ツムギノカケラ(10)
黄金色と呼ぶにはもの足りない、くすみがかった生命力のない草が、足首の高さに身を伸ばしている。
それを踏み分けながら川の側まで行くと鈴音が足を止めた。
「そこだよ、そこ。」
ふて腐れて歩調を合わせなくなった覇王が、二人から距離のある場所で橋の真下を指す。
鈴音が顔を向けるのに土方も倣う。
覇王の指先が示す場所に大きな石が数個、ごろごろと横たわっている。
「まぁ、そのくらいの場所で良いか。
どうせすぐに潰されてくだろうしな。」
跳ねるように覇王は斜面を下り、石の近くで足を止めた。
「じゃぁ、俺は素晴らしい感じに掘って積むから、お前は何か探して来いよ。
日にちが経ち過ぎてたら、もう何も残ってないかもしんないけどさ。」
「素晴らしいって、ただ穴掘って石積み上げるだけじゃねぇか。」
「うっさいうっさい。
今日はこっちの気分なんだよ。
こんなくそ寒いのに誰が川なんかに入ってやるかってんだ。
そんなもんお前の方が得意なんだから、自分でやれよ。」
女々しいな、たかが戯れ言で。
小さく溜息をつきながら、鈴音は草鞋を脱ぎ、川に足を踏み入れる。
何の会話か、少しもぴんとこない土方は、黙って二人の様子を見つめていたが、
女が袴をたくし上げ、川を渡り出すと流石に声を掛けた。
「お前、何やってやがる。
冬だって言うのに川なんぞに入って何するつもりだ。」
「静かにしてくれよ。
集中できねぇだろ、もぅ。」
五月蠅い言葉を背に受けながら、鈴音は川の中央まで進み、辺りをきょろきょろと窺っている。
振り返れば振り返ればで、覇王は草を引き抜き、土を掘り起こしている。ある程度の深さに土を抉ると、近くに石を積み上げだし、あぁでもない、こうでもないと、
謎の微調整を繰り返す。
蚊帳の中に入れてはもらえなかった土方には、何が何だかさっぱりである。
今聞いたところで、覇王も鈴音も答えてくれる様子はない。手持ち無沙汰ではあるが、二人の動きを見ておく以外に土方ができることはなかった。
数刻の後。
「もう諦めろよ。
時間が経ち過ぎて何もないだろう。」
土方には全く理解できない調整を終えた覇王は、鬼と共に川岸から鈴音を見守っていた。
「ん~。
ある気がするんだけどなぁ。」
ほぼずぶ濡れの鈴音が声を張ると、耳に抜ける優しい音が川面を跳ね耳に届く。
「じゃぁ、式神使おうぜ。
その方が早いじゃねぇか。」
億劫そうに答えながら頭を掻きむしる覇王。
「それじゃぁ、意味ないんだよ。
馬鹿覇王。
同じことを毎回言わせんなよ。」
「誰が馬鹿だ。
んなこと丁寧にやってるお前の方が馬鹿だ。
馬鹿鈴。」
「五月蠅いんだよっ。
気が削がれるだろうっ。
つか、探せよお前も。
終わったんだろ。
何呑気に見物してんだか。」
「やだよ。
ぜってぇ今日は手伝ってやんねぇし。
やだやだやだ。
あーあ、もうかったるいぜ。
んなわけだから、ほんな、お先にどす。」
舞妓気取りで仰々しく手を振ると、ふんっと乱暴に頭を振り、
覇王はどしどしざっざっと足音を鳴らしながら去って行く。
去り際に突き飛ばされた土方は、追い掛けて押し返そうとしたが、背後から水中を物色する音が再び聞こえ始めたため、本来目で追っていたものへ景色を変えた。
何探してやがんだか……。
正直、土方も付き合いきれない気持ちでいた。副長としての仕事は日々山積みである。それをほっぽりだし付いてきたというのに、見せられるのは男装した女の川遊びと、派手な男のよく分からない土掘りと石の積み上げだ。
こんなことなら自分も屯所に戻り仕事をした方が良い。
その旨を鈴音に伝えようとした時、橋の上を子供が駆けて行く。
「兄ちゃん、どこにするー。」
「鳥なんだから空に近いとこにしてやろうぜ。そこに墓作ってやったら、空がよく見えるだろー。」
橋板を踏み鳴らす音が大きく響いて消えていく。
覇王が積み上げた石を見ると、土方はその場から足を遠ざけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます