第10話

 夕方、隆輝が部屋で荷物の整理を行っていると、来客を知らせるチャイムが鳴る。ドアを開けると一人の男子が立っており、隆輝より身長が高く、いかにも女子に受けそうな顔立ちをしたその男子は、隆輝を見ると爽やかな笑顔を見せる。


「はじめまして、俺は東城とうじょう晋一しんいち


 アイリからその名前を聞いていたおかげで、隆輝は瞬時にもう1人のメンバーだと理解出来た。


「俺は飛沢隆輝」


「いや、良かった。今まで寮で男は俺一人だったけど、これからはもっと楽しくなりそうだ」


「男って、他にいないのか?」


「学校の関係者で、ガーディアンの関係者となると、思いつくのは理事長くらいしかいないからな。でも、理事長はここには住んでいないんだ」


「そうなのか」


 その時、寮内に放送が流れ、隆輝達の名前が呼ばれたと思えば、全員食堂まで集合するようにという旨が伝えられる。


「じゃあ、行くか」


「そうだな」


 2人は並んで歩き出すと、同じタイミングで3階から降りて来たアイリと晶と合流し、一緒に食堂へ向かうが、傍目はためから見ていても、晶は初めて会う晋一を警戒している様に思えた。


「ようこそ明月学園へ」


 食堂に到着した4人を待っていたのは香織であったが、食堂には簡単な装飾が施され、尚且つテーブルには食事と飲み物が用意され、ちょっとしたパーティーの様相を見せていた。

 そんな中で初めて見る人物が席に着いており、隆輝の視線は自然とその人物に向かう。

 香織と同じ位の年齢と思われるその女性は、高いテンションの香織とは正反対で、どこか気だるそうにすら見えた。


「ちょっと、眞澄ますみ


 隆輝の視線に気が付いた香織が女性に声を掛けると、その眞澄と呼ばれた女性は、立ち上がり香織に近付くが、あからさまにテンションは低いままであった。


「全く、ノリが悪いわね」


「あなたが良すぎるだけよ」


「ああ、コレは小野瀬おのせ 眞澄ますみ。えっと学校の保険医兼、何だったっけ?」


「ヘルスケアコーディネーター。あと、コレとか言わない」


 眞澄の言葉に香織は、笑みを浮かべる。


「随分と仲が良いですね」


「腐れ縁よ。幼稚園から高校卒業まで同じ学校だったけど、まさか、また同じ職場になるなんて」


「嬉しい限りよね」


 あからさまに嫌そうな表情を見せる眞澄に対し、香織は満面の笑みを浮かべる。


「あの、ヘルスケアコーディネーターってどんな事をするんですか?」


 晶は気になったようで、おずおずと右手を上げながら眞澄に質問をする。


「簡単に言えば、あなた達の体調管理。これは肉体的にも精神的にもね。あとはあなた達が使用する装備の調整も行うわよ」


「ありがとうございます」


 そう言うと、晶は丁寧に頭を下げた。


「まあ、そういう意味でも、本当は色々やらなければいけない事はあるけど、それは明日からね。って、私の事よりも、今日の主役は新入り2人でしょ」


「それもそうよね」


 その後、隆輝と晶の自己紹介から歓迎会はスタートする。

 予想は出来ていたが、晶はこういう場が苦手らしく、自己紹介もたどたどしい様子で、その後もどこか居心地が悪そうにしていたガ、アイリが親身になってフォローしたおかげで、しだいに晶も笑顔を見せるようになっていた。


 晋一の自己紹介によると、小学1年生の頃からサッカーを始め、現在サッカー部ではFWで活躍しているとの事であった。

 サッカーの事を話す晋一の眼は輝いており、隆輝からすれば、その純粋さは羨ましいものである。

 しかし香織からは、サッカーに力を入れるあまり勉強は駄目で、テストの成績も下から数えた方が早いなどと、散々な言われ様であった。

 そして、その香織の更なる情報では女子人気が高く、昨年の学園祭で行われたミスターコンテストでは、見事2位の成績を収めたという。

 その話題になると、何故かアイリの挙動がおかしくなるが、それはミスコンではアイリが圧倒的な支持を得て優勝したという事が間もなく判明する。

 しかしアイリはあまりその事に触れられたくないようで、香織の話は早々に切り上げられた。


 そして香織に関しては、元々国連軍の対NM部隊に所属しており、その時の上官が現在の理事長という事であった。

 その縁と、本人曰く何故か所持していた教員免許のおかげで、現在の仕事に繋がっているらしい。

 教員としては国語を担当し、ナイトガーディアンでは、作戦指揮と隆輝達4人の総合的な管理を任せられているらしい。


 眞澄は前述の様に保険医とヘルスケアコーディネーターという肩書きを持つが、彼女はアイズメディカルラボという医療機器メーカーの社員で、現在は出向している状態であるという。

 初めて聞く隆輝と晶は、なぜ医療機器メーカーが関係しているのか理解出来なかったが、このアイズメディカルラボという企業こそ、アイリの母親が経営する会社であり、ナイトガーディアンに協力している企業という事であった。


 自己紹介の後は食事会となり、隆輝達は楽しいひと時を過ごすが、時間が経つと今日1日の緊張と疲労の影響から晶の瞼は重くなり、アイリを伴って自室に戻ったところで歓迎会もお開きとなる。


「明日から覚悟しておく事ね」


 帰り際、香織に笑顔でそう言われた事に、隆輝は一抹の不安を覚えるものの、新生活初日は無事に終える事が出来た。

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