第44話
夕食を済ませた隆輝は、訓練までの時間に学校の宿題を終わらせるべく取り掛かるが、途中で英語の辞書を学校に忘れた事に気付く。
校舎への立ち入りはすでに禁止されている時間になっている事から、しばらく思案にくれた後、結局晋一に借りるべく彼の部屋に向かった。
気が付けば、晋一が隆輝の部屋を訪れる事はあっても、隆輝が晋一の部屋を訪ねるのは初めてで、思わず緊張しながら呼び鈴を押す。
「どうした?」
現れた晋一は部屋儀に着替えており、すっかりリラックスしている様子であった。
「悪い、英語の辞書があったら貸してくれ」
「ああ、ちょっと待ってろ。良かったら中で待ってろよ」
「そうさせてもらう」
隆輝が部屋に入ると、まずは壁一面に設置されているラックが目に飛び込んでくる。そこには大量のコミックとヒーロー物のフィギュアが並べられており、思わず近寄って確認したくなる程であった。
「すごいな、この量」
「そうか?」
隆輝の言葉に、晋一は辞書を探しながら答える。
「晋一にこんな趣味があるとは思わなかった」
「あれ、隆輝はそういうのダメな人間なのか?」
「いや、いくつかは知っているのはあるけど、俺の場合は田舎だったし、家の都合であまりこういうの楽しむ余裕が無かったからな」
「何か気になるのがあれば貸すぞ、アイリも良く借りていくから」
「そうなのか」
隆輝は思わずコミックの列を眺める。その中に子供の頃に流行ったサッカー漫画があり、思わず手に取る。
「そう言えば、この漫画の影響でサッカーブームになったっけ」
「ああ、俺もその口」
「マジでか」
「ああ、まあ元から漫画とかアニメ好きな子供だったけど、サッカーに出会えたのもその影響だしな」
そう言って晋一はダンボールの中から辞書を取り出すが、コミックとは違い、全く使われた様子が無く、まさに新品同様であった。
「辞書使ってないのか?」
「ああ、必要があればパソコンで調べるからな」
「そうか、やっぱりそういうの必要なのか」
「部屋にあるのは使わないのか?」
晋一の言う通り、部屋にはそれぞれ専用のPC端末が備え付けられているが、隆輝はPC自体に縁がなかった生活を送っていた為、今でもメールチェックなど必要最低限の事にしか使えていない。
「というより、単純に使えないからな」
「そ、そうか」
晋一はすまなそうな表情を見せるが、隆輝は気にする様子は無かった。
「しかし、晋一はヒーロー物が好きなのか」
「そうだな。憧れではある」
「憧れか」
「ここにいれば、少しは近付けるかな。とも思っている」
晋一は照れ臭そうに笑う。
「良いんじゃないか」
隆輝はそう言って笑顔を見せるが、その時晋一に晶の事を聞いてみようと思い、香織から聞いた話を晋一に聞かせてみた。
「なるほどな」
「晋一はどう思う?」
「悪いが、俺は力になれないぞ」
「どうして?」
「そりゃ仲間の為に力になってやりたいが、俺と彼女はお前やアイリと違って、まだ距離があるというか、まあ、お前達と比べるとな」
「そ、そうなのか?」
「俺の場合は、隆輝やアイリと違って周りが見れるタイプの人間じゃないからな。だからサッカーでも、ボールとゴールだけしか見えてないと注意される程だぞ」
晋一は笑いながら言うが、隆輝はサッカーにおいてはそれも一つの武器なのではと思い、敢えて何も言わなかった。
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