第22話
「各自、BFS起動」
隆輝達はスーツを起動させると、すぐにビルの屋上から地上へ素早く移動し、NMがいる方向へ、慎重かつ迅速に近付いていく。
隆輝は走りながら、目に映る景色がまるで車に乗っている時の様に早く流れるにも関わらず、身体の負担はほとんど感じない事に、改めてスーツの性能に驚くと同時に、自分の気持ちが
「飛沢、落ち着きなさい!」
香織の声に隆輝は我に返るが、同時に何故その様に言われたか分からずに思わず首を傾ける。
「走った位で興奮しないの。こっちはあなた達の状況はモニタリングしているのよ」
「すいません」
その様子に晶がクスリと笑うのが聞こえる。それはヘリに乗る前に見た晶とは異なり、大分緊張もほぐれているように思えた。
「全く初陣というのに緊張感がないわね」
「す、すいません」
香織の言葉に晶も思わず謝るが、香織も怒っている様子はなかった。
「まあ、それ位が調度良いのかも知れないわね」
「頼もしい限りです」
そう言うアイリも楽しんでいる様に思えた。
「今日の敵は数が多いとはいえ、小物の部類だから、さっさと片付けちゃいなさい」
「了解」
やがてNMを視認できる距離まで近付くと、流石に皆の表情は引き締まり、慎重に行動を進める。
4人は晉一を先頭に、その少し離れた右後方に隆輝を、反対の左側に晶、そしてアイリが晋一とは対角線を成す位置で、後方を見るようにゆっくりと移動する。
「いたぞ」
晉一の声に皆は一度お互いの距離を詰め、物陰からNMの姿を確認する。
それは一見、人の姿をしているように見えたが、それらには大きな尻尾が生えており、頭部も爬虫類のものの様に見えた。
「どうする?」
「数は5体か、残りがどこにいるのか気になるが、銃声で集まってきても2メートル以下なら何とかなるだろ」
隆輝の問いかけに晉一が答えると、アイリも大きく頷いて見せる。
「そうね。見える敵は排除して、残りが一斉に来るようなら閃光弾を使いましょ」
「了解、合図は任せた」
晋一の言葉に、4人は小銃を構えNMに狙いをつけると、アイリはカウントダウンを始める。
「ツー…… ワン…… ゼロ」
4人は一斉にNMに向けて小銃のトリガーを引くと、銃声が鳴り響きマズルフラッシュが周囲を煌々と照らす。
それが数秒続いた後、辺りが暗闇に戻ると地面には5体のNMの死骸が転がっていた。
アイリは他の3人に向かって人差し指を上に向けると、自ら向かいのビルの2階に向かって飛び上がり、そのままガラスを蹴破り中に侵入する。
「あれ大丈夫なのかよ」
その光景を目の当たりにした隆輝は呆れた様に呟く。
「必要に応じて、ある程度の行動は黙認されるからな」
「あの位、NMにやられるよりはマシですよ」
晶の言葉に、隆輝も晉一も思わず感心してしまった。
一方のアイリは小銃の銃床を使って、窓枠に残ったガラスを取り除くと、3人に向かって右手を上げる。
「行くか」
晉一はそう言うと、アイリのいる2階へ飛び上がり、隆輝と晶が後に続き、4人は間隔を空け窓際に張り付くと、外の様子をじっと窺う。
すると1分もしない内に3体のNMが下に現れるが、2体は先程と同じ人型で、残る1体は四足で歩行していた。
NMは仲間の死骸の臭いや、辺りの臭いを嗅いでいたが、2階にいる隆輝達を見つける事は出来ないでいる。
その様子を見ていた4人は顔を見合わせると、2階から3体のNMに向けて小銃を連射し、その動きが止まるまでトリガーを引き続けた。
「これで8体」
その後も4人はしばらくその場で待機していたが、新たなNMが現れる気配はなく順番に地面に飛び降りる。
「残りは離れているみたいだな」
「寄って来ない所を見ると、そうみたいね」
「どうする?」
「あまり時間も掛けたくないから、一気に決めましょう」
「だな」
4人は今までのように隠れる事はせず、周囲を見渡しながら大通りを駆ける。
やがて一行に気が付いて現れたNMは、メンバーの視界に入った途端、次々と殲滅されていく。
それを何度か繰り返し、新たにNMが現れなくなると、4人は一旦動きを止める。
「あと何体かな?」
「流石に数えてはなかったな」
「ここに来るまでに倒したのが6体なので、最初の情報が正しければ残り4体です」
晶の言葉に他の3人の視線が集中する。
「な、なんですか」
「いや、結構落ち着いてるんだなって」
晉一の言葉に隆輝とアイリも頷く。
「これだけ時間が経てば、流石に大丈夫です」
「という事はやっぱり緊張していたんだ」
アイリがそう言うと、晶は思わず頬を赤らめるが、ヘルメットを被っている以上、3人には気付かれる事はなかった。
しかし、モニタリングしている香織には、4人の心拍数や呼吸、体温や発汗に至るまで情報が入ってくる為、その変化を逐一確認出来る事から、晶の変化に思わず口元を緩ませる。
「呼吸の仕方で、ああも変わるものなのね」
感心しきりといった様子の香織がそう言うと、晶はさらに恐縮する。
「こ、呼吸は昔から、やっている事なので」
「なるほど、武術のか」
隆輝が納得した様に言うと、晶は一瞬身を震わせる。
「わ、私の事より、飛沢先輩はどうなんですか?」
「俺? 俺は別に」
「本当にあなたは何なの?」
香織の声は明らかに呆れた様子であった。
「何なの、と言われても」
「初めての任務だというのに、緊張することなく、むしろ楽しんで高揚している感じすらあるわよ」
「俺は単純にNMと戦いたいだけですから」
隆輝の言葉に皆は思わず黙ってしまう。
「あれ、俺変なこと言いましたか?」
「待て、来るぞ!」
隆輝の言葉は、晉一の声にかき消される。
その言葉に周囲を警戒すると、間近にある地下鉄の出入り口から四足歩行のNMが突如現れると、すぐさま4人に向かって襲い掛かるが、4人もそれに反応し各自小銃を構え、迎え撃つ態勢をとる。
隆輝と晶はそれぞれ1体ずつ仕留める事が出来たが、その間、晉一は物陰に潜んでいたNMに不意を突かれ、体当たりで飛ばされる。
「晋一!」
突然の事に皆がそちらに気を取られてしまうが、更に現れたもう1体がアイリに飛び掛る。
アイリは小銃で応戦しようとするも間に合わず、NMに上に乗られる形で倒される。
「アイリ!」
隆輝は思わず声を上げるが、隣にいた晶共々小銃を使おうにも、2人がNMと重なっている事からトリガーを引く事は出来ず、小銃を構えたまま手に力を込め、険しい表情でその光景を見ているしかなかった。
先に動きがあったのは晉一で、襲い来るNMに対し銃床で頭を殴りつけると、その勢いで銃床が壊れたものの、NMもダメージから動きを止める。
「2人とも頼む」
そう言った晉一が、その場からすぐさま離れると、隆輝と晶がすぐさま小銃のトリガーを引いた。
「2人とも、おかげで助かった」
晋一は隆輝と晶に右手を上げて礼を述べると、NMが動かないのを確認してアイリの元に向かう。
「助けはいるか?」
「大丈夫」
アイリはそう言うと、自らに覆いかぶさっていたNMを払いのける。
既にNMは息絶えており、右手に短剣を手にしたアイリの身体はNMの返り血に染まっていた。
「お疲れさん。これで終わりだな」
「お疲れ様。はあ、早くシャワー浴びたいよ」
アイリはスーツに付いたNMの血を不快そうに払いながら、晋一に答える。
「皆お疲れ。今警察と自衛隊に報告はしたから、もう少し我慢して」
香織の言葉に、一同はその表情を緩めた。
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