第7話
途中何度か電車を乗り換えながら、やがて明月学園と行先表示されたモノレールに乗車すると、同じ車両に不自然なほど大荷物の少女を見かける。
世間一般では春休み時期で、その時間モノレールにはそれ程乗客が乗っていなかった事もあり、少女はひときわ強い存在感を放っていたが、その存在感は荷物のせいだけではなかった。
その少女は手入れが行き届いた綺麗な長い黒髪に、しっかりとした顔立ち、そして白のブラウスに黒のジャンパースカートという服装から、見た目の年齢の割には、可愛いと言うより美人という言葉が
やがて目的の駅に到着すると、その少女も慌てた様子で多くの荷物を持ち降りようとするが、どう見ても1人で運ぶには大変な量だった為、見かねた隆輝は少女に近付いた。
「手伝おうか?」
隆輝の声に少女は驚くものの、すぐに険しい表情になる。
「結構です」
そう言うと、少女は乱雑に荷物を手に取り足早に去っていく。隆輝は唖然としながらも、仕方なくその少女の後を歩いていくが、少女の歩く速度は速く次第に引き離されていった。
下手に追いつこうとすれば余計に警戒心を抱かれると思い、隆輝は自身の歩くペースを落としつつ少女の背中を見送っていると、不意に少女の鞄から何かが落ちる。
「おい、何か落ちたぞ」
隆輝の声が届いているのか、そうではないのかは少女にしか分からないが、結局少女は振り返る事も無くそのまま歩き去った。
隆輝は少女が落とした財布を拾い上げると、ため息を一つ吐いて彼女の後を追った。
やがて隆輝は改札の前で少女に追いつくが、少女は慌てた様子で、手にした荷物を床に置きポケットを確認しては考え込み、鞄の一つに手を掛ける。
「ほら」
隆輝は少女に近付くと、財布を差し出した。
「あ!」
少女は声を上げて隆輝を見るが、その視線はやはり険しいものであった。
「さっき落としたんだよ。声かけたけど聞こえなかったみたいだったけどな」
隆輝の口調は責めているものではなかったが、それを聞いて少女は困惑する。
「す、すいません。ありがとうございます」
「どういたしまして」
隆輝は明るくそう言うと、少女の荷物を持てるだけ手にして改札に向かう。
「あ、あの、ちょっと」
「勝手に手伝いたいだけだ。気にするな」
その言葉に少女は残された少ない荷物を持つと、隆輝を追いかけて改札を後にした。
2人は駅舎を出た場所で立ち止まり、そこから見える明月学園を眺めていた。
その場所からは敷地の全容こそ分からなかったが、校舎の前には広大なグラウンドがあり、そこでは部活の練習が行われているので時折掛け声が響いている。
そして周囲に植えられた満開の桜が心地よい風に揺れており、それだけ見ていても飽きる事はなかった。
「そ、そこまで付き合って頂かなくとも、大丈夫ですが」
少女は相変わらず警戒しているのか、その口調は硬いものであった。
「俺も、ここで待ち合わせだから」
「そ、そうですか」
少女は再び困ったような表情を見せる。
「それにしても荷物多いよな。もしかして家出とか」
その言葉に少女はびくりと反応すると、その様子に隆輝も驚いてしまう。
「も、もしかして当たったのか?」
「ち、違う! そもそも、あなたには関係ない!」
少女は顔を真っ赤にして反論するが、隆輝はそれがおかしく思え、つい笑ってしまう。
「な、なんですか、人が怒っているのに失礼です」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと最初は冷たい印象だったけど、そうでは無さそうだなと思って」
「失礼です」
「ごめんごめん」
「全く」
少女は腕を組んでそっぽを向くが、怒る気が削がれたのか、その表情は幾分柔らかいものであった。
「本当に、失礼な男の人が多いです」
「何かあったのか?」
「私が一人旅だと知ると、皆ニヤついて変な事を言い出しますし」
「なるほど」
隆輝は車中における彼女の表情の意味が理解出来た。
「まあ、声を掛けたくなる気持ちは分からなくもないけど」
その言葉に少女は隆輝を睨みつける。
「俺から見ても美人だと思うし」
途端に少女の顔は赤くなり、慌ててそっぽを向いた。隆輝はそれ以上の事は言わず、再び桜を眺めていると、校内放送が鳴り響いた。
「ラクロス部の
その放送は2回繰り返されたが、その声は明らかに三田村香織本人のものであった。
「今の三田村さんだよな。と言うことは、待ち合わせはどうするんだ」
隆輝が呟くと、少女が不思議そうに隆輝を見ている。
「あなたも三田村さんを?」
「そうだけど、もしかして君も?」
「はい」
「俺は飛沢隆輝」
「変わった名前ですね」
「おい」
「失礼しました。私は
晶はそう言うと、隆輝に向き直り綺麗なお辞儀をするが、その所作から、それなりの礼儀作法に通じている事は感じ取れた。
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