第28話
「ホームルーム始めるわよ」
新学年最初の時間はホームルームとなり、まずは隆輝以外のクラス全員の自己紹介が行われた。
その中でもアイリの順番では男女問わず教室内が色めき立つが、当の本人は全く気にする素振りも無く、ただ楽し気に自己紹介を済ませた。
愛美の順番では隆輝と目が合った途端、隆輝は厳しい表情で睨まれ、先程まで抜け殻状態であった功二は、順番が来ると急に蘇生し、まさにお調子者と言わんばかりのテンションで最後は香織に注意される始末であった。
「じゃあ、クラス委員を決めないとだけど」
香織は生徒を見回すが、ある一点を見てその表情を固くする。隆輝もそれに釣られて、その視線を追うと、アイリが満面の笑みを浮かべ、今にも手を上げそうな雰囲気を
「一ノ瀬はダメよ」
「な、なぜですか?」
香織の言葉に、アイリは驚きのあまり立ち上がる。
「ラクロス部の顧問から、すぐに強い要望が出てるのよ」
その言葉にアイリは憮然とした表情を見せ着席するが、その表情は普段のアイリと比べ子供ぽく隆輝にとって新鮮で、思わず笑いそうになるが必死にこらえた。
香織は改めて立候補を募るが、お約束と言っていいように手を上げる者は現れなかった。
しばらく教室内は静寂に包まれるが、そんな中、香織は隆輝に目を向ける。
「飛沢、やらない? その方がクラスの事覚えられるでしょ」
「そう言われるとそうですね。じゃあ、やります」
隆輝の即決にクラス中がどよめいた。
「じゃあ飛沢、前に出て引き継いでくれる?」
隆輝は席を立ち教卓に移動する。代わりに香織は手にしたプリントを隆輝に渡し教壇を降りると、隆輝の席の椅子を窓際に移動させ腰を下ろした。
「それで、あとは何を?」
「もう1人決めないといけないけど」
隆輝と香織はそれぞれ教室を見渡すが、相変わらず不満げな表情を浮かべているアイリ以外の生徒は2人と目を合わそうとしなかった。
「じゃあ他にいなければ推薦になるけど」
香織の言葉にクラス中はざわつくが、アイリの前に座る眼鏡をかけた女子が手を上げると、途端に教室内は静寂に包まれる。
「
「はい、1年の時もやっていたので」
「そう、助かるわ」
「じゃあ、2人にはプリントにあるように、引き続き各委員の選出と班決めをよろしくね」
隆輝と司がプリントを見ると、そこには風紀委員・学園生活向上委員・美化委員・広報委員・体育委員・文化委員・図書委員・選挙管理委員・体育祭実行委員を二名ずつ選出する事と、クラスの班決めの事が書かれていた。更に午後には大掃除がある為、班決めもそれに間に合う様に行わなければならなかった。
「班決めだけど」
司は顔を上げ隆輝を見る。
「この席の並びのまま分けた方が、効率的だと思うけど、どうかな?」
このクラスの人数は男子17名、女子19名の36名、1班6名で構成すれば6班出来る。
そして今の席の並びは五十音を基にした出席番号順であるが、先程の自己紹介の様子から見て、1年生時のクラスとはシャッフルされている事は転入生の隆輝にも理解出来た。
それなら下手に仲良し同士で固まって偏るるよりは、知らない者同士の親睦を深めるにはその方が良いと隆輝も考える。
「そうだな」
2人の会話を聞いた途端、教室内はざわつくが、それは一部男子によるもので、隆輝はその不穏な空気が、ある人物から遠くなれば遠くなるほど強くなる事に気が付く。
「それで良いと思います」
手を上げてそう言ったのは愛美であり、それに何人かの女子が続くと、途端に反発する意見も現れ、不規則発言が続くようになる。
司は困った表情を浮かべ隆輝を見ると、隆輝は意外なほど落ち着いており、その様子を見ていた香織もそのまま静観を貫く。
「じゃあ、多数決で決めよう」
隆輝が提案すると、功二が立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待て隆輝、裏切る気か?」
「裏切る? 民主的な解決方法だぞ」
「このクラス、女子の方が多いんだぞ」
「その様だな」
「そんなの負けるに決まっているだろ」
「功二、この問題に勝ち負けなど存在しない。あるのはクラスの未来だ」
隆輝の言葉に、功二は打ちのめされた様にうなだれる。
「隆輝、一つ聞いていいか?」
「何だ」
「俺達、友達だよな」
「もちろんだ」
「それが聞けて満足だ」
功二はそう言って大人しく座ると、教室内は静寂に包まれる。
「なに、これ?」
司は困惑した表情で呟いた。
多数決の結果、司の提案通りとなり班決めは無事終了する。
続いての各委員選出も、希望者が続いたおかげでスムーズに決まっていった。
ただ一人アイリに関しては、クラブの顧問からクラブ活動を優先出来るようにとの要望があるにも関わらず、本人が皆の役に立ちたいという気持ちが強い為、何かしら立候補するが、その都度香織に却下されるという事が続いたが、最終的に隆輝の提示した妥協案により、期間限定である選挙管理委員に選出され、アイリも満足して終える事が出来た。
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