第14話


 その時、ミーティングルームの扉が開き真澄が入って来ると、隆輝と晶の視線は彼女に集中する。


「早かったかしら?」


「いや、ナイスタイミング。じゃあ一度、眞澄にバトンタッチするわね」


 その言葉の通り眞澄は香織と入れ替わるように前に立つ。


「私から説明するのは、ガーディアンの装備についてと、NMについてだけど」


 そこで何故か、眞澄は怪訝な表情を浮かべ香織を見る。


「まあ、NMに関しては私より真澄の方が、生物的な説明が出来るからさ」


「また、いい加減なことを言って、本来、私だって専門外なのよ」


「そう言えば、眞澄さんの専門って?」


「生体工学。まあ多少の生物学もかじってはいるけどね」


 眞澄は隆輝の問いに、ため息交じりに答える。


「どちらにせよ奴らと戦うのが目的な以上、嫌でも奴らの事を詳しくならないといけないのは確かだけどね」


 そう言うと眞澄は2人が見た映像を使って、まずは装備の説明から始める。


 まずはナイトガーディアンにとって一番の要となるBFSスーツの説明が始まる。正式名称はBody Function Support suit (身体機能補助スーツ)で、スーツの開発者はアイズメディカルラボの現会長である一ノ瀬麻紀、アイリの母親である。

 BFSスーツは,本来医療用として開発され、その目的は病気や事故で失った運動機能をスーツの力で取り戻すというものであった。


 スーツに用いられる生地には、その繊維にナノマシーンテクノロジーが施され、脳からの信号をナノマシーンを介して身体全体に伝達させる事が可能となる。

 ナノマシーンの役割はそれだけではなく、強大な力を生み出すスーツの特殊繊維は、人の筋肉同様負荷を掛ければ破壊されてしまい、そのままでは活動は不可能になってしまうが、破壊された繊維をナノマシーンが瞬時に修復する事で、その機能を維持する事が可能となる。


 特に10代から20代の世代において最大で7倍もの身体機能向上効果がある事が分かっているが、それはナノマシーンの働きが成長ホルモンの分泌と関連があるとされているものの、詳細は現時点では不明である。


 一度着ればまさに超人級の力を持つスーツだが、その連続使用可能時間は48分であり、その時間を越えると着用者の身体の組織が耐え切れず破壊されていく事が確認されている。

 その為、スーツには45分になると強制的に使用停止となるプログラムが施されている。


 その性質から軍事転用も可能であるが、一ノ瀬麻紀の意向もあり対NM用に限って使用する事と、軍事転用を阻止すべく国家レベルで技術の保護を行う事を条件にアイズメディカルラボはナイトガーディアンに参加していた。


 スーツ以外の装備に関しては、ヘルメットには光学機器と無線、そしてスーツに脳の信号を送るデバイスが備わっている。また身体を守る為のプロテクターも装備するが、対NM目的である為、防刃と対衝撃をメインとしている事で軽量かつ比較的安価ものとされている。


「プロテクターを壊すのは構わないけど、スーツは1着で高級な車1台買える代物だから心するように」


 眞澄の言葉に隆輝と晶は苦笑するしかなかった。


「続いて武器の説明と思ったけど、先にNMから説明した方が理解出来そうだから」


 NM、正式名称はNocturnal Menace。

 そのまま訳すと夜行性の脅威となるが、その名の通り夜の間だけ活動を行う存在である。

 しかし休息していると思われる昼には、いまだにその存在を確認が出来ていない。

 様々な種類の固体も確認されているが、その個体数自体は依然として不明。

 

 尚カテゴリーはサイズによって以下の様に分類される。

 小型(虫から小動物クラス)

 1メートル以下

 2メートル以下

 5メートル以下(中型)

 10メートル以下(準大型)

 15メートル以下(大型)

 15メートル超級(超大型)


 という分類だが、更にその形態(虫型・有翼型・水生型・獣型・ヒト型等)によって細分化される。

 ちなみに今までに確認された最大のNMは全長32メートルのヒト型である。

 そして1メートル以下までのNMに関しては普通の人間でも駆除が可能である為、ガーディアンにとっても駆除の対象にはならない。


 研究により現在分かっている事は、NMは視覚が退化しており、視覚からは明暗の差しか判断出来ない程である。その代わり聴覚・嗅覚は野生動物並みに発達しており、更には一部の蛇が持つピット器官を備え、赤外線を感知する能力を持つ事が確認されている。


「そうそう、スーツには表面温度を周囲と同じ温度に保ち、体臭を抑える対NM迷彩が施されているから安心してね。では武装に関してだけど」


 眞澄の説明によると国連軍を中心とした対NM組織は多数存在するが、その種類によっては通常の兵器が通用しない上に、現時点ではNMを探知する方法はなく、出現してからの対応となる事から、効果的な対応が取れているのはごく一部の組織に過ぎないと言われている。


「と、まあこの辺りは一般的にも認知されている所だけど、さて、桂木さん問題よ」


 突然の眞澄の振りに晶は驚きながら、思わず身構える。


「NMの弱点は?」


「光です」


「正解、でもこれも既に皆が知っている事よね。実際、捕獲したNMを太陽の下に晒したら、瞬時に人間でいう所の意識障害を起こし、3分もすればショック死。この事には一切の例外はないわね。人工的な照明装置ではそこまでの効果は得られないものの、動きを止める事は可能よ」


「それでさっきの映像でも照明弾を?」


「正確には閃光弾よ。元々は人間相手にも使われていたものだけど、対NM戦闘においても非常に有効な武器よ」


「人間相手に使われていたなら、使う方も注意しないといけないのですか?」


「ヘルメットには、視界や聴力の保護機能も備わっているから大丈夫よ」


「だから映像でも2人は動けていたのか」


「そういう事よ。さて続きだけど、奴等の皮膚は硬い上に、その下にある脂肪層が厚い為、今までの銃火器では奴等にダメージを与える事は難しいわ」


「じゃあ、さっきの武器は?」


「一応、対NM用に開発された物だけど、今は既に改良されてより強力なものになっているわ。ちなみに普通の人間が扱う事は不可能なもので、スーツがあってこそ使える代物よ」


 眞澄は最後にNMが出現しやすい時間帯について説明を行う。

 NMは日の入り後に出現し、日の出と共に去っていくとされるが、その2つの時間に近いほど出現率は低く、日の入りから20時迄の出現割合は4%。

 そして明け方4時以降の出現率は3%となっている。

 もっとも割合が増える22時から24時迄の時間帯の出現率は31%を記録し、翌2時までの時間を合わせると58%という数字になる。

 ちなみにに出現率の低い時間帯に出現するNMは小型な物が多く、それ程脅威にはならないが、出現率が高い時間帯になれば、人間にとって脅威となる固体の出現割合も高くなる。


「とまあ、高校生のあなた達にとっては、一番眠い時間帯に出現する可能性が高い訳だけど、その辺りのケアはこちらでも考えてあるから、任せて欲しいわね」


 眞澄はそう言うと香織を見る。


「後は実践あるのみという事で、私の説明はこんな所だけど」


「そうね、じゃあ2人ともこの後は20時の訓練まで自由にしていいわよ。ただし食事は18時半までに済ませて置くように」


 香織の言葉に隆輝と晶は返事をするが、2人の表情には明らかに疲労の色が浮かんでいる。

 時計を見ると時刻は15時32分。2人はそれぞれ自室に戻ると、同じ様にベッドで横になった。

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