第15話
呼び鈴で目を覚ました隆輝がドアを開けると、そこには笑顔の晋一が立っていた。
「夕食行こうぜ」
「夕食?」
隆輝はまだ重い瞼を何とか開きながら時計を見ると、時計は17時30分を示している。
「早くないか?」
「でも、今日は18時半まで夕食を済ませろ。と言われているだろ」
「ああ、そうだった」
隆輝は欠伸混じりにそう答えると、そのまま部屋を後にして晋一と共に食堂に向かう。
そして、それぞれ自分の分の食事をトレイに揃えると、向かい合ってテーブルに着いた。
「そもそも訓練って、何をするんだ?」
「最近はもっぱら想定訓練だったけど」
そこで晋一は何かを思い出したような表情を見せる。
「そう言えば、今日からは4人での連携を高めるとかだったな」
「ちなみに晋一達は、最初の頃どうしていたんだ?」
「大体、スーツの調整や武器の扱いに時間が取られたな」
「何の話?」
遅れてやって来たアイリと晶が、それぞれトレーを手にして隆輝達に近付いてくると、アイリはすんなり隆輝の隣に座るが、晶は一旦躊躇しながら、晋一の隣に腰を下ろした。
「訓練の話だよ」
「そう言えば、2人は今日が初めてだったね」
「お二人は、いつから訓練をしていたのですか?」
「昨年の入学してからしばらくは色々準備ばっかりで、大して動いてなかったよな」
「そうね、初めての事だらけで色々調整が必要だったから、訓練自体は6月からようやく始めた感じだったわね」
「という事は初出動まで9カ月なのか?」
「え?」
アイリは隆輝の問いに驚きを見せる。
「先ほど、お二人の出動の様子見ました」
晶の言葉に、アイリと晋一は顔を見合わせ苦笑いする。
「どうかしたのか?」
「あ、そういう事ね」
「どういう事だよ」
「確かに正式にお披露目したのは、2月になってからだけど」
「実際にはその前から何回か出動していたんだよ。確か9月が最初だっけ?」
「そうね」
「そうだったのか」
「まあ、色々あったからな」
「晋一」
なぜかアイリは晋一をとがめる様な口調になり、晋一も思わずやってしまったという表情を見せる。
「どうしたんだ?」
「いや、こっちの話」
「ごめんなさい。気になるかも知れないけど、私達もこれ以上の事は言えないの」
厳しい表情でそう言われては、何も聞き出せないと判断した隆輝と晶は、それ以上の追及は行わなかった。
「は、初出動の時って、どうだったんですか?」
重い雰囲気を変えようと、晶は努めて明るい口調で2人に聞く。
「いや、流石に最初は色々と上手く行かなかったからな」
「まあ、事前に散々想定訓練をやっていたのに、実際に現場に出るとずっと心臓ドキドキで足も震えて、終わった後は気分が昂ぶって眠れなかったし」
「でも俺達の時には、先輩がいるから心強いな」
隆輝の言葉に晶も頷くと、アイリと晋一はそれを見て一瞬驚きつつも、すぐに優しげな表情に変わった。
結局、訓練の話はそこまでで、その後の食事中は他愛のない会話に終始する。
そして食事を終えると4人は地下に降り、隆輝と晶はそれぞれ晋一とアイリに教わりながら訓練着に着替え、香織が指定した20時には準備を完了していた。
「揃っているわね」
5分前に現れた香織は、隆輝と晶にとっては初めて見る戦闘服を着ていた。
「ああ、これ? 組織としては相応しくないかもだけど、一応形だけはね」
「それで、三田村先生は何を?」
「言ったでしょ、あなた達の管理をしていると。あと訓練の時間は教官でもあるから、そのつもりでいる様に」
その後香織から訓練の説明を受けるが、その内容は4人1組で行動し、制限時間内に目的地のNMを制圧するというものであった。
それに伴い訓練用の装備も支給され、内容は光学ゴーグルと無線、小銃には模擬弾が使用され、閃光弾もただ光るだけという威力は弱い物であった。
地下の施設には街の一角が再現されており、初めて目にした隆輝と晶は驚きのあまり思わず立ち尽くす。
「地下に、こんなものがあるなんて」
「私も最初に見た時はビックリしたよ」
晶とアイリがそんな会話を交わしている時、隆輝は険しい表情で街並を見ていたが、その肩を晋一が軽く叩く。
「まあ、気負わず行こうぜ」
晋一の気遣いに、思わず隆輝は表情を緩ませた。
最初に隆輝と晶は武器の扱い方をレクチャーされながら実際に使用すると、模擬戦用とはいえ、そのサイズや仕組みは実際に使用するものを再現しているから、身体に伝わる反動は予想以上に重く、その事から隆輝も晶も緊張感を持って真剣に取り組む。
そして訓練が始まると、4人は先頭にアイリ、右に隆輝、左に晶、そして後方に晋一という上から見て四角形を保ちながら進んでいく。
進む間、それぞれが索敵範囲を受け持つが、万が一敵を見落とせば味方全員が危険に晒される可能性が高くなる為、初めての訓練である隆輝や晶はもちろん、2人体制から4人に変わった事でアイリや晋一にも緊張感が漂っていたが、結局その日は索敵のミスが重なり、制限時間をクリアする事が出来ないまま訓練は終了となった。
「まあ、今日は初日だからという言い訳が通用するけど、それが許されるのは今日までという事は分かっているわね」
訓練後の香織の言葉に、4人の表情は一様に険しいものであった。
「あと飛沢と桂木には、基本的に時間が掛けられないから」
「それはどういう事ですか?」
「あなた達2人には、2週間で出動出来る状態になって貰うわよ」
「2週間?」
そう驚きの声を上げたのは、隆輝でも晶でもなくアイリであった。
「まあ、もちろん2週間で訓練が終わるという事ではなく、一ノ瀬と東城がやってきた事の中から優先的に覚える事を簡略化してトレーニングしていく訳よ」
「お二人が今までやって来た事を2週間で」
「無理だと思うなら、辞めた方が良いわ」
香織の真剣な表情に、皆の表情も強張るが隆輝だけは表情を変えず香織を見る。
「もちろん、やります」
「いい返事ね。明日からは訓練施設も開放するから、時間が空いている内に利用すると良いわ。ただ新学期も近付いているから学校の事は疎かにしないように」
「はい」
そうしてその日は解散となったものの、翌日から隆輝と晶は午前中から施設を使い、射撃や基礎体力向上のトレーニング、そして2人でできる範囲の戦闘訓練を行った。
アイリや晋一もそれぞれのクラブ活動がある時はクラブ活動を優先しつつ、空いている時間があれば2人に協力をし、夜間の訓練では引き続き想定訓練をこなしていった。
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