第30話
午後からは校内の大掃除が始まったが、隆輝と功二、そして愛美は同じ班となった為、共に外回りの清掃に借り出される。
「しかし外回り清掃とは漠然としているな」
「中庭と駐車場、そして植え込み周辺だろ」
隆輝と功二はそんな会話をしながら、かなりの距離と広さがある事を確認する。
「まあ2時間あるんだし、大丈夫でしょ」
愛美も箒を手にすると、早速履き始めた。
「じゃあ、女子は掃き掃除で、男子はゴミを拾っていくか」
「だな」
6人で少しずつ作業を進め、清掃エリアを片付けていく。隆輝も掃除に没頭して隅々までゴミを探しては拾っていった。
「飛沢君」
隆輝が呼ばれて振り返ると、いつの間にか愛美の他には誰もおらず、その愛美も一応はその場を掃いているが、あまり集中している感じではなかった。
「どうした?」
「いや、ちょとね誤解を解いておこうと思って」
「誤解?」
「私がアイリの事を、ってやつ」
「ああ、それか」
「言っておくけど、違うからね」
「そんなにムキになると、余計に怪しいぞ」
「だよね。何かあんたって、やけに鋭いというか他の男子と違うわね」
「それは、分からんけど、ただ思ったことを口にしているだけだ」
「まあ、いいわ」
愛美は辺りを見回しながら、誰もいない事を確認する。
「アイリは女の子から見ても美人で、正直女子からしたら嫉妬の対象だったんだよね。実際、去年の入学式からしばらくしてもアイリに近付く女子はいなかったし」
「仲間外れってことか」
隆輝の言葉に愛美の視線は鋭いものに変わるが、気持ちを落ち着かせるかのように息を吐いた。
「ま、そう言われても仕方がないわね。当時は知りもしないで、自分で自分を可愛いと思っているとか、男子に媚を売っているとか陰口叩かれてたし」
「何でも、知らない内は怖いからな」
隆輝は愛美の話を聞きながらも、ゴミ拾いも手を抜かず行う。
「そうなのよね。実際には今と変わらず誰に対しても同じ態度で、人が嫌がる様な事でも率先してこなしていただけなんだよね」
「アイリはどう見ても博愛主義な上、バカ正直だよな」
「本当にそう」
愛美は昨年の事を思い出す。アイリとは同じクラスというだけではなく、ラクロス部としても同じであったが、その実力はアイリがずば抜けており、愛美は彼女を勝手にライバル視し、口も聞かない状態であった。ただ実力差を少しでも縮めようとクラブ活動が終わっても、公園で一人練習する日々が続いた。
NMが出現してから新たに定められた法律により、学校での活動は18時迄とされている。
そしてNMの出現割合が高くなる20時以降は、外出制限時間と設定されている為、生徒はそれまでに帰宅しなければならないが、愛美の行為はそういう危険を冒してまで行っていた事に隆輝は驚く。
そんなある日、愛美は練習後に疲れから駅のベンチで居眠りをしてしまい、目を覚ますと外出制限時間を超えている事に気付いた。慌てて帰路に着くが、その途中で小型のNMに遭遇してしまう。
小型のNMは人間に危害を与えるものの、一般の人間でも駆除できる対象である事から、命まで落とすといった事例は稀であるが、その
傷を負いただ泣く事しかできなかった愛美の前に、突如現れたアイリが、護身用に持っていたフラッシュライトでNMを撃退するが、安心した愛美はアイリの胸で子供の様に泣きじゃくった。
聞けばアイリは愛美が自主錬をしている事を知っており、その日は愛美が心配になって様子を窺っていたとの事であった。
翌日から愛美は、他の女子に避けられていたアイリと一緒に行動するようになり、同時に他の女子の誤解を解いて回った事で、アイリと他の女子達との距離を狭める事も出来た。
「とにかく私はアイリのおかげで、こうしていられるというのもあるし、何よりもアイリは唯一無二の親友って事」
得意になって話す愛美に、隆輝は彼女をまじまじと見つめる。
「何よ」
「いや、なにも」
そう答える隆輝の表情は優しく、愛美もつられて同じ様に微笑む。
「そういう訳だから、アイリに悪い虫が付かない様に、引き続き厳しくいくからね」
「了解!」
隆輝と愛美は、そこで堪え切れず笑いあった。
その日の夕食時、先に食事をしていた隆輝の元にアイリがトレイを持って近寄る。
「ここ大丈夫?」
「いいよ」
アイリは隆輝に腰を下ろすと、隆輝をじっと見つめる。
「どうした?」
「うん、今日隆輝と愛美帰り際には、すごくいい雰囲気になってたから」
アイリの言葉に、隆輝は気管に汁物が入ってしまいむせてしまう。
「な、なんだよ。いい雰囲気って」
「だって、今朝の態度を考えると、凄い進展したから」
「まあ、言われてみればそうだな」
「隆輝って、功二ともすぐ仲良くなったし、友達作るの上手だね」
「功二は、その場のノリだけで生きてるような奴だからな。明日になると忘れているかも知れんが」
「何よそれ」
隆輝の言葉が面白かったのか、アイリは小さく笑う。
「ところで、アイリは愛美と仲良くなった時のこと覚えているのか?」
「もちろん」
アイリは自身満々な程をその表情と、両手を腰に当てるポーズで示す。
「入学式の翌日に、私学校で迷っちゃって」
その切り出しに隆輝は驚くが、そのまま話を聞くことにした。
「その時、助けてくれたのが愛美だったんだ」
満足気に話すアイリに、隆輝は愛美の時と同様、優しく微笑んだ。
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