ツムギノカケラ(5)
締め切った襖の隙間から忍び込んでくる冷たい風に、
鈴音は身を縮ませることはない。
だらけて畳の上に寝転がり、下手な繕い物をする静代を見つめている。
「本当に下手くそだな、お前。」
「五月蠅いです。
綺麗な部屋を使えるようになって良かったですね。」
「何百年やってもその程度って、ある意味才能だよな。」
「五月蠅いですって。」
不揃いな縫い目が目立つ手拭いが鈴音の顔面に叩きつけられたのと同時に、
障子の外から声がした。
「すみません。
局長達がお呼びですので、広間までお願いできますか。」
隠密任務担当の監察、山崎の呼び掛けに、鈴音は顔に乗った手拭いを息で吹き上げる。
ふわりと円を含んだ手拭いは、すぐさま顔に覆い被さり息苦しさを感じさせた。
「あのー。」
呼び掛けに何の返事もされないため、山崎は先ほどよりも大きな声で呼び掛けてくる。
「返事くらいして差し上げたらどうですか。」
普段であれば鈴音の代わりに返事をするが、繕い物のことを根に持っているため、静代は山崎に応えようとしない。
「すみません、あのー、広間には来て頂けますよね。」
「おい、呼んでんだろ。」
「知りません。
私が呼ばれている訳ではありませんし、繕い物の練習で忙しくありますから。
返事などできません。」
「繕い物、あたいの顔面に乗ってんじゃねぇか。
何練習してんだよ。」
「今、上手に縫うために手拭いをよく見ているのです。
まぁ、よく見えることー。
これで上手に縫えそうです。」
「よく見えるって、あたいの顔面に乗ってる手拭いの何を見てんだよ。
もっと近くで見ねぇと縫うための見当なんて上手くつく訳ねぇだろう。」
徒労溢れる静かなやり取りは、
普通に暮らす者からすると聞き逃してしまうものであったが、
隠密に特化した山崎には筒抜けである。
「返事くらいしろぉっ。」
散々に無視をされ無駄な会話を聞かされ続けたことで、怒りが沸点に達した山崎は障子を激しく開け放った。
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