーツの力とは言え、少ない人数で戦えていますからね」


「そう、だから自衛隊としても、ウチみたいな組織と組む事で批判をかわす事が出来るんだから、持ちつ持たれつよ」


「じゃあ、自衛隊は普段何をしているのですか?」


 2人の会話を聞いていた晶が、怪訝そうな表情で尋ねる。


「今の話は、あくまで市街地での話であって、自衛隊はいかに市街地にNMを入れないようにするか頑張ってくれているわよ。おかげでこちらの出動頻度も抑えられているし」


「そうだったのですか。じゃあ私達が出動するのは市街地だけなんですね」


「まあ、基本はそういう事になるかしら」


 その時、突然晶の背後で大きな音がすると、思わず晶は振り返りざまに小銃を構える。

 そこで目にしたのは人の脚であった物で、それが上空から落下してきたと判断した晶は、その悲惨な光景に顔を歪めながらも上方を確認する。


「上空に何かいます!」


 晶の言葉に3人は上空を確認すると、そこには巨大な鳥の様なものが旋回している。


有翼型ゆうよくがた


 アイリの言葉に他の3人に緊張が走る。


「これは珍しい上に、厄介なのが来たわね」


 耳元に聞こえてくる香織の声も、先程よりも緊張感に満ちていた。


「閃光弾を使用します」


 アイリは腰から閃光弾を取り外すと、それを振りかぶるが、そのタイミングで隆輝が止めに入る。


「どうしたの隆輝?」


「いや、アイリってコントロール悪いんじゃなかったか」


 それを聞いたアイリは、手にした閃光弾を隆輝に手渡す。


「任せろ」


 隆輝は大きく振りかぶりNM目掛け閃光弾を投げつけると、スーツの力も相まって閃光弾はNMをかすめ更に上に抜けていったが、そのタイミングで激しく光を発し、ショックを受けたNMはそのまま力なく地面へ墜落する。


「撃て!」


 アイリの掛け声とともに、NMに向かって小銃掃射を行うと、NMは何の抵抗も出来ないまま、血しぶきを上げ絶命した。


 そのNMは両翼合わせると6メートル以上の大きさで、そのペリカンの様な大きなくちばしには鋭い歯がびっしりと並んでおり、その姿だけ見ると太古の昔にいた翼竜のようにも思えた。


 隆輝がしばらくその姿を凝視していると、晉一に肩をポンと叩かれる。


「案外、楽勝だったな」


 晉一の言葉に、隆輝はおろかアイリや晶も口元を緩ませる。


「まだよ」


 一旦緩んだその雰囲気を壊すかの様に、香織の声は緊張感に満ちており、途端に4人の表情は硬直する。


「そこから日比谷方面へ100メートル先の高層ビルの屋上に、もう一体確認したわ」


 同時に4人のヘルメットのバイザーには、目的地までのルートが表示される。


「急ぎましょ」


 アイリの言葉に皆が頷くと、4人はすぐさま移動を開始する。

 距離が距離だけに、ほんの数秒で目的のビルに到着した一行は上空を見上げるが、望遠機能を駆使しても流石に屋上の様子は窺い知る事が出来ずにいた。


「登るしかないわね」


 避難区域にある事ですでに無人のビルに侵入すると、4人はすぐにエレベーターで最上階へと向かい、屋上へのドアを見つけると慎重にその扉を開いた。


 ビルの屋上には貯水タンクや空調の室外機などが数基並んでいる事から、すぐに全容を掴める様な状態ではなかった。

 更には地上とは違い強風が吹いており、スーツがなければ行動に支障が出ていただろうと想像が出来る状況である。

 そのスーツの稼働限界までの残り時間は15分を切っているが、本来ならばまだ4人が焦る必要などない時間にも関わらず、早く決着をつけたいと思うあまり、4人の内、初陣である隆輝と晶には焦りが生じていた。


「本当に、ここにいるんですか?」


「ええ、こちらの眼は依然としてNMを捉えているわ。みんながいる場所から南西の角に当たる場所よ」


 香織の通信とともに今度は衛星からの映像がバイザーに映し出される。

 その映像には香織の言うように、NMらしきものがその場にとどまり何かをしているが、衛星カメラの解像度ではこれ以上は厳しいらしく、4人はNMがいるであろう場所を目指してアイリを先頭に給水タンクと、室外機を陰にして接近する。

 隆輝も慎重に歩を進めるが、いつもよりも時間の経過が速く感じだした頃、戦闘のアイリは立ち止まり右手を上げる。


「いたわ」


 アイリがNMの姿を確認すると、メンバーは一旦障害物に隠れ、一斉掃射すべく小銃を構える。


「GO!」


 その合図とともに4人は飛び出すと、一斉に小銃のトリガーを引くが、NMは反応は予想以上に早く、ある程度の命中はあったものの、素早く上空へ逃れていった。


「任せろ」


 隆輝は閃光弾を手にすると、勢いよくNM目掛け投げつける。

 が、閃光弾は強風で大きく逸れてしまい、NMと少し離れた場所で光を放ち、一瞬NMは怯んだものの、先ほどの様に墜落してくる事はなく、4人と距離を取った場所に着地した。


 4人はすぐにNMに向かい小銃を向けるが、ことごとく距離を離され、弾が命中しても大したダメージは与えられずにいた。


 その時、晶が不意にうずくまり、隆輝は慌てて彼女に近づく。


「大丈夫か?」


 晶は頷くものの、ヘルメット越しにも関わらず必死に口もとを抑えているが、隆輝は周囲の状況を確認する事で、なぜ晶がその状態に陥ったか理解した。

 その周囲には人の遺体が数体転がっている様な状況だが、それぞれの遺体の損壊は激しく、その光景に隆輝も思わず胸を抑えた。


「危ない」


 アイリの声に慌てて、NMを確認しようと周囲を見ると、すでにNMは隆輝達に向かって突進している最中であった。

 隆輝は咄嗟に晶を突き飛ばし、追突に備えて防御するが、NMの体当たりは予想以上に強く、後方へ吹っ飛ばされ、結構な勢いで床に叩きつけられる。

 プロテクターによって、身体に大した衝撃を感じる事はなかったが、バイザーには通信エラーの表示が点滅していた。


「くそ」


 隆輝はすぐさま立ち上がるが、その肩をNMの足の爪に捕まれる。

 プロテクターのおかげで、爪が身体に食い込む事は避けられたが、その際、手から離れた小銃を取ろうと手を伸ばすも、それは叶わず素手のまま上空高く連れ去られる。


「隆輝!」

 

 アイリは小銃を構え狙いを定めるが、隆輝とNMの距離が近い為、トリガーを引く事は出来ず、連れ去られる隆輝をただ見送るしかなかった。

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