第41話
土曜日の授業は午前中までという事もあり、ホームルームを終えたクラスは途端に解放的な雰囲気に包まれる。
そんな中、隆輝は帰宅部の功二と挨拶を交わし別れると、午後からのクラブ活動に備えるべく、その足で学食へ向かおうとするが、アイリに学食は土曜休業と教えられ、アイリと愛美と共に購買に向かう事になった。
その購買は隆輝達同様、クラブ活動に参加する生徒達で既に溢れかえっており、その中に晋一や成美の姿もあったが、おいそれと声を掛けられるような状況ではなかった。
「1年生も入ってきたから、一気に戦争になったわね」
愛美の言葉に、隆輝は以前の状況を知らなくとも納得出来た。
「じゃあ、俺が代表して買ってくるか」
「良いの?」
「良いのよアイリ、飛沢はこういう事でしか役に立たないんだから」
「そうか、相楽はいらないのか」
「ちょ、ちょっと、冗談よ冗談」
隆輝は2人のリクエストを聞くと、手にした鞄を愛美に押し付け列に加わるが、目的の物が買えるまでにはそこそこの時間を要した。
「ほら」
隆輝は紙袋をアイリに渡すと、アイリは笑顔でそれを受け取る。
「ありがとう隆輝」
「私の分もあるわよね」
愛美の問いに隆輝は答えないでいると、愛美の表情は次第に険しくなる。
「大丈夫。愛美の分もあるから」
アイリの言葉に愛美は笑顔になるが、同時に隆輝があらぬ方向を見ている事に気が付く。
「どうしたの?」
その言葉に、アイリも隆輝の見ている方向に視線を向けるが、そこには特に気になるものはなかった。
「隆輝?」
「ああ、2人は部室に行くんだろ」
「まあ、そうだけど」
愛美はそう言うも、隆輝の真意が分からずアイリと顔を見合わせる。
「ちょっと寄る所が出来たから、じゃあな」
「あ、うん。じゃあね」
隆輝は手を上げて2人と別れると、そのまま歩き出す。気になった愛美は一瞬隆輝の後をつけようとするが、アイリに制止され2人でそのままその場を後にした。
隆輝の目的地は購買部からさほど離れていない事もあり、すぐに到着する。いつもは解放されている学食の入口のドアは、今日は硬く閉ざされており、その前に1人の女子が立っていた。
「学食は土曜休みだってさ」
隆輝はその少女、晶に声を掛けると、一瞬身体をピクリとさせながらも、ゆっくり振り向いた。
「先輩、お疲れ様です」
晶は表情を変える事無く隆輝を見る。
「ああ、お疲れ」
「休みでしたか」
「俺もアイリに聞いて、さっき知った」
「じゃあ購買ですか」
「そうなるが、今は相当な人数だぞ」
隆輝の言葉に晶は表情を固くする。晶が人ごみが苦手そうだと思っていた隆輝にとって、その反応は予想通りであった。
「ほら」
隆輝は自分の紙袋を晶に渡す。
「これは?」
晶は受け取りつつも、怪訝な表情を見せる。
「特に変わったものを買った訳ではないから、大丈夫だと思う」
「そうじゃなくて、どうして私にくれるんですか?」
「待て、タダでやるとは言ってないぞ」
「そ、それはそうですが」
晶はそう言いながら、袋の中を確認する。
「あ」
晶は声を出した後で、「しまった」という表情を見せる。
「どうした?」
「いえ、あの、じゃあカレーパン以外、頂いてもいいですか?」
「構わないけど」
隆輝がそう答えると、晶はしばらく黙った後で口を開く。
「辛いのは苦手なので」
「カレーパンの辛さなんて大した事ないだろ」
隆輝の言葉に、晶は非難めいた視線を隆輝に向ける。
「分かった、分かった」
隆輝は晶からパンの代金とカレーパンを受け取った。
「今日は道場に来るのか?」
「どうでしょう。ちょっとクラス委員の仕事があるので、分かりません」
「そうなのか」
「ちょっと、1年生は色々と決める事が残っているので」
「そうか、頑張れよ」
「はい」
隆輝は晶と別れると、カレーパンを鞄に入れるが、それだけでは満腹にならないと思い、再び戦場と化している購買へと向かった。
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