ツムギノカケラ(8)
術者二人が去った広間は静かだった。
その静寂を近藤が破る。
「なぁ、トシよ。
大丈夫だよな。
鈴音さんは帰ってくるよな。
覇王君の言葉は冗談だと思うんだが……。」
敬う者には寛大である。
伊達男の言葉が、土方の耳でこだました。絶対に大丈夫とは言い切れない気になる。整った顔が渋く歪む。
「静代さんを置いていっていますが、実は逃げるためのおとりだったりして。」
くすくすと笑う沖田。
「そうかもしれない。」
言葉数の少ない斉藤に注目が集まる。
「そうかもというのは。」
言葉が足りない斎藤に、藤堂が尋ねる。
「沖田の言うとおりかもしれないということだ。
今は部屋にいるかもしれないが、頃合いを見計らって姿を消すつもりも考えられる。
覇王樹が出来ることは、彼女たちもできる可能性があるのだから。」
「でも、仕方ないですよね。
私たちは役職に関しても、精一杯に考えた選びましたが……。
覇王さんが何か気に入らないというのであれば、その元凶は土方さんですから。」
沖田がお茶をすする。随分とぬるくなったお茶ではあるが、こみ上げる咳を押し
戻すにはちょうど良かった。
「何でもかんでも俺のせいにしてんじゃねぇよ。」
「え、他の誰のせいだって言うんですか。
覇王さんに無礼な態度を取ってしまうのも、鈴音さんを怪我させたのも、
手繰れば行き着く先は全て土方さんですよ。」
ぐうの音も出せず、鬼の視線はずらされる。
「ト……トシ……。
もし彼らに消えられでもしたら、俺たちは容保公にどう顔向けすれば良いんだ……。」
「報奨金も貰っちゃいましたしね。」
この世の不幸を一身に授けられたような近藤と、呑気にお茶を喉に流している
沖田。
土方からすれば、鈴音が帰ってくることに確信こそはないが、漠然とした安心はある。彼女についてほぼ何も知りはしないが、がさつさの中に真面目さが見え隠れしていることは分かる。そうでなければ、覇王が言い忘れた帰宅時間を、わざわざ告げたりはしないだろう。
足が広間の外に向かって動き出す。
「おい、土方さん、どこ行くんだ。」
間近を通られ焦りながら湯飲みの酒を喉に流す原田。
「……解散だ。
軍議は終了。
てめぇらもさっさと仕事に戻れ。」
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