第26話
翌朝、
時折、自身からかすかに発せられるアロマオイルの芳香が、寝込みを眞澄と香織に急襲された記憶を思い出させ、慌てて別の事を考えようと新しい学校での生活に思いをはせるが、気が付けば出発の時間になり急いで部屋を出る。
すると廊下で朝食を終えた
「もう行くのか?」
「先に職員室に寄らないといけないからな」
「そう言えば、転校生だったな」
「そういう事」
「ところで、身体は大丈夫か?」
「正直キツイ、でも学生やる分には何とかなる」
笑顔で答える隆輝の言葉に、晋一も安心した様に笑顔を見せる。
「じゃあ、クラスがどうなるか分からんけど、とりあえずまた後でな」
「おう」
隆輝は晋一と別れ寮を出ると、今度は
晶の格好はジャージ姿で、額に流れる汗から運動後という事は容易に推測出来た。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。トレーニングか?」
「1時間ほど走ってきました」
「頑張ってるな」
「正直、落ち着かなくて」
隆輝はその言葉に、昨夜の晶の様子を思い出す。
「まあ、なるようにしかならないから、根を詰めるなよ。って俺が言っても説得力はないか」
隆輝は思わず苦笑するが、それを見た晶の口元も少し緩む。
「じゃあ、俺行くわ」
「すいません、足止めして」
「良いって」
隆輝は軽く右手を上げると、その場を後にした。
隆輝は内心、晋一と晶に会いアイリと会えばコンプリートだ。などと考えながら学園に向かうが、結局道中アイリと会う事は無く校舎に辿り着くと、校舎の入り口はすでに開場されており、早い時間にも関わらず生徒の姿も少なからず見受けられた。
隆輝は事前に教わった来客用の玄関から校舎に入り廊下を歩いていると、エントランスに生徒が集まっているのを見つける。
気になって近付くと掲示板にクラス表が張り出されており、それを見ていた生徒達はそれぞれ一喜一憂している状況であった。
隆輝もその人垣に紛れてクラス表を確認すると、昨年開校という事もあり、貼り出されていたのは2年生の6クラス分のものだけである。
隆輝は2-Aから順に探してみるが、そこには自分の名前が確認出来ず、続いてB組に視線を移すと、すぐに
ちなみにB組の担任は
そして残る晋一の名前を探すと、彼の名前はようやくD組で確認する事が出来た。
掲示板を後にした隆輝は職員室に向かうが、職員室間近で隣の学園長室から
「おはようございます」
隆輝の声が廊下に響き渡り、綾も驚きの表情を見せるが、すぐに眉間に皺を寄せ困惑した表情を見せる。
「おはよう飛沢君。ところでそれは、何かの冗談ですか?」
綾の口調は落ち着いているが、むしろその事が2人の間の緊張感を増していた。
「い、いえ」
「そうなると、三田村先生の悪い影響ね。あとできっちり指導しておかなくては」
「いや、その」
困った表情の隆輝を見て、綾の口元は緩む。
「冗談よ。それより職員室に行くんでしょ」
「は、はい」
綾は職員室の戸を開けると、隆輝に入室を促す。
「ありがとうございます」
隆輝は一礼をして職員室に入り職員室内を見回すと、教師達は今日から始まる新学期の準備に追われており、皆何かしらの作業を行っている。
「失礼します」
その隆輝の声に香織が気が付いて手招きするが、その背後に綾がいる事に気が付き、少しだけ表情を強張らせた。
その後、隆輝は香織と学校生活における確認を行い、そして予鈴がなると香織の後についてクラスの教室に向かう。
「クラスは確認した?」
「はい。もしかしてアイリと同じクラスなのは、香織さんの力?」
「まあね、あの子は優秀で手がかからないから、あなたも頼りにすると良いわ。あと学校では三田村先生ね」
香織はそう言うと、隆輝の額を右手人差し指でトンと突いた。
「そ、そうでした」
「頼むわよ」
やがて教室に到着し、まず香織が教室に入った途端、それまで賑やかであったクラスは静かになるが、香織に促されて隆輝が教室内に入ると、途端に教室内はざわつく。
クラスメイトの視線が自身に集中している中、隆輝は大して緊張する事も無く黒板の前に立っていると、こちらに向けて満面の笑みを浮かべているアイリを見つける。
彼女は周囲に気付かれない様に、隆輝に向けて小さく手を振っており、当然隆輝は返す事はできないものの、そのアイリの様子に思わず笑みがこぼれそうになる。
初めて見る制服姿のアイリは、他の生徒にはないオーラを放っており、間違いなくクラスの中で一際目立つ存在であった。
隆輝は淡々と自己紹介を行うが、その内容は終始無難な内容だった事もあり、特に盛り上がりを見せる事もなく終えて、香織に促されるままに自分の席に着いた。
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