第11話


 翌朝、隆輝と晶は朝食前に香織に呼び出されると、そのまま連れられてエレベーターに乗り込んだ。


 隆輝と晶は3階建ての寮に、エレベーターが必要なのかを理解出来ないでいたが、香織はそんな2人の様子を気にする事もなく、コントロールパネルの下部にキーを差し回すと、新たに現れたタッチパネルを操作する。


 唐突すぎて2人が訳も分からず見守っていると、すぐにエレベーターは動き出すが、動き出してからしばらく経ってもどこかに到着する様子はない。


 思わず隆輝は、エレベーターが何階にいるのか確認しようとするが、本来階数が表示されるはずの表示パネルには何も表示されていなかった。


「えっと、これはどういう状況なんですか?」


「地下に潜っている所よ」


「地下?」


 意外な答えに、隆輝はおろか、晶も驚きの声を上げる。


「簡単な話よ。ナイトガーディアンという存在は大っぴらに出来ないから、その中枢を地下に隠してあるのよ」


「地下って、まるで秘密基地じゃないですか」


 隆輝の言葉に、香織は意味あり気な笑みを浮かべる。


「やっぱり男の子は、そういうのにワクワクするのかしら」


 その言葉に、隆輝はどう答えるか考えていると、突然エレベーターが停止する。

そして扉が開くと小さな部屋が現れるが、その部屋は金属の壁に覆われ、またエレベーターのドア以外に出入り口は見当たらなかった為、何の暖かみも感じられず圧迫感すら覚えた。


「さあ、降りて」


 香織の言葉に従い隆輝と晶は部屋に入るものの、どこに立てば良いのか分からず、2人ともそ出入り口付近に立ち尽くすが、続けて入ってきた香織は、部屋の中央に移動すると、おもむろに口を開いた。


「三田村香織。後の2人は適応者の飛沢隆輝と桂木晶、生体パス未登録につき、今回は通行許可をされたし」


 すると、それまで何の変哲もなかった向かいの壁の一面に扉が現れ、香織がそのドアに近付くと自動でドアが開いた。


「さあ、行きましょ」


 ドアを抜けると、先ほどまでの部屋と違い落ち着いた感じのホールが現れる。

 状況を飲み込めてない隆輝と晶を尻目に香織は歩きだすと、慌てて2人も香織に付いて行く。


「今のは一体?」


「侵入者対策よ、ちなみに生体パスというのは、文字通り身体を通行パスとして使用するものよ」


 香織によると、あの部屋ではほんの数秒の時間で顔や身長・体重、網膜や虹彩、そして声紋、更には些細な身体の癖で本人確認を行っているとの事である。


「侵入される可能性ってあるんですか?」


「違うわ。可能性を考えるのではなく、絶対に侵入を許す訳にはいかないの。私達はそれだけの機密を抱えているのだからね」


 香織の口調は穏やかなものであったが、隆輝と晶が改めて事の重大さを認識するのには十分であった。


「ちなみに、ここは地下80メートルにあってシェルターの機能も持っているから、いざとなったら学校の生徒、今の所まだ2学年だけど、これが3学年の生徒が揃っても余裕で収容出来るわよ」


「という事は、学校からもここに来れるのですか?」


 晶はしきりに辺りを見回しながら尋ねる。


「ええ、もちろん非常時にならない限りは、入り口なんて現れないけど」


「そこからもエレベーターがあるのですか?」


「あるにはあるけど、多くの生徒を移動させるには効率が良くないわね」


「じゃあ、どうするんですか?」


「学校からは道路が走っているから車両による運搬も可能よ」


 2人がその言葉に感心していると、香織は思い出したように再び口を開く。


「ここもそうだけど、一応階段もあるのよね」


 香織の言葉に2人は思わず眉をひそめる。地下80メートルという数字にはピンと来なかったが、エレベーターでもそこそこの時間がかかった事を考えると、階段を使う事態は考えたくはない状況であった。


「さて、行くわよ」


 3人はやがて1つの部屋に辿り着くが、そこにはすでに眞澄が待機していた。


「来たわよ」


「引率ありがと」


 眞澄は隆輝と晶の身体をじっくり眺めるが、その真剣な表情に晶は落ち着かなくなる。


「さて、じゃあ早く済ませて朝食といきたいから、脱いで」


「え?」


 隆輝は思わず声を上げるが、晶はその場で固まってしまう。


「冗談よ」


 その言葉に2人は安堵するが、眞澄は口元に笑みを浮かべながら改めて2人を見る。


「まあ、脱いでもらうのは本当だけど、どっちから始める?」


 隆輝と晶は思わずお互い顔を見合すが、互いに困惑するばかりであった。


「眞澄、説明が足りてないでしょ」


「そうだったかしら?」


「全く、これから2人には身体の計測を行うから、まずはロッカールームで用意している物に着替えて、そうね、悪いけど飛沢はしばらくロッカールームで待機ね」


「分かりました」


「言っておくけど、下着は着けないでね」


 眞澄の言葉に不安を感じながらも、2人はロッカールームに移動し着替えを済ませるが、用意された服は身体のラインがはっきりと出るようなピッタリとした素材の物で、改めて待機する必要がある事を理解する。

 そして隆輝は待機して15分ほど経過した所で呼び出され、再び眞澄の元に向かった。


「さあ、始めるわよ」


 隆輝が指定されたポジションに立つと、上から円状の物体が隆輝の身体をくぐっていき、足元に到達すると再び頭上へ上がっていった。

 眞澄の話では身体のスキャンを行っており、頭の先からつま先まで正確な体のサイズを測る事が出来るとの事であった。

 それが終わると血液の採取や視力の検査などの検査を行うが、全てが終わるまで20分もかからなかった。


「はい、お疲れ様」


「ありがとうございます」


 隆輝がロッカールームに戻っていると、先に終えた晶が私服に着替え終えてロッカー前で待っていたが、隆輝の姿を見るなり顔を真っ赤にしてロッカールームに逃げていく。

 隆輝は声をかけようと思ったが、晶が逃げた原因が自分の恰好にある事から、頭を掻きながらその姿を見送るしかなかった。


 その後着替えを終えた隆輝がロッカールームを出ると晶の姿はなく、晶と入れ替わりに待っていた香織と共にエレベーターに乗り込んだ。

 その間の会話で先程の一連の検査は対NM戦闘用のスーツを調整する為に必要な検査だったらしいが、スーツに関しては香織の専門外である為、詳しい説明は眞澄に聞く必要があった。

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